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父と柴犬  作者: 蔵前
2/5

その二

我が家に柴犬が来た。

柴犬だ、洋犬じゃない。


柴犬を強調するのは、柴犬を飼うにあたり、我が家の柴犬の親を飼っている人に柴犬に関して色々教えてもらったからだ。

彼はチャンピオン犬を何匹も世に送り出して来た、柴犬のスペシャリストだ。

そんなすごい人が我が家を訪ねたのは、純粋に彼が愛犬の子供の行く末を心配したからなだけである。


「柴犬はね、女の子が飼う犬じゃ無いんだ。抑えが効かないからと言って去勢するのは止めて欲しい。無理だったら引き取るから」


柴犬は去勢すると性格が変わるそうだ。

柴犬の本性を愛せないならば飼わないで欲しいと、彼は言った。

親犬の飼い主がここまで柴犬の性質に拘るのは、柴犬は気性の粗さこそが柴犬の魅力なのだと言う事だ。それは柴犬は父が言っていたように、人間の為に熊に戦いを挑むものであらねばいけないからだそうだ。

そのためには飼い主の制止を一切聞かない仕様となっている、そうだ。


  凶器かよ?


「柴犬の品評会はね、最初に会場に全部入れて、他の犬に脅えた仕草を見せた犬から弾いて行くんだよ。血統や見た目を吟味するのはその後だ」


「普通の品評会と違うんですね」


「柴犬は気性が全てだから。だからね、芸も教えないで欲しい。柴犬は自分で考えて行動できるようにしておかなきゃいけない。だから、人の言う事も聞かないけれど、そこに苛立ったり悲しんだりしないで欲しい」


「言う事聞かないんですか?」


そこはびっくりだった。

犬は人間の指示にどれだけ忠実に従えるか、だったのでは?


「止めろで動きを止めたそこで熊に殺される。こいつらの敏捷性を失ってしまう」


「――本気で熊を殺る犬を育てていらっしゃるのですね」


「それが柴犬です。無理なら引き取ります」


「面白いですね。色々と今後もアドバイスください。品評会に出す犬を育てるなんて、凄く面白いと思います」


彼は犬の歯の手入れの方法など、色々と教えてくれた。

ただし、彼と話をしたのはそれ一回きりだ。

母がその後、勝手にその人に断りの電話を入れていたのだ。


「娘しかいない家に来ないでくれ、迷惑だって言ったの。もう来ないわよ。品評会?あなたも女の子なんだから、そんな男しか参加していない場所に興味持つのは止めなさい」


本当に残念だ。

私は母でない人に自分が育てられていたら、と今でも時々考える。

社会的に男尊女卑に遭っていると女は言うが、実際は女が他の女の可能性を潰し合った結果なんじゃないだろうか。

献血のイメージキャラクターが女性蔑視の存在だって騒いだけど、女の子が馬になっているゲームに文句付けないのは何故だろう、とか、女は家畜と記されている聖書の宗教に噛みつかないのは何故だろう、とも。


  いかんいかん、ここは父と柴犬の思い出を書く場所だった。


とにかく、私はチャンピオン犬を育てた人との邂逅を大事にして、彼がその時に教えてくれた事を大体は守って犬育てをした。

歯の白さを保つためのケアなど、犬の健康を保つための色々だ。


だがしかし、芸を教え込むな、は守れなかった

そこは、犬を飼った人は絶対に守れないと思う。


 スキンシップしたいじゃ無いか。

 お手って、最初に犬に言う言葉だよ!!


結果、私の柴犬君は、お手、お座り、伏せ、を生後半年で全部覚えた。

伏せと言って伏せする犬は初めてだった。

近所で出来る飼い犬いないよ。

お風呂上がりに、ブルブル、といえば、体をブルブルしてくれる。


  なんて賢いお利口さんなの!!


私は愛犬に対して物凄い感動を覚えたが、すぐに柴犬が芸を教えたらいけない犬だと身をもって知ることになった。

生後半年を過ぎて歯が生え変わる時期になると、お座りとお言えば後ろ向きに座り、私が彼の背中を撫でないと凄むようになったのである。


お手と私が手を出して言えば、お前何を言ってんのか分かってんの?という顔で私を睨むのだ。

でも、がっかりした顔をして手を下ろすと、彼は私に手を差し出してくれた。私はそこで毎回、彼に愛されているなあ、なんて思いながら彼の手を掴んでいた。


  結局私一番なんだよね、この子は、と。


「犬に芸を仕込まれてどうする。お父さんがっかりだよ」


父に言われて気が付いた。

そういやそうだ。

流れ的に私が奴に芸をしている格好じゃ無いか。


  本当に柴犬ってろくでもない。


本当に飼い主を守ってくれる犬なのか?

私が高校二年生となったとある日、私は柴犬の本質を見る事となる。



当時の新潟の柴犬愛好家は少々特殊でした。

いえ、最近を知らないので、今もこのような柴犬の作り方をしているかもしれません。

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