「『星座』には星に座る意味があるんだって」彼女は僕にそう言った
初めて彼女と言葉を交わしたのは、星が落ちてこないのが不思議なほど透明な夜空の下だった。
「『星座』には星に座る意味があるんだって」
白い息を吐きながら、彼女は屋上の手すりを越えようとしていた僕に言った。
固まった僕の手を取ると「やっぱり冷たい」と小さな手で擦ってくれた。
そんな意味なんてない、どうにか口にすると彼女は耳まで真っ赤にして
「キミを止めるのにそれしか思いつかなかったんだ」
俯いて顔を隠してしまった。
空を見上げると星々がいつもよりはっきり見える気がした。
だから彼女は「星に座る」なんて言ったんだろう。
「仕事に失敗したから飛び降りるのかと」
彼女は安心したような怒ったような顔をした。僕は、落ちこんだときは星を見る、と応えながら彼女に惹かれるのを感じた。
それから僕たちは一緒にいるようになった。
夏の休日、ソファに座る彼女は僕の肩に頭を乗せながら
「キミの星になれるだろうか……バカ、見るな。こう見えても私は恥ずかしがり屋なんだ」
分かってる。彼女はいつも隣で「バカ」と言うくせにすぐに抱きついて顔を隠すから。
この時はずっと一緒だと思ってた。
『もし私が死んでしまったら私よりいい人と一緒になって欲しい』
その手紙は彼女が消えてから届いた。
病気のことも書いてあったけどよく分からなかった。
ステージ4――ネットで調べた生存率だけが頭の中でグルグル回った。
彼女はずるい、何も言わずにひとりで決めて。僕の気持ちは考えなかったのかな。
『やっぱり私が一番じゃないといやだ。キミの星になりたい。最後のわがまま』
繰り返し読んだ、最後に書いてあった言葉。
彼女は本当に恥ずかしがり屋で、それを僕は知っていたはずなのに。
だから僕は、術後にベッドに横たわる彼女に辿り着いた時ひたすら詫びた。
彼女の中の恐怖に気づけなかったことを。
「あ、綺麗。ですね」
車椅子の彼女が澄んだ夜空を見上げる。ニット帽の端から白い包帯が覗く。
病院の屋上に広がる空にはあの時と同じように星々が瞬いていた。
オリオン座を指して、星座には星に座る意味があるんだと話すと
「そんな意味ないと思いますよ」
彼女はクスッと笑った。
僕は寒さで頬を赤らめる彼女の顔をじっと見た。
生きてる彼女とこうしていられるなら他は何も望まない。
彼女の中で、僕との記憶が消えていても。
頬に涙が伝う。彼女は不思議そうに僕を見る。
もう一度、彼女と日々を重ねよう。彼女とふたり、星になって座るために。
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