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市街地奪還作戦 4

伊達体育館

 夜が明ける。方面ヘリが夜間の監視を行ったが特筆するような動きは見られなかった。

 伊達体育館の作戦指揮所にも朝特有の空気感が流れる中、この場を預かっていた千葉幕僚副長はテレビ会議システムのモニターから退席。同じ時間を過ごした通信や非常呼集の人間も交替した。

 ここで5~6時間ばかりの休息を終えた松浦方面総監が再びモニターへ姿を現し、タイミングよく入って来た柏戸6師団長と顔を突き合わせる。

「休めましたか」

「眠りは浅いもんだったがな。そっちは」

「年のせいか2~3回は目が覚めました。何時間かは寝た筈です」

「全く眠れないよりマシか。夜間は問題無かったそうだ。済まないが今日の作戦で状況が許せば一時帰宅させて貰う。居ない間はさっきのように千葉幕僚副長が指揮を執るからそのつもりで。今から彼も一旦帰す」

「承知しました。幕僚副長ってもう1人居られましたよね。そちらは上番されないんですか」

「地本で海空との調整を担当中だ。暫くは戻せない。かと言って幕僚長は駐屯地業務も担ってるからこっちも下手に動かせん。38連隊に招集を出して念のため交代の人員を用意する準備に各補給支処との調整。警務、曹教、音楽で敷地内の警備配置も組み直している最中だからそっちとの兼ね合いもある。話の腰を折るが打ち合わせの時間を予定より30分ほど前倒したい。出来るか」

「通達しておきます」

 このやり取りから20分前後で3人の連隊長を含めた幕僚が集まる。一応だが定例会議と称されるものが朝食後の毎朝7時に行われる事になっていた。今回は松浦の要望を通して6時半スタートとなる。昨日の進捗と損害、消費された燃料及び弾薬の報告、今日の見通しが話し合われ、終わってそのまま朝食になり一同は外の駐車場で作られた糧食を胃に収めた。松浦は画面から消えて身支度に向かう。

 別に誰かが気を回した訳ではないが22即機の副連隊長がテレビのチャンネルをNHK総合に回した。

「ではここで福島県伊達市に関するニュースです。政府公式発表によりますと昨日行われた市街地奪還作戦は日没と共に初日が終了。50名近い生存者を救出したとの情報が入っております。新たに確認された死者、重軽傷者については集計中との事です。市街地は北、西、南の3方向から部隊が進み、北は伊達市立桃陵中学校、西は伊達市立保原小学校、南が阿武隈急行線保原駅から上保原駅の中間までを一時的な確保に成功。本日中にこれらの一帯を完全に奪還する見通しと思われます。市街地には未だ多くの市民が取り残されておりますが、伊達市役所には避難の陣頭指揮を執っていた市長と数名の職員が息を潜めている模様です。更に福島県警の発表では伊達警察署に避難の初期対応に当たった30名近い警察官。総務省発表で伊達地方消防組合消防本部にも最低限の機能を維持するため職員数名が残っている事が明らかになりました。えー……少々お待ち下さい」

 原稿が無くなったようだ。ヘッドマイクを付けたディレクターが映像に映り込んで新しい原稿をニュースキャスターに渡す。

「失礼致しました。ニュースを続けます。主な交通の規制に関する情報をお伝えします。東北新幹線、秋田新幹線、山形新幹線は上下線共に通常運行中です。東北本線は伊達市内から遠ざかろうとする人の波でダイヤに若干の乱れが生じている模様です。阿武隈急行線は向瀬上、富野駅間で運転を休止。瀬上駅、福島駅間で折り返し運転を実施中です。高子駅、向瀬上駅間の地域にまだ残っている方々に関しては福島県警による避難作戦が行われますので、誘導に従っての退避をお願い致します。新田駅、梁川駅、富野駅周辺にまだ残っている方々は自衛隊の指示に従って行動して下さい。富野駅以北についても折り返し運転が実施中です。続いて道路情報です」

 周辺で余り大きな混乱は見られないらしい。そんなものは既に通り過ぎた話でもあった。ニュースを聞きながら作戦2日目へと備えて動き出す。

 

西側監視ライン兼迫撃砲陣地 22即機&44連隊

 田畑や果樹園に軒を連ねる宿営用の天幕。必要なくなれば撤去して原状復帰するのが大前提だ。

 既に各班ごとで朝食、運び込まれたタンクトレーラ周辺で洗顔等の身支度も終わっている。あづま総合運動公園の段列には野外入浴施設も設置済みだがその辺のローテーションについてはまだ決まっていないため昨夜においては一先ず全隊員に清拭と衣類の交換を徹底させた。

 現在の時刻は午前8時。作戦開始時刻は9時の予定であるため部隊の移動準備が始まる。まず22即機が遺体安置のため確保した保原小に情報小隊の1個班が残っているので交替の人員を送り込む。そして新たに加わるのが6及び9後支の2個輸送小隊だがこれは遺体搬出を担当。WAPCを使った搬出も考えられたがあくまで隊員たちと生存者の輸送を主任務とする事になった。

「22即機は昨日の地点へ進出し待機。作戦開始時刻を待ちます」

「44連隊も現在地より南下、昨日に集結したポイントで待機に入ります」

 両連隊の1中隊長が行った報告後にそれぞれが移動を開始。片方は東進。もう片方は南下した。

 20連隊はここに居ないが西側監視ラインとしている広域農道の北方、阿武隈川の手前で同様に天幕を設置して休息を取っており、両連隊に呼応し前進を開始している。

 昨日同様アドニスが先行してこちらが制圧したエリアに入り込んだ生物が居ないかを確認。今回はFLIRを使用しての索敵が許される。初日は普通科部隊が屋内の捜索及び制圧に慣れるためと情報の齟齬によって現場の動きが膠着するのを避ける意味で多用しない取り決めが存在していた。連中もずっと同じ場所に居るかは分からないし動いてしまえば前の情報は確証が得られないものになる。

 熱源感知の結果、保原小を中心とした一帯は問題無し。桃陵中も同じく。

 44連隊が居た周辺は若干だが東の方向から流れて来たと思しき数体を確認。阿武隈急行線の向こう側には居ないのでそう考えて良さそうだ。これらの排除を無事に終わらせた44連4中隊はウエルシアのある交差点より東に進出し保原駅の確保に向けた準備に入る。

「LAV小隊を先頭に前進。保原駅前ロータリーを押さえて駅舎の内部検索を実施する。アドニスの報告で熱源は感知されていないが内部の状況は不明。保原駅を中心に北東は生物が多数存在しておりこれらの動向は上空監視に入るミヤギノハギから情報が得られる。何か質問は」

 立枝3佐が手順を説明。保原駅に向かうのは4中第1小隊が担当する。小隊長及び小隊陸曹と各班長が集合し地図を睨んだ。

「84mmは使用して構いませんね」

「諸々の許可は出ている。110mmも角度に注意して問題無いと思えばそれでいい。ただ地形はほぼ平坦だな。阿武隈急行線が一段高い場所を走っているから撃つならそこが理想的なポイントになりそうだが、射界が得られるか注意してくれ。緊急時の退避ルートもだ」

「分かりました。必要な場合は指示を出すが使うべき時は各班長の判断で許可し必ず報告するように。それと位置取りには要注意」

 小隊陸曹の質問によって無反動砲とLAMの使用を躊躇わなくていい事が班長たちに伝わる。遠慮なくとは違うが、少なくとも判断する際の思考をスムーズには行える筈だ。

 懸念事項が頭の中から消える事は無いが全てのリスクをゼロにするのは不可能である。それでも上が融通を利かしてくれるのなら隊員たちの精神的負荷も軽くなるだろう。とは言え家屋への無駄な被害を避けなければならないのは確かだ。問題は奪還に時間が掛かるほどその建前も崩れて来る点である。

「他に無ければ本作戦の2日目を開始する。昨日行った349号までの一帯を可能なら掌握してしまおう。22即機はそこから先を担当してくれる。この北へ抜けていく青春夢通りが可能なら今日明日で押さえたいラインだ。1中隊の再検索が終われば合流してスピードも上がる。昨日の疲労は消え去ってないだろうがどうにか頑張って貰いたい」

 こうして4中隊は行動を開始した。1中隊は昨日内部検索した一帯を巡回して見落としがないか確認。終われば4中隊に合流する。

 3中隊は阿武隈急行線の向こう側に進出し工業地区の掌握に向かっていた。特筆するほど危険な工場は存在しないが事前の情報で逃げ遅れが居る事が判明しているため救出が必要だった。

「第1小隊前進」

 LAV4両が進み出す。乗員は運転手と銃座のみ。最後尾の4号車にだけは小隊陸曹も乗り込んだ。後方から4個班の隊員たちが徒歩で追従していく。

「この先の交差点で1号車は左折し北方向を監視。2号車及び3号車はロータリーへ入る。4号車は直進後にある信号の無い交差点、ロータリーの入り口がある所で待機し警戒」

 4両は小隊長の命令通り最初の交差点で3方向に分かれた。小隊陸曹が乗る4号車は最も危険な位置に向かい、道路上に数体の生物を発見したため停車と同時に発砲した。銃声を尻目にロータリーへ入った2両は保原駅の正面出入口を確保。後に続く隊員たちも交差点に達する。

 駅舎1階部分の窓ガラスは出入口も含め全て割れていた。床タイルに広がるのは何かを引き摺って乾いた血の跡。内部に駅員と思しき遺体も見えるが今は感傷的になる暇など無い。

「1班から3班までは駅の内部検索を実施。4班、ロータリー中心部で待機。LAVを支援しろ」

 小隊長と1班が駅に向かい2班と3班もそれに続いた。4班はロータリーの中心にある噴水周辺へ展開。2両のLAVを視界に収めて突発的な状況に備える。

 上空には既にミヤギノハギ3が待機し50口径を地上に向け睨みを利かせているのでよほどの事がない限りは大丈夫だが連中の数を甘く見てはいけない。下手をすれば1機第1小隊と同じ道を辿るだろう。何も楽観視せず行動していた彼らですら土壇場で来る焦りをコントロール出来ず、無残な最期から逃れられなかったのだ。

 保原駅に取り付いた3個班は直ちに内部検索を開始。割れたガラス片を半長靴で退かしながら内部へ入る。

 内部は右手に券売機とその奥に有人窓口の構成。窓口の仕切りになっているガラスは閉まっているが血で汚れていた。その下にあるのは駅員の遺体。一言で表すならズタズタだ。

「1班、改札を出て窓口の中を調べろ。2班はホームに出て状況確認。3班は2階だ」

 改札を出た1班は裏側から引き戸を開けて窓口内部へ。2班も続いて改札から出ると階段を駆け上がりホームに向かった。3班は2階へ上がる。

 駅舎2階はコミュニティーセンターが併設された場所だが、ひっくり返ったベンチや散乱するゴミ箱の中に遺体が点々と確認出来た。遺体はそのままで他の物を脇に寄せて空間を作る。勤務中だったセンター職員とここで電車の時間を待っていたであろう住民の遺体は損壊が激しく所持品を確認しなければ個人の特定は難しそうだ。LAVに予め積んであったポンチョを持ち出して上から被せ安置しておく。

「3班です。2階はクリア。遺体はフロア中央に安置しました」

「1班、窓口内部の検索が終わりました。遺体安置のため10分下さい」

 こうして保原駅の確保は完了。ホームでも2~3人の死体を確認したので駅舎内に運び込んで安置した。回収はまだ先になるが仕方ない。

「1小隊から中隊本部、保原駅の掌握を完了。手筈が整い次第で遺体搬出願う。送れ」

「確認した。次の行動に移れ」

「了解。これより住宅地制圧に向かいます。終わり」

 一仕事終えた気分だが今日はまだ始まったばかりなのだ。気持ちを切り替えて駅舎から出る。


伊達体育館

 2日目開始から約1時間。これと言った問題も無く作戦は進行中である。この隙に解決しなければいけない議題を片付けるため松浦は口を開いた。

「二の次になっている事があれば進めてしまいたいが何かあるか」

「市役所に居る職員たちのコンディションが問題です。伊達署の方は依然として高い士気にありますが既に弾薬は底を尽いておりいつまでも強がりは出来ない状況です。消防も当然ですが対抗出来る手段が無いので精神的な不安を抱えています。一応問い合わせましたが消防本部と伊達署は道路1本隔てた距離なので最悪どうにかするとの返答がありました。しかしこの2つと市役所はある程度離れた位置関係にあります。向こうに何かあったとした場合、伊達署にはもう打つべき手がありません。市長は体力、精神的に参り始めているようでこちらの救助をいつまでも待たせる訳には」

 発言したのは44連隊長こと斎木1佐。取り残され続けている3者を気に掛けていた。伊達署からは自分たちが最後で構わないとの承諾は得ているも事態が急変する可能性はあり得る。

「耐えて貰うしかない。もし緊急手術が必要なら策を講じないでもないが今の段階でも最優先の救助対象は民間人だ」

「ではせめて伊達署に弾薬を届けるのは許可願えますか」

「ヘリが近付けば敵集団の注意を引く。次は護り切れない可能性が高いぞ。こちらの行動で県警の損害をこれ以上大きくする事は許されない」

「仮にですが敵集団を誘引ないし一時的に減退させてから接近するのは如何でしょう」

「策はあるのか」

「ドローンで物資空輸が理想的な手段ではありますがここは1つ、74式にやって貰う方法を考えました。パフォーマンスですが銃弾が手に入る上に戦車の姿を見る事で伊達署の士気を保ち続ける効果が得られるかと。それと面倒な報道を避けるため、もしやるならこの行動が実施される事も公式に発表してしまいましょう。ただし一部、どうしても障害になってしまう場所があるのでそこの許可も頂ける事が大前提です」

「……話だけ聞こう」

 提案した内容は9戦大の74式1両もしくは2両で伊達署の南方向から接近。伊達署至近の伊達市保原プール横を通るアンダーパスは道幅的にリスクが大きいためここは通らず、盛り土された線路を突っ切らせて伊達署南側に取り付き弾薬を手渡すと言うものだった。車高的に架線を切断してしまう事はないが線路を損壊させる可能性は高い。

「線路の上を通っても感電はしないんだったか」

「その筈です。変電所は無事ですので阿武隈急行へ話を通し一時的に送電を止めて貰う事も可能でしょう」

「9師に連絡は」

「現場の人間には承諾を得ました。出番がまだ先となれば否応にでも士気が下がります。何かしら役割を与えた方が彼らも喜ぶでしょう」

「一旦預からせて貰う。県警を含めて方々に根回しして見よう」

 議題が次に移る前に松浦は各所へ話を投げた。阿武隈急行については県知事を挟んで承認を貰い、送電も念のため作戦実施中は停止する事となる。

 県警の反応は現実味が無さそうな感じだったが実施出来るなら本当にやると分かった時点で38口径弾の集計が始まった。本件における対応でほぼ使い切りそうな勢いだったが残り少ない物を搔き集め1人当たり最低3回は再装填出来る数が押さえられる。

 至近の警察署は当然だが警察学校からも弾丸の輸送が決定し教官はおろか助教も目を白黒させるハメになった。

 そんな県警の騒動は露知らずヨークベニマル駐車場に鎮座する9戦大2中1小の74式周辺では隊員たちが地図を広げて伊達署への移動ルートを考えていた。いつでも出れるよう命令はされていたがどうしても暇を持て余す結果になっていたので彼らには有難い話だった。

「広域農道を南下して一旦阿武隈急行の向こう側に出て東進。工業地区を迂回してこの辺の田園地帯を走破し伊達署へ。これが無難か……」

 小隊長を務める松田1曹が地図に蛍光ペンで大まかな移動ルートを書き込んだ。そこに砲手の石岡2曹が口を挟む。

「1曹、線路の上をずっと走るってのはどうです」

「保原駅のホームをぶち壊す気か」

「あ、すんません。ってか高架橋の所が持たないっスね」

「ほれ、斎藤が睨んでるぞ。よく考えないで物を言うなって顔してら」

 運転手の斎藤2曹はかなり険しい目付きを石岡に向けていた。こう見えて2人は同期である。

「そんな睨まなくてもいいだろ」

「目は口ほどに何とやらって事だ。途中駅とアンダーパスの部分が無ければそれも手だが今回は使えん。誰か他にあるか」

 2号車以下の乗員たちも意見を述べる中、話を持ち掛けて来た斎木連隊長が姿を現した。

「やれそうか」

「不可能ではないと思いますが露払いはどうなります」

「調整している最中だ。恐らく2対戦が一時的に攻勢もしくは誘引を行うだろう。ヘリは気心の知れた9飛行を1機付ける。それと22即機からWAPC1両で普通科1個班が随伴だ。いつやるかはもう数時間ばかり待ってくれ」

「了解。こちらはいつでも」

「中隊長にも話を通したい。何所に居る」

「あっちの天幕が中隊本部です。さっき通信に呼び出されてたようなので恐らくその件を上から言われていると思います」

「分かった。済まない」

 松田が指を指した天幕に斎木が近付いた。中から中隊長が出て来てここからでは聞き取れないが何かしらの会話が始まる。

「いよいよ出番ですね」

「小手調べだ。周辺の地形をよく観察しろ。万一の際は戦車を捨てて逃げる事も躊躇うな」

 相変わらず言動が軽い石岡だがこの状況においてはむしろ精神的な落ち着きを周囲に齎すためある種の優れた才能と考えていた。まだ本格的な役回りではないがウォーミングアップだと思えばいい。どっちにしろいつか出番は来るのだ。

2/17追記


残業続き&休出を繰り返している状況ですので2月の更新は見送らせて頂きます。仕事が落ち着くまで再開しない可能性もありますのでご了承下さい。

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