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ぽんこつ探偵いずみんは謎が解けない

作者: 神楽坂神楽

 都内某所。見上げるほどの大きなビル…の裏にある小さくて古い建物。そこには探偵事務所が存在していた。


「あー---、今日も暇だなー--」


 そこに佇むは一人の少女と男性。少女は椅子に座ってクルクルと回っている。男性は事務処理をしているようだ。


「東条先生、暇ではないです。仕事をして下さい。メール見てますか?催促のメールが沢山来てますよ?」

「知らないもん!そんなの、探偵の仕事じゃないでーす」


 はぁ、とため息を吐き、男は仕事を進める。パソコンは2台あるはずなのだが、男が現在向き合っている1台しか使われていなかった。男は画面を2つ使い、少女の分まで仕事を進める。

 この少女は東条いずみという探偵であり、男はその助手で横山という。

 紆余曲折の末、この『東条探偵事務所』を2人で切り盛りすることになったのだが…。いかんせん、主であるはずの東条が仕事をしない。『探偵らしくないから』という理由で、である。そもそもこの事務所は探偵事務所を謳ってはいるいるが、探偵の仕事なんてろくに来ていない。横山が考案した副業でなんとか賄っている状態だ。


「まぁ、僕でも出来ることだからいいんですけどね。えぇ、僕に出来る範囲のものしか残ってませんからね」


 自分の主が仕事をしないことを憤りつつ、無理に自分を納得させる。横山は元々大手商社で働いていた。そのためスペックは高く、最低限の協力さえあれば横山一人で仕事をこなせてしまうのだ。

 しかし、しかしだ。自分が出来るからと言って東条が出来ないわけではない。彼女は『やらない』のだ。それを許容するのには少々、時間がかかるのだ。


「はー--、仕事来ないかなー--」


 仕事を必死にこなしている部下がここにいるというのに、なんてことを言うのだろうか。

 叫びそうになる気持ちをぐっと堪え、メールを見て対応していく。

 すると、一つ、面白いメールが見つかった。


「先生、仕事、ありますよ」

「また撮影とか?嫌でー--す。私は今、探偵をしているの。探偵の仕事をしたいの」

「先生、探偵の仕事です。人を、探して欲しいそうです」

「だから、探偵の―――え?今人探しって言った?」


 東条がクルクルと回っていた椅子を止め、横山の方へと顔を向ける。

 そして、


「今すぐ、仕事始めるよ!!ほら、早く!!」


 と急かし始めるのであった。横山は笑いながら従う他なかった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 依頼の内容は『1ヵ月間行方不明になっている兄を探して欲しい』というものであった。

 詳しい話を聞くため、横山は依頼人を事務所に呼んだ。


「あ、あの、はじめまして。桜内≪さくらい≫まほと申します。えっと、この度は―――」

「いらっしゃい、私は東条いずみ。この東条探偵事務所の責任者だよ。気軽にいずみんって呼んでね!」


 依頼人、桜内まほが少し驚いたような顔をする。それもそうだろう。まさか、こっちのちっちゃい方が探偵だとは思ってなかったであろうなと横山は思った。自分でも、未だになんでこの子が探偵なのかと思わなくもない。しかし、本人がやりたがってるんだから仕方がないだろう。


「えー、一応この東条先生の助手をしております。横山です。すみませんが、改めてご依頼内容を確認させていただいても?」

「は、はい!えっとその、兄がですね、行方不明になってしまいまして―――」



 要約すると、彼女の兄、桜内智之≪さくらいとしゆき≫は大学生らしい。進学にあたり、上京するも初めての一人暮らし。家族は心配しており、毎週連絡を取るようにしていたらしい。しかし、今から1ヵ月前から音信不通になった。最初はどうしたものかと思っていたが、3週間経ったあたりで不審に思った親からまほは兄の所在を見てくるよう指示されたらしい。

 兄の家に向かえば問題ないと思った。どうせ連絡してなかっただけだろうと思った。

 しかし、実際には部屋に兄はいなかった。管理人の人に連絡して、部屋を見せてもらったが兄がいた痕跡こそあれど、その姿はなかった。

 仕方なく、まほは兄の通う大学に向かうことにした。兄の大学の、兄の通う学部。事前に確認していた兄が履修していた講義に向かった。そこで得た結論は、兄が3週間大学に来ていないという事実であった。


「で、うちに依頼したと」

「はい…色々と探してみてここが一番、その―――」


 安かったから、だろうな。お試しに探偵雇うにはちょうどいいだろう、その金額で設定していた。その目論見が遂に当たったので、正直内心では笑ってしまっていた。


「私達は、その大学生のお兄さんを探せばいいんだね!だいじょーぶ!この名探偵いずみんに任せなさ―い!」


 まほが苦笑いしている。「ここに来たのは失敗だったかな」と考えていることが手に取るように分かる。まぁその予想を裏切ることだけは保証しようと内心では思った。


「こちら、連絡先になります。何かありましたらこちらから連絡いたしますので」


 そう締めくくり、横山はまほを一度帰らせることにした。




 まほが帰った後、探偵事務所の中では―――


「で、横山。これ、どうすればいいの?」


 先程まで自信はどこへやら…。何の考えもなしに発言していたとは。いつも通りのことなので受け流すが。


「まずは足取りを辿りましょう。大学、バイト先、そしてSNS。なるべく全て探していきますか」

「足取り!うんうん、探偵っぽくていいね!じゃあ行こ!」

「はいはい、準備は出来てますよ」


 横山は既に彼が通っていた大学、バイト先、SNSを調べている。後は大学やバイト先の友人・知人関係に聞き込みに行くだけだった。

 横山は東条が今回、どのように事件を引っ掻き回すかを楽しみにしていた。




①バイト先の先輩

「桜内君ね。彼はとても真面目な子だと思ってたんだけど…。最近連絡が付かないんだ。休むなら休むで連絡して欲しかったんだけど。こんなに長く連絡付かないなんて、何か事件に巻き込まれてないかと心配だよ」


②大学の講師

「桜内君?最近講義に来てないね。前期は毎回出席してたんだけど。優秀な子だと思ってたんだけどね」


③大学の友人

「え、桜内?あー、確かに最近見てないかも。最後に会ったの…飲み会の時かな!あぁ、勿論俺たちは飲んでないぜ?未成年だからな、当然だよな。そんときあいつ、なんか知らない女と一緒に居たなぁ。そういや途中で抜け出してたかも」


 今回の聞き込みでは、以上のことが分かった。


「横山、分かったわ!依頼人のお兄さん…名前なんだっけ?」

「智之さんですね」

「そう!智之さんは飲み会で女の子と知り合った!そしてその女の子と意気投合!そのまま爛れた関係になって引きこもってるに違いないわ!つまり智之さんはその女の子の家にいる!」


 安直だなぁ、と口に出さなかったことを褒めて欲しい。まぁ、一番簡単な結論はそうだろうなと思った。大学生ではよくある話だろう。真面目だった学生が女性関係で堕落するというのは自分の知り合いも陥っていたことだ。

 そんな単純な結論であれば楽なのだけれども。


「それで、いかがいたしますか、先生」

「いつも通り、場所探してくれる?会いに行くよ!」

「はいはい」


 難しいことを簡単に言ってくれるな。とは言え、伝手はあるのだから問題はない。


「もしもし、俺。いや詐欺じゃねーよ、横山だって。悪い、いつも通り人捜してくれね?あ、報酬?いつも通りでいいか?あいよー、先生に頼んでおくから。はいはい、期待して待ってろって」


 得意先の情報通に連絡をし、桜内智之を探すように依頼した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 対象が見つかるまで、2日程度で済んだ。相変わらず優秀な女だ。その手際には舌を巻く。

 居場所は都内のネットカフェ。隠れるように過ごしているらしい。


「先生、この部屋です」

「ありがとう、横山。入るわよ」


 東条は3度ノックをしてから声をかける。


「桜内さん、入りますね」

「え!?」


 答えを聞く前にドアを開ける。するとそこには半裸の男性がいた。

 顔は間違いなく、探し人である桜内智之であった。


「え、や、あ、あ、あの…!」

「へ、変態!?痴女か!?」

「ち、ちが、失礼します!!」


 東条は慌てながらドアを閉める。返事を聞かずに開けるからだ、まず常識を学んでもらいたいものだと思った。

 少し時間が経って、桜内の方からドアを開けてくれた。


「え、まだいるし…。あんたら何者?」

「え、え、えと、私は―――」

「うちの者が大変失礼致しました。私達、『東条探偵事務所』の者です。私は横山、このバカーーーもとい、少女は東条いずみ。こっちが探偵で私は助手です。私たちはあなたの妹さんから依頼頂き、あなたを探していました」

「へ、あ、あっ」


 未だに赤面している東条に変わり横山が説明をする。すると、桜内は一瞬言葉を理解するのに時間がかかったようだが、すぐさまドアを閉めようとする。そこに足を差し込み、ドアを止めた。


「お話、聞かせてもらいますね?」


 こんなところでは、と切り出し近くにファミレスに連れて行くことにした。

 桜内は姿を隠すようにフードを被って店から出た。



「で、えーっと、よしゆきさん?あなたは飲み会で女の子といい感じになって飲み会を抜け出し、その、爛れた関係を持っていたものの振られてしまった。だから恥ずかしくて大学にも顔を出せず、あんなところで暮らしていた、そうね?」


 ご飯を注文するなり、東条は桜内に話を切り出す。

 どこからそんな話は出てきたのだろうか…。そもそも名前はよしゆきではなく智之だ。


「え、いやそれは―――」


 否定しようとする桜内を制止し、横山が話し出す。


「安心してください桜内さん。貴方の問題は私どもが取り除きます。その暁には家族の方に連絡をし、大学に戻られることを約束してくれますか?」

「だから―――」

「大丈夫です。私に任せてください。私は分かってますので」

「―――」


 横山の意図をくみ取ったのか、桜内は返事をする。


「分かりました。俺の問題を解決されたら、必ず」

「うんうん、家族は大事にしてね!いつ会えなくなるか分からないんだから!女に振られたくらいでめそめそするなよ?よーっし‼事件解決―‼横山、後は任せたわよ!」

「承知しました、先生。事務所に戻って頼んでいた仕事をしておいてください」

「仕事…?あー、あれね。はいはい、探偵の仕事手伝ってくれたし、やっておきますよーっと」


 そう言い残して東条は店をあとにした。

 そして残された2人は―――


「で、本題は所謂、美人局、ですよね?」

「本当にそんなことまで…。仰る通りです」


 東条の推理は女関係、というところだけが当たっていた。

 ただ、実際には飲み会で知り合った女性と関係を持った者の、実はその彼女は既婚者。その浮気現場に乗り込んできた怖い大人に金をせびられ、ネカフェに逃げ込んでいたというのが事実であった。


「怖くて、何とか逃げ出したんですが、家に帰ったら見つかるんじゃないかと思って、それで大学も行けなくて、ネカフェにずっと泊ってました」

「ふむ。ちなみにその相手というのは分かりますか?」

「えっと、球磨川組の、堺という男です。300万出せと言われて…」


 なるほど。球磨川組か。


「分かりました。それでは、球磨川組に参りましょうか」

「え?え!球磨川組に、ですか?」

「大丈夫です。私は顔が広い。そして弁護士の資格も持ってますので。まぁ、商社で働いてたり自称探偵の助手をしてたりで弁護士を職業としたことはないんですけどね」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 そして桜内は横山に連れられて、とあるビルの一室へと足を運んだ。


「さて、ここが球磨川組です」

「ほ、本当に入るんですか?」

「えぇ。不安は取り除きたいでしょう?それに球磨川組であれば、ちょうどいい」

「ちょうどいい?」


 ちょうどいいとはどういう意味だろうか、と確認する前に横山はドアを開けた。


「失礼します。東条探偵事務所の横山と申します。こちらに堺さまはいらっしゃいますでしょうか?」


 中には屈強そうな男たちが10人ほど。それに臆することなく横山は話しかけている。


「あ!なんだお前は!」

「あ、あなたが堺さんですか?もう一度名乗りますね。東条探偵事務所の横山と申します」

「ちげーよ!名前を聞いてるんじゃない!何の用だって聞いてるんだよ!」


 怒鳴り声。そこに見えるは確かに自分を脅してきた男、堺である。

 その後、こちらを向いて―――


「なるほどな。あんときのガキか。人の女に手を出しやがってよ!そのくせ探偵を雇う?は!何様だお前!」

「失礼、私は探偵ではなくその助手です。ついでに弁護士の資格も持っております。こちらを拝見ください」


 横山は弁護士バッチを見せる。本当に資格を持っていたのかと桜内は驚嘆した。


「べ、弁護…いやしかし兄さんよ、自分の女に手を出したのはこいつだぜ?それなりの筋を通すのは必要じゃねぇか?」

「えぇ、まぁ。既婚者と関係を持つことは所謂不倫。慰謝料の請求は妥当ですね」

「だ、だろ?だから―――」

「しかし、そこに裁判所を通さず直に金額を請求するのはいかがなものかと」

「くっ」


 おぉ、横山が堺を言い負かしている。これはどうにかなるのだろうか、桜内はそんなことを考えていた。

 しかし、


「おいおい、人の事務所来ていきなり何の騒ぎだってんだ。探偵だか弁護士だか知らねぇが、ただじゃおかねぇぞ!」

「そうだ!兄貴、やっちまいましょう!」


 後ろに立っていた男たちが会話に乗り込んできた。

 一人でも怖いのに、それが複数人。桜内は震えが止まらなかった。

 だが、横山は一切動じた様子を見せない。


「私は、まぁ、今回は探偵として参っております。依頼はあくまで『桜内智之氏の安否確認及び元の生活に戻すよう促すこと』。桜内氏のことを不問とするなら大目に見てあげようと、そういってるのですよ?」

「大目に見る、だと?てめぇ、何様のつもりだ!」

「好き勝手言ってんじゃねぇぞ!」

「あぁ、そうですか。では、仕方ないですね」


 横山はポケットからスマホを取り出し、どこかに連絡しようとする。


「てめ、サツを呼ぶ気か!させるかよ!」


 焦った堺は横山を止めようと殴りかかるが―――


「あぁ、ご無沙汰しております。横山です。お元気でした?いえいえ、顔を出せず申し訳ありません」

「は!?」


 堺の腕を片手で受け止め、何事もなかったように電話を続ける。


「東条先生?いつも通りですよ。あの方は一体、何がしたいのやら。今も尻拭いの最中です。あぁ、そうでした、その件でお話が。お宅の堺さんにちょっとしたお願いをしてるんですがなかなか聞いてくれなくて。一言口添えしてくれませんかね」


 そう言ってスマホを境の方へと向ける。


「堺さん、お電話、出てもらえますか?」

「は!誰が!」


 断ろうとするにも、受け止められた右腕に力を込められ不満げな顔つきでスマホを受け取った。


「堺だ。あんた一体―――組長!?たたたた、大変失礼しました!はい!はい!承知致しました!けじめ…はい、なんでも、やらせて頂きます。はい」


 組長…?なんだか不穏な単語が聞こえた気がするがその後しばらく電話が続き、終わった頃には堺は土下座していた。


「誠に申し訳ございませんでした。まさか組長のお知り合いとは思わず…。このケジメ、必ずつけさせていただきます。横山さん、なんなりとご命令下さい」

「あ、兄貴!?」

「てめぇらも頭下げろ!組長のお客様だぞ!小指じゃすまされねぇ!」

「は、ははぁ!」


 その場にいた全員が土下座をするという状況になってしまった。

 桜内にはもう、なにがなんだかよく分からなかった。


「いえいえ、どちらかと言えばお客様なのは球磨川様の方です。まぁ、私の方から球磨川様にはお話ししておくので組内でのお咎めはないと思いますよ。ただ、桜内さんを見逃して欲しいというのと、今後何かあったらお手伝い、してくれませんか?」

「はい、勿論で御座います!桜内さん、この度は大変申し訳ございませんでした!」


 とりあえず、自分の問題が解決したということだけは何とか理解できた。

 ただ、安堵よりも疑問の方が多くなってしまったが。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 帰り道。あの後宴を開かれそうになるのを横山がやんわりと断り、桜内は久方振りとなる自宅に戻ることにした。


「結局、何がどうなってたんですか?」

「何が、と言われると困りますが…。最初は法的手段でも用いてやろうかと思ったんですが、相手が球磨川組だったので。ちょうど、組長さんと知り合いというか、懇意にさせて頂いてたんですよね」


 何をどうしたら組長と懇意になるのか。桜内にはさっぱり分からなかった。


「これで問題は解決しました。家族にはそうですね…。東条先生の言う通り失恋したショックとか、そんな話にしていただけますか?その方がどちらも、都合がいいでしょう?」

「あー--、はい。分りました。この度は本当に、ありがとうございました」

「いえ、お礼を言うなら妹さんに。数ある探偵事務所から我々を選んでくださったお陰ですよ」


 「それではまたご贔屓に」そう言い残して横山は消えていった。

 桜内は今回の経験を忘れないようにしようと思った。後何かあったらまた東条探偵事務所を頼ろうと決意した。


 ただ、翌日以降、しばらく球磨川組の人たちが送迎してくれるようになり、学友たちから距離を取られることをこの時はまだ知らなかった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ただいま帰りました」

「横山!遅かったじゃない!もうこっちは準備万端よ!」


 横山が事務所に戻ると、東条は猫耳のメイド姿をしていた。

 決してふざけているわけではない。これも仕事なのだ。


「はぁ、この一瞬のために毎日仕事をしてるといっても過言ではない」

「何を言ってるの!ほら、早く撮影して!一人じゃ出来ないんだから!」


 撮影。チェキと言われるインスタントカメラから出される小さなポラ写真の撮影だ。

 

 東条いずみ。彼女の正体はかつてメジャーデビューこそしなかったものの、大きく活躍していた地下アイドルであった。今はもう引退をし、祖父の探偵事務所を引き継いでいる。

 しかし、引退から5年経過した今でも、彼女の熱狂的なファンは多く存在し、横山はそのファンに東条の写真やグッズなどを渡すことで探偵業サポートの報酬としている。

 桜内の居場所を突き止めたのも彼女のファンであり、その報酬が『猫耳メイド服姿でのチェキ』らしい。


「東条先生、今日も似合ってますよ!」

「もう!いずみんはもう探偵なんだから!本当はこんな衣装来ちゃダメなんだからね!探偵の仕事の手伝いの報酬っていうから仕方なく着てるだけだもん!」


 東条いずみはアイドル引退後、表舞台に出ることを嫌っていた。引退して尚表舞台に出るのなら、何故引退したのかというプライドからだ。

 その為、かつてアイドルをしていた頃のようにコスプレをすることがなくなったのだ。今回のように探偵の仕事に関係しない限り。


「はーい、じゃあ撮りますよー!」

「うん!しっかり可愛く撮ってね?」


 引退したアイドル東条いずみ、彼女のコスプレした衣装を見る。横山はその為だけにこの事務所に勤めており、その為だけに仕事をしている。

 『探偵の仕事』という大義名分を付け、東条にコスプレ衣装を着せ、その姿を見ることこそが生き甲斐なのだ。

「あ、あと球磨川さんにも今回世話になったのでお礼を送らないといけません」

「球磨川さん!?あのおじいちゃんの!?えー!まだいずみんのこと好きでいてくれてるんだ!なにがいいかなー」

「和服姿がいいと言ってましたよ」

「ふーん。じゃあ和服でポスターでも作ってサインとメッセージ書いておこうかな。へー、嬉しいなー、球磨川さん元気かなぁ」


 かつて多くいたファン。その中で唯一東条と合法的に接することのできる存在。それが横山である。 

 東条探偵事務所助手、横山。彼こそがこの世界で1番の東条いずみの狂信者なのであった。


書けって言われたから…。

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