既に居ない者
誤字報告とかあれば非常に助かります
——森とくまさんスプラッタ事件から、数日が経過した。
あれからハルニアは、自身が元々持っている潜在能力を確認する為に奔走し、精神的にも身体的にも——魔導人形に身体疲労など存在しないが——安定してきている。
現在は、異世界にも何故か当然の様に存在する太陽が、紅掛空色を映し初めている時間。
ハルニアは、朝食を作るカザルメの背を眺めながら、自分が手に入れた力やその身体能力に対して感慨に耽って——
(カザルメって、見れば見るほど可愛いなぁ……)
——はいなかった。
精神的余裕を手に入れたハルニアは、元の性別の事もあってか、のんきにカザルメの背中を目で追うなどしていた。
……流石に手を出してはいないが。
カザルメは、ハルニアの中身が男である事を認知していないようであり、ハルニアに対して少々ノーガードな面がある。
それに対してハルニアは、自らが男だと中々言えないのだ。
その理由は罪悪感でもあり、そして、「この世界では『ハルニア』として生きたい」という周防優斗本人の考えでもある。
「あ、飲み物とフォーク用意しますね」
「ありがとうございます」
ずっと座っているのも忍びない、と食器云々を揃えるハルニアと、自然な形で返答するカザルメ。
これが日常になりつつあった。
「「いただきます」」
挨拶をして、そして食にありつく。今日はトーストと目玉焼き——西洋でよくありそうなラインナップ——である。
食材などは、稀に家に訪問して来る人たちと物々交換をして手に入れているようだ。
こちらの提供物は、ハルニアが見る限り、大きな熊の肉と小さな石(魔石なのだそう)である。
「おいしいです!」
「私も人と一緒にご飯を食べるのは久しぶりだったので、すごく嬉しいですよ」
ハルニアがトーストを齧りながら、目玉焼きの隣——これまた西洋の朝食で出て来そうな見た目のベーコンをちら、と見る。
——そう、この肉はあの「大きな熊」の肉なのである。
正しい名前はビッグベアー。ネーミングセンス皆無のそのまんま大きい熊なのだが、なんとこの熊、可食なのである。
カザルメ曰く「エルフの森にはよく生息していたので、盛んに食べられていた」のだそう。
ハルニアの想像する以上に肉食系だったエルフはさておき、その大熊は、カザルメ曰く、「人里ではまぁ凶暴且つ強い魔獣(普通の動物と魔獣は違うらしい)」らしい。大抵の魔法がその分厚い毛皮に阻まれ、柔な弓矢や銃では歯が立たないらしく、見つけたら近づかない事が鉄則なのだとか。
ここでお気づきの方もいらっしゃるだろうが、ハルニアはこれをミンチにしてみせたのだ。しかも後ろの大地まで。
——その圧倒的な魔法攻撃力、そして魔法を操る力。それこそがハルニアの潜在的な能力、というかハルニアの基本スペック。
そもそもとして、魔法というのは朝教わったからといって昼使えるものではない、というのは後日カザルメに語られた事だ。
基本、魔法というのは、というか何にしろ反復練習というものが必要であり、それ無しに魔法を行使する事はできない。
だがそれはあくまで基本なのであって、魔導人形たるハルニアにそれはほぼ必要無いのである。
何故ならば、ハルニアには機械由来の頭脳があるからだ。機械の記憶に「削除」はあれども「ド忘れ」は存在しない。
そして何より、そのハードが優秀なのだ。だから、人間の人格が焦って怖がっても、制御を間違えようが失敗することは無い。
それが生み出したのが過去の光景、即ち森とくまさんスプラッタ、なのである。
何と形容すれば良いのか、言うなればそのまんま微塵切りの肉片となったくまさんに、ハルニアはそれほど吐き気などを催さなかった。
これはあまりにも現実離れした現象に脳がついて行けていないからなのか、はたまた人格定着基盤のせいなのかははっきりとしない。殺したという感触すらも残らなかった。
「私がこれを言うのもなんですが、……ヴァイゼさんとも一緒に食べたかった、ですね」
「……そう、ですね」
熊ベーコンとトーストを食べながら、少し悲しい雰囲気で話すハルニアに、さらに悲しい顔になったカザルメが同意する。
——ここ数日で判明したことは、ハルニアのスペックのみでは無かった。
カザルメとの何気ない会話、その中に混じっていた、「彼は一体どこにいるのか」という言葉に告げられた事実。
彼——ヴァイぜ・キャンディッドは、既に死んでいたのである。
早く一章は完結させたいのですが、ヴァイゼ、カザルメ共にキーパーソンなのでご容赦を……




