外の世界(圧倒的森)
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「うわぁ………?」
周囲には一面の草原。走り抜ける風は森の匂いを優しく届け、つられて先を見た視界には遮るように木々が並んでいる。そして上を見れば夏の青々とした大空が広がっているが……
「えっと………森、ですか」
「まぁ、辺境ではありますよね」
少なくとも住宅、もとい街があると思っていた。なぜか? それは簡単。
「こんなに人気が無いのに、いちいち研究室を地下に隠したんですか……」
「それは……彼の趣味だったので」
単に地下に研究室を作る事へ浪漫を感じていたのか、はたまた幼女愛好を、存在しない人の目から隠したかったのかは敢えて訊かずに、ハルニアは苦笑いしつつ振り返って、もと居た家の外観を見る。
赤い屋根の一戸建て。近代建築を彷彿とさせる出で立ちと、その新築のような外観の綺麗さに、野生的な草原と森は少しミスマッチに感じられた。
新築のように綺麗なのは魔法に似たロジックがあるのだろう。いいや、魔法であると『ハルニア』は確信している。
「にしても……本当に、『ぽつん』って感じですね」
「ここも元々森だったんですけど。……周りの木はかなり前、というか家を建てる時に伐採してからずっと管理してますから」
半径100mほどだろうか。家を中心に綺麗に管理された草原は、草丈がちょうどくるぶしあたりに生え揃えられている。管理されているとはいえ、玄関を出てすぐ草原なのは些か違和感を感じ得ないが。
その半径100m以内には木の一本すら生えていないので、より家が寂しそうに見える。
「まぁ……これ以上ボヤッとしていても埒が明きませんし、そろそろ行きましょうか」
「あっ、りょーかいです」
——————————
———
歩くこと数分。森の中を進行しながら、ハルニアは、昨日話を受けた「自身について」の情報を整理する。
——中の人物の話では無く、その後に話されたハルニアそのものについて、だ。
『ハルニア』……広義的には「魔導人形」に属しているそれは、この世界では「禁術」として禁じられているらしい。
「禁術」というのは、法的に禁止されている術の事で、他にも「死霊術」や「洗脳魔法」がこれに当たるそうだ。
だが、魔導人形に課せられている法というのは前述の二つに比べると少し緩く、簡単に言うと「作製するのは禁止だが、ある程度の制約の内ならば所持しても良い」のだそう。
「いやいや、作れないんだったら所持もクソも無いだろ」と言う声も上がると思われるのだが、そこはご安心。
——魔導人形は、稀に遺物として出土するんです。大半は壊れたりしているんですけど、それでも動く個体が見つかっていて——
約1000年前に戦争によって滅びた文明の技術。その技術の結晶だけは、色々な制約がありつつも使用を許可されているのだ、とカザルメは語った。
制約の内容は、一家系に一台だったり、貴族のみだったりと色々厳しいらしいが。
「うわっとと」
「大丈夫ですか?」
木の根っこに足を躓かせてたたらを踏んだハルニアに、カザルメが心配の声を掛ける。
「大丈夫……です」
鬱蒼とした森、生え伸びた枝の中をかき分ける。
ちなみに、今の服装はいかにもファンタジーな旅装だ。分厚い肌触りの布で出来た服の上に、丈夫な革で胸などを覆っている。靴は革のロングブーツ、そして小さな鞄を背負っており、髪は頭の上でコンパクトに纏められている。
魔導人形であるため汗をかかず非常に快適だ。だからといってこの道無き道が快適かと問われると全くもってそうであるとは言えないが。
目的地はまだなのかと心の中で悪態をつきながら先ほどまで考えていたことを掘り返す。
そう。先ほど魔導人形だけは法に違反しない部分があると語ったが、あれはあくまで「出土した昔の魔導人形」に関してのものだ。
つまり『ハルニア』は……100%法に違反していることになる。
だから人目のつかない地下に研究室を隠したのか、とその時話を聞きながら納得していたハルニアだったが、まさか地下室は趣味だったとは、なんともどう反応すればいいか困る話である。
カザルメはその日、ハルニアが持つ潜在的な能力についても語った。今回はそれの内の一つを検証するためにこの森へやって来たのだ。
などとまたもや考え込んで、今度は確実に転んでしまうかと思われた一歩手前でカザルメが立ち止まった。
「どうしたんですか、カザルメさ………」
「あれが目的の動物ですね」
ハルニアが、カザルメに呼び掛けようとして絶句した、その視線の先には、一頭の大きな熊。
3mはあるのではと思われる巨体。その頭部に付いた二つの眼光が、こちらを射抜いている。
「え、あれをどうするんですかね」
「今日の朝教えたじゃないですか、魔力操作の仕方。それで倒してみてください」
「いやちょっと待って」
確かに教えては貰ったし、その能力を確かめるために外に出たが、流石にこれは話が違うと訴えるハルニアをまるでものともしないカザルメは、そのまま離れて木の上に風の魔法を操って飛び乗る。
当然ハルニアにはそんな細かい制御はできない。
「いやま゙っ……」
「ヴゥゥゥゥゥ……」
ゆっくり、そして段々素早く近づいてくる熊に、ハルニアは怯えながらどうにかしないとと必死に教えてもらった魔法を発生させる。
「待ってまってまってまって!! すとっぷ! すと——」
「グルヴァァァァ!!」
「ヒィッ!?」
——逃げようにも、足が竦んで動かない。
「危険」が急速に、こちらへ近づいてくる。
魔法を構築させている間に差し迫る、平和な国では感じられなかった死の匂いは、魔法の扱いがまだ慣れない者に、無駄に力を込めさせてしまう。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
「ヴォッッッ!?」
熊がハルニアと衝突する寸前。恐怖から目を瞑ったハルニアの掌から放たれた一筋の風陣は、強烈な猛風を以って熊を、そしてついでと言わんばかりに前方の木々と大地を粉々にした。
チート感出て来ましたね。お待たせしました。




