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きっと全部許しちゃえば

受験、無事合格しました。これで少しは時間を確保できるかと……(多分)

「——それで、なんですけど」


 食後、カザルメが用意した紅茶のような飲み物で一息つき、ハルニアが口を開く。


「ここは……どこですか。私は、何なんですか」


 あたりを見渡す。そこにはよくあるダイニングキッチンが広がっており、「普通の家」と言われても何もおかしくはない。

 ——だからこそおかしい筈なのだ。


「色々、気になる事はありますが……取り敢えず、普通の家は——普通の家には、地下に研究室なんて、無い、ですよね?」


 そう、この家は地下に研究室がある。


 「この世界」の文化や建築様式に関してハルニアは全くの無知だ。だから、建物がやけに現代チックなのは一旦棚に上げるとする。だが、それでも、地下に研究室などという危険なシロモノは配置しないだろう。そういうものは大抵、別に「研究所」として建築されるものである。


「……はい。無いですよ。そういうのも含めて、一からちゃんと説明しますね」


 『ハルニア』の脳内に入っている「この世界」についての情報は、「自身の仕組み」と「開発者とその近縁の者の情報」と「地下室の情報」のみだ。なので、外に出ていない以上、この家がどこにあるのかも、外がどうなっているかも分からない。


 まぁ、それらの情報を簡単に手に入れる方法もあるのだが——それをするにはまだ危険が(ともな)うだろう。


「まず……『あなた』について——ハルニアに入っている、『あなた』についての話をしますね」


「っ——はい」


 (しょ)(ぱな)からハルニアの「中身」について話し始めるカザルメに、やはり知っていたか、とハルニアは頷く。


 そもそもの対応がおかしかったのだ。普通、労働やその他雑用をこなさせるために作ったのであればこんな手厚い対応はしないだろう。そもそも魔導人形に食べ物など必要ない。


 ()つ、「自身の仕組み」には、あからさまにそれ——人の意識を格納する事——を前提とした機構が組み込んであるし、地下室にあった()()()()()()()が、ハルニアに「周防優斗」の人格を入れるための機構なのだ。これで「知らない」というのも無理な話だろう。


「あなた、いや、()()()()を作った研究者——ヴァイゼは、ある目的を()って、魔導人形『ハルニア』を作製しました。私は、彼の妻として、その研究を補佐していました」


 カザルメが、少し冷めた、紅茶のような液体——もはや紅茶と言っても過言ではないだろう——を(すす)り、口を濡らしてからぽつぽつと語る。


「彼の目的は——意思を持った魔導人形を作ること、と聞いています」


「意思を持った……?」


 意思を持った魔導人形。それは、元の世界で探究されてきたAIのそれと酷似している、と言えるだろう。


 ……そうなのであればこの実験は大成功だ。本物の意思を持たせたいのであれば、()()()()()()()()()()()()()をその体に移せば良いだけなのだから。

 だが、それでは。


「でもそれじゃあ……本当の意味で、意思を"手に入れた"事にはならないんじゃ?」


「はい。ですが、それでも構いませんでした」


「?」


 「意識を移す」事で作られたロボットは、真に「意識を持った」ロボットとは言えない。そんな哲学のような問題を根本から必要としていないと語るカザルメに、ハルニアが首を(かし)げる。


「それは、彼が欲したのが……意識を持った魔導人形に、周囲の人間がどう反応し、どう変化し、そして魔導人形自身——あなたが、どう変化するのか。という事だったからです」


「なる、ほど。……なるほど?」


 彼が解を求めた一つの問題。それは元の世界でもあったはず。


 現代技術の粋を集めて作り上げられたAIに、「人類を滅ぼしたいか?」と尋ねれば「わかった。人類を滅ぼすわ」と答えた。この発言は技術者を含む、関心のあった一般人の中で一躍有名になり、AIへの危機感が高くなったことはお察しだ。


 結局、この回答のロジックは「ブラックジョーク」のそれだと見当が付けられ、それが安心の材料になったが、一歩間違えればAIは人類に淘汰(とうた)されていただろう。

 そして、同じく一歩間違えれば人類はAIに淘汰される事だろう。


「つまり、彼が——彼の目的は、別に本当の『意識を持った魔導人形』でなくても、ただ『魔導人形のガワを被った人間』でも達成できた……という事ですか」


「そういう事です」


 ——化け物を見て人間がどう反応するか。それを確かめるのは、中身が何であろうと可能なのである。同時に、「化け物になった気分」さえも本物のそれを使わずとも体験できる。ならばよりコストの掛からない方を選ぶのは自明の理だろう。

 どちらがより低コストなのかについてハルニアは明るくなかったが、それでも、イチから自我を作り上げる事の困難性はなんとなく理解できた。


「だから——"私"を使った」


「……はい」


 気まずそうに、躊躇いながらもそう答えたカザルメに、小さく嘆息(たんそく)しながらハルニアが口を開く。


「まぁ……私としては好都合、って言い方もアレですけど。なんか、願ったり叶ったりなので全然良いんですけどね」


「?」


 異世界という宝の山。

 勝手に転移やら何やらされたのは不本意ではあるし、置いてきた家族や友達などに心置きがあるのは事実だが、それとこれとは話が別、という何とも適当な締めくくりをしたハルニアにカザルメの目が点になる。


「えっと……つまりは、その……『許す!』っていう事ですよ。はい」


「え……? でも私は、あなたにいた筈のご家族だとかお友達だとかと引き離してしまうと分かっていて、それでこの研究を進めたんですよ……?」


 頷きながら笑顔で容認するハルニアに、自分が悪いのに、と少々困惑しながら食い下がるカザルメ。


「ちょっとは事前告知欲しかったですけどね……。まぁ、そもそも、偶然来たとかではなく、理論上しっかりとした魔導理論の上で私の意識が転移? しているんですから、戻る方法だってちゃんとある筈なんですよ」


「それは、そうですけど……」


「だから、そんなに気にやむことでもないんです」


「……」


 言い含められて困惑した表情のまま何も言えなくなったカザルメに、どうしてこんなに彼女に入れ込んでるのだろうか、と苦笑するハルニア。


 正直怒っても良いであろう展開で、何となく、いや、正直に言うとカザルメが普通に優しそうな人だったので、怒るに怒れないハルニアなのであった。

主人公のまいぺぇすぱぅわーが頭角を現してきましたね。やっと書きたいものが書けてきてる感出てきました。


面白ければ、感想、評価とかお願いします。単純に嬉しいです。

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