あたたかいということ
少し短めです。
——カザルメ・キャンディッド。
情報が正しければ、緑髪緑眼の彼女——カザルメは、この世界に住んでいる筈の「人族」とは違う種族、元の世界で言うところの「エルフ」だ。
そもそもこの世界の「人族」なる種族がまだ未確認なのだが……おそらく元の世界の「人間」とほぼ同じだろう。
そして。カザルメがそうであるように、エルフは人間とは違うが似た姿をしている。強いて言うなら一つ——耳の長さが元の世界の人間と違う事だろうか。この世界の人族を知らない以上何とも言えないが。
容姿で明確な大差が認められない点を考えるに、エルフと人族を大別する理由は外見以外にもあるのだろう。では何が人族と大きく違うのか。
情報によれば「寿命」と「住む場所」らしいが、これ以上の情報を「ハルニア」が持っていないために詳しくは分からない。
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「お風呂、ありがとうございました」
「いえいえ、気にしないでください」
お風呂上がり、用意されたノースリーブワンピースを着て脱衣所から出てきたハルニアに、台所に立つカザルメが答える。
「もう少しで完成するので、そこの椅子に座って待っていて下さいね」
「あ、分かりました」
相変わらずの異世界言語だが、一度覚悟すればそう恐怖するものでもない……と思ってしまえるのは、「人格定着基盤」の所以なのだろうか。
まあこんな事を考えたところで意味などないが。
ハルニアは言われた場所の椅子に座って、そこから料理をテキパキと仕上げていくカザルメを見つつ、お風呂に入る前——「まずは心を落ち着けてきて下さい」とカザルメに促されるまでに起きた出来事を思い返す。
ある程度気持ちが落ち着いたことで脳裏に蘇る事柄。
それは、ハルニアが異世界言語に狼狽しながらカザルメの質問に答えたその後——カザルメに「やっと、目覚めてくれた」とかなんとか言われて数分間抱きしめられた事だ。
突然すぎたが故に良く理解は出来ていないが、その時に感じたやさしい匂いの記憶が、抱きしめられた体が感じた温もりが、今完成しつつある料理の美味しそうないい匂いと混ざって、ハルニアのささくれた心を癒させる。
「……」
あらかた完成した料理を横目に、テーブルへ食器群を並べ始めた小さな女性をぼう、と眺めながら、ハルニアは思う。
——彼女は、この人はきっと、悪い人ではないだろう、と。
それを決めるには少し、いやかなり尚早かもしれないが、どうしても彼女が自分を悪用したりするようには見えなかった。
ハルニアをどういう意図で作り上げて、これからどうされるかも分からない現状だが、きっと悪い様にはされないのだろうと、そう思えた。
——この考えすらも「ハルニアにプログラムされた意識」に誘導されているならばお手上げだけれども。
「どうぞ召し上がってください」
「あ、じゃあ……いただきます」
考え事をしている間に並べられていた料理を眺めて、近くの小さなお椀を手に取り、中に入っているスープを啜る。
(おいしい……あったかい)
味は薄味のコンソメスープだろうか。具材はシンプルに小さく切った葉物で特別美味しい訳ではないが、それでも心が満たされていくのを感じた。
——一口一口、確認する様にスープを飲む少女。そして、それを幸せそうに眺める少女がそこには居た。
いくら「味」だとか、「温度」だとかが感じれる高性能な体でも、この暖かさはきっと、きっと自分の中に残っている「心」でしか感じれないものだと。
もしも自分が人間らしく生きることを許されなかったとしても、この心だけは「人間」だと。そうハルニアは強く思った。




