人間らしさ/人形らしさ
「やって見せろよ作者!」「なんとでもなる筈だ!」「毎日投稿だと!?」
……どうも、作者です。本当はこんなに早く更新するつもりなかったんですけど……ね。
次からは本当に投稿が遅くなると思います。何故なら数日後に受験だから(白目)。
あ、因みにですが、異世界転生/転移モノの300位以内日間ランキングに載りました。ありがとうございます。
薄色の髪をした幼女と、緑色の髪をした幼女の視線が絡み合う。
「……あ、どうも」
そう一言、なんとなく続いた沈黙を破ろうと画策したハルニアだが、持ち前のコミュ障できょどってしまう。
だがそれは膠着を破るには十分だったようで、後に続いてカザルメが発した言葉に——
『あなたが——ハルニア、ですか?』
——全身が粟立った。
全く知らない言語。異世界転生や転移モノのラノベなどでよくある展開。
そも、日本語を喋れる異世界人が居ると考える思考自体が、身の程知らずも良いとこだったのである。
だが、ハルニアが真に怖れたのはそれではなかった。
——世界が白く染まり、電車に轢かれた上で尚、この幼女の姿で生きている。
そして極めつけは「ハルニア」の脳内に記憶されている、ハルニアの情報。これだけの事があって異世界云々を考えないほど鈍感ではない。
彼女の中にいる「周防優斗」は、それなりにその手の読みものを読んできたし、それに関する妄想もこなして来たのだ。
だから今回の一件で、異世界言語だとか、魔法だとかの話があってもおかしく無いかも、と思っていた。
ではなぜ恐怖したのか。それは——
『はい、わたしが、ハルニアです』
——自身が、「ハルニア」がその言語を知っていて、それを操ることができたからだ。
——————————
———
「ふぅ〜……」
日本の一般家庭のそれと比べるとかなり大きめの、木組みの浴槽。そこに溢れるくらい入った湯に浸かり、ハルニアはここまでで起きた出来事を振り返る。
あの後——異世界の言葉が持つ意味が、情報が、脳の隙間を這って「ぬるり」と侵入してくる感覚を感じた後。
あの時から正直、自身の事にいっぱいいっぱいになって他のことを考えられなかった。
(「ハルニア」に埋め込まれた他の知識ではこんな事起きなかったのに)
そう思いながら、湯船の中で体育座りをする。
"知らない事を知っている"——それだけだったら耐えられたのかもしれない。
だが、知らない知識が、知らないロジックを使って、知らないものを組み立てるのは。
(僕はもう……「人」では無いんだろうな)
シャワーを浴びる為に湯船から上がって、鏡の前に立つ。
そういえば、一定のライフラインと設備が揃っているんだな、とか適当な事を考えながら自分の姿を見る。
綺麗な薄色の髪、琥珀色の瞳、130cm有るか無いかぐらいの身長、小さな……というよりほぼ無いに等しい胸、華奢で小柄な体躯。
——どれもが情報通りだ。
視線を下に滑らせる。そこに映るのは男性特有の「ソレ」がついてない股間。
だが違和感は感じない。どれもこれも「人格定着基盤」のおかげなんだろう。
——『人格定着基盤』。それは、この魔導人形に「人間の精神」を移してもその精神が壊れないようにするための……いわばセーフティだ。
どうせ、この「ハルニア」には元々から「人間の精神」を移して稼働させるつもりだったのだろう。
だから、最初に付与される膨大な情報量に流されないように、新しい体に違和感を覚えないように、セーフティを取り付けた。
(でもこれは……そんなに優しいモノじゃない)
「っ……」
鏡に映る、悲痛そうな顔をした少女に見つめられ、その琥珀色からそっ、と目を逸らす。
シャワーの栓を捻る。そうすればノズルから暖かいお湯が出てきて……自分の肢体を濡らしていく。
興奮しないのか? と聞かれれば、そうでもない。ある程度……そういうのを嗜んでいた時もあるし、正直、可愛い。自分がこの身体なら絶対に下手な服を着ないと誓える程度には。
だけど、コレジャナイ感がするのだ。何かが、自分の中に入ってくる感覚がして、酷く、心が痛む。
それは、人格定着基盤のせいなのか、元の世界に置いて来た家族や友達の事を考えたからなのか、罪悪感からなのか。はたまた、魔導人形に移った自分の記憶が、思いが、本物じゃないかも、と思ってしまったからなのかは分からない。
しかし、そんな事を考えてもキリが無いのだ。この魔導人形の中にある「自分」が、文字通り「周防優斗のコピー」だったとしても、自分にはどうにもできない。でも、考えないという事も、できない。
——そんな事があり得ない事は、もう識っているが。
ある程度体を流して、もう一度湯船に浸かる。魔導人形は汗などをかかないので体を洗うのが実に楽だ。
丁度良い温度のお湯が、自身の体を蕩けさせていく。
本来、ロボットと同義のようなものである魔導人形。なのに、必要ない筈の「感覚器官」が搭載されている。だから寒ければ寒いと思うし、暖かければ温もりを感じる。
それ以外にも「必要ない筈の機能」が搭載されている。例えば、体温を保持する機能だったり、食事をする機能、表情筋を動かす機能等だ。
それはまるで——それは、まるで。
ハルニアは浴槽の端に背をつけ、丸まる様に体育座りして、呟く。
「どうしよう……」
暖かい温度に当てられて、小さく蹲る身体の、心の内から漏れた本音は、やがて啜り泣く声に変わって。
「……」
「泣く」という人形には必要の無い機能が、「せめて人間らしく生きて欲しい」と切に願われているという証左だと思えてしまうのは、そう思ってしまいたくなるのは、許されないのだろうか。
みんな大好きお風呂回。




