水も滴るいい幼女(人形)
書き溜めてないので次話はもう少し先かな、と自分ながら思っていたのですが、完成しました。
次からはもう少し間が開くかもです。
では、本編第一章第一話、楽しんでいただければ幸いです。
「はぁ……」
もう何度目か分からないくらいの数吐いたため息を、また吐いてしまった。
そこは静かな地下室、綺麗に整頓されてはいるが少し埃っぽいその空間に、少女は居た。
「もう本当に何これ……さむっ」
そう可愛らしい声でつぶやく少女。綺麗な薄色の髪に、くりくりとして可愛らしい琥珀の瞳。「愛らしい少女」のそれを悉く取り合わせたかのような出で立ちは、見る者を魅了させるだろう。
「せめて服が欲しい……」
地下室の真ん中にある大きな魔法陣のさらに真ん中で、体育座りをして体を擦っている少女は、インクの匂いと儚い冷たさを感じながら、どうしてこうなったのか、と思案する。
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「やばい遅刻する……!」
少女漫画特有のセリフを吐きながらも曲がり角で人とぶつからない少年が、学校に遅刻しまいと必死に走る。
彼は周防優斗——特に明確な不運も無く、失った物や家族も無く、受験に落ちた訳でもない普遍的な高校生だ。
「あぁもうクソが……」
取り止めのない暴言をたらたらと吐きながら、少し寒い春の朝を駆ける。
彼は、いつもは遅刻するような奴では無い。では何故今日こうして走っているのかというと、部活動の朝練習が今日だけ特別に休みで、その時間分寝ていたら逆に寝過ごす、というヘマをやらかしたからだ。
「あっ待ってぇぇ!」
そんな彼を阻むのは、今現在警報機を鳴らしている踏切。一分一秒を争うこの時、それを待つ時間すら学校のチャイムは許してくれない。
カーン、カーンと毎度お馴染みの音を流しながら遮断機が降りていく様は、さながら天国への道を遮る地獄の闇。
だから、彼は——
「まだ間に合う……!」
——降りて行く遮断機を潜り抜け、踏切の中へ入ってしまった。
けれどまぁ、ここまでは所謂「あるある」だろう。しかし、この瞬間から先に起きた出来事は決して、「あるある」で語れる代物ではなかった。
なぜなら、彼が踏切の中へと一歩踏み出したその時——
「……は」
——世界がホワイトアウトしからだ。
「……あれ? え? どこここ?」
——一瞬死を覚悟したが、ただ視界がホワイトアウトしただけのようで少し安心する。
何故そう思うかと問われたならば、電車に轢かれて死ぬのであればそれは即死で、即死ならこうやって考える時間なんか無い、と答えるだろう。
……まぁ、今回に関しては、取り敢えず「死んでいない」という半ば本能の様な確信が彼にあったからだが。
「いや……え?」
死んでいないという安心。だがそれでも混乱を隠せず、辺り一面真っ白な世界をきょろきょろ見回している優斗は、その視界の端に一枚の……幾何学的な文様が描かれ、丁度肩ぐらいの高さで浮遊するカードを見つけた。
「なにあれ……」
遠近感覚が狂いそうな程白い世界に、一枚のカード。
押さえつけられない衝動に背中を押され、一歩、また一歩と不思議な見た目のカードの方へ歩を進めていく。
触れる為に伸ばした手の先が、カードにゆっくり近づいて……触れた、その時。
「っ!?」
真っ白だった世界に突如色が戻り、視界いっぱいに迫り来る電車が映っているのだと理解した時には、もう遅かった。
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「あぁぁぁぁぁ……どーしよ」
そして目覚めたら地下室、何故か脳内に入っている新しい自分の名前の情報もろもろ。
「もう嫌……」
心が折れそうになる孤独。近くに設置されてあるモノリスだって、いかにも怪しげな本だって危険な代物でない事が分かるのに、全く触りたいという気になれない。
歩き回ってみたりしたが外に出る手段は一つの扉だけで、この部屋の情報しか知らない自分には、怖くて到底開けられる気がしない。
「誰かぁ……」
そろそろ怖くて泣き出してしまうかもと思った瞬間——一つしかない扉がおもむろに開いた。
「「え?」」
お互いの声が重なる。二人の心情を説明するならば、片方は「知らない人の筈なのに知っている事」への驚きで、もう片方は、「長年ずっと虚ろだった瞳に光が灯っている」事への驚き、といったところだろうか。
驚愕する元少年——今は魔導人形の彼女の瞳には、埋め込まれた基礎情報によって存在だけ知っていた人物——魔導人形「ハルニア」を作成した「ヴァイゼ・キャンディッド」の妻である「カザルメ・キャンディッド」、その人が映っていた。
主人公の髪の色を何にしようか、と思った時にびびびっと来たのが「薄色」です。
決して灰色ではありません。灰に少し紫を混ぜたような、そんな優しい色です。




