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閑話 草原の上にて

閑話で間を持たせます(元々出す予定だった話を閑話で出しているだけ)

「やっぱり……あれですよね」


 草原に座って、掌の上で火の塊を生成しながら、ハルニアは独りごちる。

 これは明るい寒空の下、カザルメと魔法の練習をしていたある一日。


「? どうしたんですか?」


「うまくできすぎると逆に面白みがないなぁ、って」


 少し離れたところで同じく座って、作り出した魔法陣を弄っているカザルメの質問に、ハルニアは答えた。

 目の前に浮かぶ火の塊。だが火とはいっても掌のそれは赤や橙、緑などに色を遷移させている。

 魔力による炎色反応だ。


「魔法は運じゃなく理論ですからねぇ……。その「聖火の変色反応」だって、理論がわかれば大体誰でもできますし。——まぁ練習は必要ですけど」


 家の外の草原。刺さるような肌寒さを、燃ゆる熱源で誤魔化しながら二人の時間は過ぎてゆく。

 ここらは雪が降らないらしく、乾燥した、澄んだ空気が広がるのみだ。

 視界の奥で立ち並ぶ針葉樹森はこの寒さの中も健在で、特有の濃緑が、透き通るような空に映えて見える。


 そんな木々の間から、肌に刺さるような風が吹き、くしゃみが一つ。


「へくちっ……、さむっ……。はぁあ。


——この機械(からだ)って、ほんとうに人間染みてますよねぇ」


 ここまで再現しなくてもいいのに、とぼやいて、聖火(魔法の火)の火力を上げる。

 文句を言ってはいるが、痛覚や触覚、その他諸々の感度を変更することができるのに敢えて言う時点でお察しだ。


 ハルニアが『ハルニア』としてこの世界に来てから数ヶ月が経つ。カザルメと共に風呂に入ったり、談笑で一夜を明かしたりなど色々あり、それなりに慣れてきた所だ。過去との踏ん切り——そこまで執着があった訳でもないが——も付いたし、「人格定着基盤」による違和感も鳴りを潜め、現状そこそこ幸せではある。


 ——「自身が機械である(生身でない)」という漠然とした恐怖を除いて、だが。


「はは、もうこの体になった以上は仕方ないんですけどね」


 感覚の感度を変えられないのも、なにか大事なものを失ってしまいそうで怖いからだ。

 思わず自嘲さえしてしまう。


「だって、私は——」


 声、容姿、能力。人に限りなく近く、そして限りなく遠いモノ。99点は叩き出せても、100点満点との差は埋まらない。

 いくら冬が寒くたって、いくら火が暖かくたって。

 自分に変わりない(こと)があったって、結局、皮を剥いたら鉄の塊だ。そこにあるのは無機で、固くて、冷たい"なにか"。


 「ライブラリ・オブ・ウィズ(叡智の結晶)ダム」に触れてから、そんな事を考える時間が増えた。

 第三者から見れば、物理的に機械な自身など、そりゃあ機械と変わらないんだろうな、と。

 そんな自分は、もう元の世界に戻っても居場所が無いんだろうな、と。

 まぁこればっかりは、もうどうしようもないんだけれど


「人間じみているもなにも、あなたは心ある『(ひと)』じゃないですか」


「——っ」


 さも、当たり前かのように。ハルニアが感じている不安を知っているかのように、エルフの少女はそう言って。

 思いもよらぬ言葉に驚いて魔法の火を揺らしたハルニアに、その身を寄せる。


「それは……っ」


「大丈夫ですよ。きっと大丈夫。逆に、あなたみたいに悩んで苦しんでる人が『人』じゃないなんて、どうかしてます」


 優しく抱きとめられる身体。左手は背中に、右手は頭に。燻った心をなだめ、甘く溶かしていく。

 突然抱きしめられた驚きで声すら出なくなったハルニアを包み込むように、カザルメは淡く語る。


「あなたはれっきとした人ですよ。少なくとも、バケモノなんかじゃないんです。それは私がよぉーく、知ってます」



「…………ぼく、は、」


 体温を感じる。甘い匂いを感じる。少し早くなった心音が振動を媒介にして伝わる。

 抱きしめられていることを体が認識し始め、驚きで戻ってしまった一人称よりも密着する肌を気にして、そこはかとない気恥ずかしさで顔が紅潮するのを感じながら、ハルニアは必死に言葉を紡ぐ。


「……どうすれば、いいんでしょうか」


「……うぅん、漠然としすぎて回答に困りますけど……、

 私は、沢山の人と出会って、知って、色んな所を見て回るのが一番だと思いますよ?


——それがきっと、()()()()()が『人』である証拠を掴む鍵になるんじゃないか、って思います」


「そう、ですか」


 沈黙が訪れる。冷えた空気が火照った身体を冷ましていく。

 いくらかの時間が過ぎた後、ハルニアは小さく息を吸い、言う。


「わ、わたし……旅に出ようと、思います。


 元からそうする予定ではいたんですけど、ちゃんと、言っておこうって」


「——分かりました。私はいついかなる時でも味方ですから、いつでも頼ってくださいね?」


 ——こく、こくと、頷きで了承を返すと、カザルメは満足そうに微笑んで、ハルニアの頭を優しく撫でた。


「っ……そろ、そろ」


「……?

 ——あぁっごめんなさい! つい……」


 ……お互い勢いで行動していたため、恥ずかしさは五分五分の引き分けになる一幕だった。

この話読んでほんの少しでも良いと思ったやつはブクマしろ(圧倒的強欲)


ふりがなとかの加減がわからず、今回漢字の読みには振っていないんですけど、欲しい方居ますかね。

感想とかで教えてくださると有り難きことこの上ないです。

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