映像記録 No. █
つい書くのが楽しくなって連日投稿。
多分次の投稿は間が空きます。なにせ課題が((
「やあ」
そこは白く、そして無機質な空間。
まるで大理石を掘り抜いたような、それでいてコンクリートを固めたかのような空間に、彼は立っていた。
「初めて会うね? ……挨拶でもしようか、『はじめまして』。……まぁ、これは只の記録なんだけど。
ちゃんと映っているかな。データが破損していた時用に手記も残しておくつもりだから、分からない所があればそっちを読んでくれると嬉しいな」
仄かに光る魔法陣をバックに、白衣のエルフは喋る。
少し大人びた印象を受ける彼は、カザルメと同じ、緑色の髪に緑色の瞳をしている。
「自己紹介をしよう。僕はヴァイゼ。巷で有名なヤバいやつで——君の製作者だ」
言いながら、紹介する様な仕草と同時に背後を映す。
その先には一体の——人形。
さらさらとした薄色のロングヘアーを背中まで流し、大きな生気のない琥珀色の瞳を閉じることなく、魔法陣の上にちょこんと座っている。
「さてさて、駄弁る必要もないし本題へ入ろうか」
腕を組んで、右へ左へ行ったり来たりしながら彼は語る。
時に、人差し指をぴん、と上に向けて。
「まず端的に言おう。君にはこの世界を旅してもらう」
にや、と微笑って、髭の少し生えた顎をさすりながら、その端正な唇を開く。
「もう少し詳しく話をしようか。そうだね——僕は所謂、魔法科学界の権威だ。魔法科学を語る上で、僕の存在は不可欠なのさ……まぁ、魔法科学なんてもん研究してるのは、一部の狂ってる人たちだけだけど」
単純な笑みとも苦笑いとも呼べる微妙な表情をして、目を細める。
「僕はまぁ、さっきも言った通り、魔法を科学的に扱おうと思って日夜研究をしていたんだけど……その時に、ある事に気付いたわけさ」
指先から、小さな、青白い光の玉を一つ。気付いた頃には指先から離れていて、独りよがりに空間を彷徨う。
——ちりちりと、小さなスパークを絶えず散らして、部屋を青白い光で仄暗く満たしていく。
「魔法っていうのはね……次元や、時間にさえも干渉しうるんだ。これは本当に凄い発見なんだよ? 少なからず、今現在僕が生きている時代の《縛られた考え》じゃあ到底辿りつけない場所だ」
指先をくいっと動かす。その動作だけでついさっき生まれた光の玉は破裂し、綺麗な粒子を散らす。
「あれはとある研究の途中だった。何時ものように魔力の挙動を調べていて、気付いたんだ」
紙吹雪よりも細かく空気に散った粒子は、花火のように色を様々に変えながら消えていく。
「今までもおかしいとは思っていたんだ——時折、不可解な挙動をするんだよ」
消えゆく千の粒子——そのいくつかが、世界ごと空間を捻じったかのように撓んで消え去っていく。
それを目を細めて一瞥してから、口を開く。
「それを解明して、理解して……僕は、好奇心が抑えられなくなった。きっと君にも分かるだろう? 時を超えるという浪漫が」
彼の声色に呼応するかの様に、空気に溶け込んだはずの粒子たちが、時を遡るようにして空間から飛び出し、集まり、新しい一つの光の玉を再構成した。
「未来を、観たんだ。いま僕が話をしている現在から少し先の未来」
その玉が、大きくブレるように掻き消えて、その数秒後に、どこからともなく姿を現す。
まるで妖精のように浮遊する玉を、思案げに指先で操る。
「少し先といっても、その時にはもう僕は寿命で死んでるだろうけど——もどかしいから単刀直入に言おう、その未来というのは……地獄だったよ」
そうしてふよふよと彼の目の前にやってきた、幻惑的なその青白い玉は、人差し指に直接触れて——赤く燃え上がる。
「戦争だ。エルフと人類、そしてサンダンシーズの末裔達による戦争……人亜戦争とでも言うべきなのかな」
真っ赤に燃えた玉は、ぼろぼろと黒い火の粉をまき散らしながら白く灰化し、地に落ちながら崩れて、やがて床面に残った塵すら空気に溶けて消え去る。
「それを見た僕は、その醜さに酷く絶望——というよりかは、最早なにもかもがどうでも良くなった」
はは、と乾いた笑いをもらして、天井を仰いでから、顔に手を当て溜息を付く。
「んまぁ、僕自身は別に、魔法で生き永らえようとも思ってなかったから正直どうでも良かった。だけど、『寿命で死ぬんだからもういいか……』とも思えなかったんだよね。その時多分、ルメ——カザルメは生きてるし」
真剣な顔つきで趾をトン、トンと地面に鳴らし、手を口元に当てて考える素振りを見せる。
それからおもむろに手を広げて、
「まぁだからせめて、出来る限りを尽くして、この世界を何とかしてやろうと思ったわけだ」
ニヤリと笑う。
その時、その手を中心にしていくつかの円陣——魔法陣が生まれ、彼の周囲を取り囲んだ。
「そこで目を付けたのが、異世界さ。今の僕が用意できる一番で、最高の異常。世界を、ひいては未来を大きく変えたければ、これ位の事はしないと……ね?」
魔法陣から、先程と同じ青い玉が溢れんばかりに出現し……至る所に散らばり、その光を明滅させる。
「思いついた瞬間からやることは決まっていた。すぐに僕が考えうる最高の魔導人形を作った。けれどそもそも、そこは問題じゃなくて。大事なのは中身なんだ」
後ろを振り向いて、目線の先で佇む小さな人形に近づいていく。
「この、魔導人形『ハルニア』に高い適正を持ち、且つこの世界には元々存在しなかったもの——そう、君だよ」
今はカラッポの、小さな意思なき少女の頭に手を乗せ、柔らかく笑いながら撫でる。
そして顔をこちらに向け——おそらくカメラがあるのだろう場所に、優しい目で、鋭く目線を刺した。
「安心してくれよ?……流石に、君の寿命が有り余る時に別世界へ引き込んだわけではない。君が死ぬ一瞬前——そう、あの場で君は元々、転んで轢かれるはずだったのさ。その時に引き込んだ。死体はちゃんとあっちに残ってるから、行方不明だとかを憂う必要は無いよ。
あと、この話を含め、今記録している話の殆どはハルニアには伝えていない。彼女には嘘をついている。
まだどう転ぶかも分からない話に彼女を巻き込むつもりは毛頭ないからね——だから、許してやってくれよ? 彼女に罪は無い……君の性格上、もう既に許した後だろうけど」
魔法陣が描いてある台の上に立ち上がり、狡猾な笑みを浮かべる。
「さて、そろそろ〆といこうか。君に宛てた「やって欲しい事」の情報は、ちゃんとアップデートされる情報の中にある筈だ。——僕の我儘だけど、聞いてくれると嬉しいね?」
部屋中に散らばる沢山の青い玉が、一つ残らず蕾の形になって——
「君にはとても辛い仕打ちを与えてしまうかもしれない。ハルニア。どうか、君に会えない僕を許さないでくれ。
そして、君には謝らなくちゃいけないね。すまない。
——どうか、どうか君の笑顔が曇らない旅路を祈っている。」
——花開いた。
やっと伏線回収。あとちょっと一章続きます。
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