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勇者と魔王の関係性



故郷の懐かしさや親兄弟の何かが残っているのであれば弔いや今こうして何だかんだありはしたが子も産み育てあげたのだとの報告もしようと考えていたのだが、予想外のダメージを負うような衝撃的な目に遭い。


暫くの間シルラーナは心ここにあらずといった隙だらけの状態となったために仕方なく魔王は彼女の護衛を増やした。勿論彼自身も彼女をなるべく傍に置き敵に襲われないようにとそれなりに面倒を見てやったつもりである。


母にベッタリのあの息子も警戒の対象だ。何故ならばあの子は母親にそういった感情を抱いている節を魔王と周囲のものは気付いていた。


竜に限らずよく起こる現象で力を持った肉親を喰らってより力を、より高みを、より良い伴侶をとするあまり父を喰い、母を伴侶と無意識の内に求めるのだ。


最高峰の魔王とその魔王が選んだ伴侶と言うものはそれだけで一目置かれるもの。様々な種を蝕んだ故の業だとヒト族は嘲笑うだろう。


それが人の理に反するものだとしても、抗いがたい。人の心を知らぬ魔王も人間であった彼女には実の子がその身を狙っているなどとは伝えられていない。未だその心をわからないままであるが、彼なりの気遣いだ。


さらって嫁にし今はそれなりに夫婦として成り立っているとも言える。しかしこの上更に自身の全てや種を受け入れろとまでは強制もしようとは思わない。


わざわざショックを与えるかもしれないことを告げる必要性も感じられない。それだけだ。


よってそれとなく三男を牽制しつつ正気を取り戻すまで彼にしては癇癪を起こすこともなく待ち続け、ようやくと故郷のことを受け入れ平静を取り戻した頃を見計らって魔王は彼女に新たな問題が迫ってきていることを明かした。



「お前の故郷に行って気付いたが、勇者が生まれている。その内にここに軍を引き連れ攻めてくるか、若しくは厄介な仲間とやらを連れて領土を荒らしにくるぞ」



生まれたばかりの赤子とて、数十年で成長してしまうのだから早いものだと魔王はある種の血と骨を固めたものを菓子を摘むように取り口に放りぼりぼりと噛み砕きながら放った。


勇者とは女神が魔王を倒すために人の中から選ぶ者たちのことであり、女神が力を込めた武器を世界で唯一扱う事ができる存在でもある。そしてその武器でのみ魔王に致命傷を与えることが叶う。だが武器を持っているとしても扱うものの力に依存されるもので素人が持ったとしてもそれはただの宝の持ち腐れだ。


十分に鍛錬や経験を必要とし更に言えば今まで何百年と生き、たかだか数十年生きただけの人如きにやられてくれるほど魔王も優しいものではない。


勇者と言っても魔王からすればその程度のものなのだ。人が好み、作り上げるようなおとぎ話のような人智を超えた怪力や魔法も天地をひっくり返すような女神の寵愛や肩入れなども実際には付与されはしない。


稀に女神がそこまで力を貸さなければならないほどに悪しき魔王や邪神が関わることがある際にだけそういった奇跡も訪れることもあるが、そうした外からの介入は世界の調和を著しく崩すきっかけになり得てしまう。


それは女神や他の神々の本意ではない。そういうことだ。



「ゆ、勇者となると子どもたちはどうなる?お前に女神様の剣や他の武器が通じるなら血を継ぐ子らも危ういのではないか?まだ年端もいかない子どもだとているのだぞ。そんな、早く対策を練らなければ」


「……落ち着け、そう焦るな」



知らせるのが遅すぎると魔王の顔面に平手打ちをしようと右手を上げるが防がれバシンと代わりに手の甲を叩いた音が響き、それに反応を示した護衛が影から出てくるのを目で制し魔王は彼女に答えた。


こんなに騒いで取り乱すなら黙っておけば良かったかと早々に後悔を滲ませながら魔王は溜め息を吐き出す。



「今代の勇者はどうだか知らんが、大抵の勇者は俺とこの城にある宝に目を向ける。もしも乗り込んできたのならそこを利用しお前とあいつらは抜け道より脱せばそれで済むことだ。その暇すらなく緊急を要すようならば俺が全力をかけて遠方にお前らを飛ばす。何も問題はない」



足手まといは減らすべきだとの心の内は流石に口には出さないがシルラーナの不安そうな目を真っ直ぐに見据えいつもと同じ、何ら感情のこもらない声音で宥めるよう言葉を紡げばその自信のほどを感じ彼女も動揺していた心を落ち着けて肩から力を抜いたように席に戻った。



「まだ末姫はお前のことを呼びすらしていない。せめて父と呼ばせるまでは倒されるな」


「片方の親が生き延びれば事足りるだろうに。わざわざそのために生きる意味がわからない」


「それでも、だ。八人もいるんだぞ?全て面倒を見なければならないのは苦労するだろう?」


「……ふむ。そうか、そうだな」



幼子の姫一人ならばとの考えから伴侶をまだ決められていない子どもら八人全員と示されれば、確かに一人で全員を任せるのは些か荷が重いなと肯定し素直にわかったと魔王は返答を改める。


魔王の扱いも大分把握し始めていた彼女はそれを見、ひっそりと息を吐き出し茶器を取り渇いた喉を潤す。



「お前一人で様々なことができ、おおよその望みが叶うことも知っている。だが忘れるな。お前のその体はもうお前一人の自由にしていい体ではない。血を分けた子どもたちにとっては何者にも代えがたい父親としてのものでもあるんだ。戯れに作り上げたとしても変わらない事実だ。それを自覚し責を持て」



理解できなくとも、と続けて彼女は眉間に皺を作り不快そうなそれでいて僅かに戸惑いの浮かぶ瞳で己を見る魔王を尻目に茶をもう一口と飲み込んだ。



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