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予感



「キューちゃんは弟と妹、どっちがい〜い?僕的には次は男の子って気がするんだけど、キューちゃんが妹がいいって言うならそう願ってあげるのもいいよ。多分、性別にはガーくんもこだわらないからねぇ〜」



相も変わらず、ココペリはキューレリムの子守りの為に彼女を抱いてあやしつつ城内を散策していた。


彼女以外の子どもたちにも好かれ、その子らの退屈そうな様子を感じ取ったココペリが気分転換に中庭で遊ぼうと提案すれば菓子やお茶などもとれるスペースをお世話役たちがせっせと用意するのを眺めて、それからキューレリムを両腕で空に掲げて高い高いをしてやればキューレリムは楽しげにココペリを見下ろしながら淡い碧色の目をキラキラと輝かせた。


様々あったがもう直に離乳食に移れるぐらいに彼女は育っている。


愛らしいふくよかな唇から覗く小さな牙もこの時期にしか見る事のできないものだ。その愛らしい乳歯が抜けたなら魔王の娘のものとの付加価値も合わせてかなりの額になる為、保管に若干の注意が必要となるが。



「弟君で良い?ふふ、キューちゃん優しいねぇ。流石、お姉ちゃんだもんねぇ」



会話はまだできないがココペリとは会話ができているような不思議なやりとりをする。周りの子どもたちもまた生まれるらしい弟の話に興味津々でココペリにいつ来るの、お母様とお父様は今お迎えに行っているからいないのかと質問責めになったがココペリは笑って対応した。



「そのうち帰ってくるよ。シルラーナさんが卵を産んだら魔王様とはまたちょっと会えなくなるけど赤ちゃんが生まれてくる為に必要な事をしてくるお仕事だから、皆応援してあげてね」



ココペリの話しが一段落し、リンリンリンと軽やかな音が響くのに子どもたちが反応をして振り向いた。


どうやら菓子の仕度ができたようだ。


わーっと子どもらしくかけて行く子どもはまだマナーを完璧に覚えきれていない魔王を慕う王子と四の姫のみ。


その王子と妹姫の姉姫たちは自分も同じようにとしたいと思いながらもしずしずと歩み少女ながら淑女らしい姿で追う。


ココペリも彼女らの小さな背を眺めて転んだなら直ぐに助けられるようにと意識を配りつつキューレリムを抱いてゆっくりと歩んだ。



「う、ぅ、くーぉ、こぉこー!」


「お!あはは、やった。パパとママより先に呼んでもらっちゃった」



もう少しで辿り着く、その刹那。腕の中より元気に拳を振り上げてココペリの名を口遊んだキューレリムに目を丸くして足を止めたココペリが視線を落としなぁにと尋ねては嬉しいな、嬉しいなと刺青から光を浮かばせ始めるが、その色は普段とは違う。赤、青、黄、緑……と様々で更に普段よりも輝きが幾らか強い。


先に菓子につられていた子どもたちも目を剥いてこちらに戻ってくる。



「そのような事もできましたの?!」


「こ、ココペリ様!私、紫!紫の光がいいです!」


「紫って姉様の嫁ぐ国の王子様の色だよね?わぁ、姉様大胆!」


「ななな、にゃにをっ!お姉様をからかうんじゃありません!」



母に似た赤髪を揺らしてやってくる次女ヤーマキと翡翠の目をした三女キルキュクスがマナーを忘れて小走りにはしたなくドレスの裾をたくしあげかけてきては弟よりも近くにいたがためにココペリにそれぞれ声をかければ遅れを取った弟王子のガルロディアが姉の揚げ足をとってからかう。


それに三女キルキュクスが顔を真っ赤にして弟に食ってかかった。次女ヤーマキがまぁと言って微笑みつつも父親に少し似た愉快そうな意地の悪そうな雰囲気となり王子が驚いて姉を二度見する。


四女のトートリアヴァーナもココペリの足元に来るとだっこを自分もとせがみ腰布の一部を引く。魔王の娘の名は伊達ではなく、幼いながらも大人の男性以上に強い。


危うく幼子らに見せたくはないものを見せるところでありながらもココペリはおっとっと、と少し蹌踉(よろ)めいたが怒りもせずはいはいとキューレリムを片腕に抱え直すともう片方の腕にトートリアヴァーナを乗せる。


己の意が叶った事に満足そうに息を吐いて、それからトートリアヴァーナはキューレリムを見つめつつココペリにねだる。



「鳥は?私、前見たあの大きい鳥がいい」


「あ〜あれは特別だからなぁ……」


「キューレリムもみたいって」


「言ってないねぇ。まぁ、でもいっか。本当に鳥でいい?こっちでいう天使様みたいな形や、僕の知ってる生き物の形なら何でも出せるよ?」


「じゃあ鳥じゃなくて蛇がいい!」


「ちょっとガル!やめて!嫌よ、あんなニョロニョロしたの!」


「ラピュテルがいいわ!風の精霊の娘なの、ココペリ様なら知ってらっしゃるでしょう?私、王都の恋劇をシュレン殿下と観に行った事があるの。お父様もあの時は外出を許してくださって、だからっ、ラピュテルをお願いいたします!」


「いいねぇ。キルキュクスちゃん婚約者くんと良い関係を結べているんだねぇ。……それにしてもラピュテルかぁ。本物はないけどお話しは知ってるから僕の創作で補わせてもらおうかな」



風の精霊の一人であるラピュテルの恋という魔族と一部の好事家に広く知られ親しまれている珍しい恋物語だ。


異種間の恋愛は基本的であれ禁忌である。何故ならそれは穢れを意味するものだからだ。純粋なる血統に異なるものが雪崩れ込む。故に嫌悪や憎悪を抱いて恐れ、遠巻きにし、攻撃すら行うものもいる。



そんな世の中でもラピュテルの物語は語り継がれている。



気まぐれな娘ラピュテルが様々な国を旅し、ある時は勇猛な男と出会い、またある時は孤独に苛まれながらも王として優れた才を持つ男と出会い、母を亡くして嘆く少年と出会う。


様々な男たちと出会うもいずれとも関係は持たずに敵の動向を囁く悪戯な雀であったり、優しく頬を撫で労う王妃を真似たり、盾となり獣を追い払い小さなその背を押して親類の元に届ける母の念を届ける鳩となり。


留まらずに必要な人へ必要な助けをもたらし多くを救う。


だが、そんな彼女も助けられない者と出会ってしまう。心に茨を抱えた盲目の青年。どんなに春の日差しの暖かさを運んでも心の氷は溶かされず、またどんなに導き他者の手を繋がせようとしても諦め、足を止めて踵を返してしまう。


ラピュテルは己の手で救う事のできない無力さとこれまでやってきた自分の行いを少しずつ疑問視し、本当に彼らは救われたのだろうかと無邪気な思いを改めて彼の元を一度離れて己の歩んできた道を流れていく。



勇猛な男は結局、敵の兵には勝てずに破れて他のように負けた者たちと同様有象無象の扱いを受けていた。


己を極限まで追い詰めながらそれでも民の為にと立ち続けていた王は心を壊し王妃を凶刃で殺し己の子に退位と処刑を告げられ愚王と謗りを受けるまでとされていた。


母を亡くし明日生きていけるかもわからなかった少年は、預けた母の親類に口汚く罵られ飯もまともに与えられず奴隷よりも酷い扱いを受け家を追い出され、物乞いへと変貌していた。



ラピュテルが助けたと思って満足していた命は何一つ、誰一人なかったのだ。



その事実を知った時、ラピュテルは絶望した。


美しかった彼女の青い髪も彼女の心を表すように黒く染まった。


透明で誰からも羨しがられた肌も曇り、精霊の象徴たる羽や身に纏うドレスも喪服のような黒い陰鬱としたドレスとなる。



すっかり別人のように成り果てて帰ってきたラピュテルは再度盲目の青年の元にと罪滅ぼしのように謝罪しにやってくるが、青年はラピュテルの愚かさを許し、過去の行いを許した。


その彼の優しさに触れ涙したラピュテルはそのまま精霊としての自分を捨て盲目の青年の元にと嫁ぐ事を望み二人は夫婦と相成った。



無垢なる風の精霊から終わりを告げる死の風の娘と堕ちた彼女と、最後の最後にそんな彼女を抱きしめ不穏に嗤う青年の姿を表し舞台は幕を閉じる。



この盲目の青年は一説によると魔王の因子を持つ者、過去に存在した幾らか前の世代の魔王自身だと言われ、ラピュテルを囲い込む為に彼女の行いを潰して回ったのだと。


表向きは無垢なる事の恐ろしさや教訓を説いたもの、裏の意味は他人を簡単に信じるなという警告や悪しきものに対する心構えを説くのだ。


悪はどのような形を持って忍び寄るかわからない。簡単に人を信じるべからず。いついかなる時も疑心を抱け。



そしてキルキュクスの婚約者が数多くある英雄譚や恋物語からこれを選んだ。これは様々な意味を孕むメッセージのようなものとなる。



魔王の娘という世界的にもあまり印象をよく思われない異分子を受け入れる覚悟の程を示すもの。


この歪んだ愛の物語のようにキルキュクスに誓いや相応の努力を捧げるというもの。



他にもあるが魔王もその意を汲んだ上で三女キルキュクスの観劇を許しキルキュクスも賢い頭でもってこの話を単なる恋愛劇でなく教訓と理解し、王子とどのようにあるべきかを再考した。



そんな二人の未来に調和と繁栄を司るとされたココペリが微笑み、キルキュクスの願い通りにラピュテルを生み出した。


淡い新緑の青さから深海の色にと変貌を遂げ、若々しく無垢なる乙女から深い悲しみの果てに敬虔なる静かな黒の人となるその末路にまで。



空に浮かんだその歌劇のような光景を見上げて皆が息を飲み、そしてラピュテルが消え去り刺青へと戻ればどこからともなく拍手がココペリを称え、ココペリははにかんだ。


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