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無謀な挑戦者



剣戟(けんげき)の音が響く。少年一人相手に大人が数人も集っている様子は異様だった。


魔王とシルラーナはその光景が見える位置より見下ろしながら人間たちが何やら叫ぶのを聞いた。



“卑怯者”


“勇者を騙った詐欺師のガキ”


“その大剣を寄越せば楽に殺してやる”



なるほど。魔王がこの少年を見て己にわざわざ問いを投げかけたわけだとシルラーナは今はない眉を寄せるような表情をして魔王に声をかけた。



『勇者は死んだのか?』


『彼奴らの言う事が正しければ己の腕をあげようとして志半ばで同じ国の奴らにやられたんだろうな。愚かな奴らだ。俺を目指すならばそれなりに研鑽し年を取ろうと当たり前だろうに、臆病者が魔王を恐れていつまでも国を出ていかないとでも思ったんだろう』


『ならばあの子どもは巻き添えか。父親を詐欺師扱いされ、遺品とともに放り出された、と』


『いや?殺される前に自分からアレを持って飛び出したところに追手でも放たれたのが正しい。扱えもしないものを後生大事に背負って、ただの剣で応戦してるのがいい証拠だ』



少年は肩で息をしながらも背負った大剣を差し出す様子はない。


勇者ではないものにとって女神の力を宿した武器は意味をなさない。それが人間にとって真に魔王を倒せる唯一の武器であったとしても。


醜い醜い大人たちが浮かべるその表情と言葉を暫く見聞きして、シルラーナは耐えかねたとばかりに高度を下げていった。


合図も何もなしの行動であったが魔王は彼女の行動を前もって知っていたかのように反対に上昇して大きく息を吸い込み、



『グォアアアアアアアア!!』



古の災厄の竜の咆哮が響き渡る。


眼下にいた人間たちも突然の事にぎょっとして辺りを見回せば上空より迫る紅い竜が今にもこちらに襲いかからんと大きく口を開き、先程の咆哮に負けないくらいの声をあげた。



「うわぁあああ!!」


「逃げろ逃げろ!食われちまう!!」


「こっちくんじゃねえ!!」



少年を脅かしていた男どもが血相を変えて武器も取り落とし逃げていく。


それもそうだ。竜という災厄など普通に暮らしていれば一生に一度遭遇するかもわからない伝説の生き物。出会えば命などないも等しい。


既にぎりぎりまで力を消耗していた少年は腰を抜かして紅い竜を見上げ歯を鳴らし、流石に怯えた顔で絶望していたがシルラーナは構わずそのまま地へと向かい降り立つ直前で人の形を取り少年を振り向いた。



「無事か?……って、おい?」



赤い髪を(なび)かせて心地よい風に吹かれながら颯爽と助けに来た事を明かしてやる。そのつもりだったのだが少年は気を失い泡を噴いて倒れていた。


その下半身からはじわじわと地面に染みていく水分が……。



「まぁ、そうなるだろうとは思ったが」



背後で魔王も人の型になって降り立つ気配がし、シルラーナに近付き並べばその肩に手を置き少年を見下ろしては漏らしたその哀れな様に片眉を上げて完全に汚物を見る眼差しとなった。



「……やはりここに捨てていくか?」


「コラ、止めんか子ども相手に」



そもそもお前が声で脅かすからだとシルラーナは少年を哀れんだが魔王は俺よりもお前だと真顔でシルラーナを見つめた。



「私に?何故?お前より一回り以上小さいのに、子どもでもこんなナリじゃ驚かんだろう?」



それでも竜は竜なのだという認識をシルラーナは忘れていた。魔王も頭を抱え溜め息を吐き出す。



「お前、人だった時に竜に遭遇した事はあったか?咆哮をあげられた事は?」


「……忘れた。そんな昔の事」


「誤魔化すな。絶対になかったはずだ」



目を逸らしそっぽを向いた彼女にほら見たことかと魔王は大袈裟に彼女を責める。


でもだってとシルラーナも言い募ろうとするが言葉が続かず結局それ以上は口論にもならなかった。



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