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休戦



三日三晩竜の夫妻の言い争いは続いた。


……というのは嘘で、夜が明けても一日中激しく鳴き喚いて互いの体すら傷付け合いそうな彼らを見かねたココペリがキューレリムを抱いてあやしながら彼らの近くに近付いていき、



「いい加減、うるさいよ。いい大人がいつまでガキみたいに争ってんの?子どもたちが可哀想でしょうが!!」



瓦礫や風圧などもココペリの周りには落ちず、まるで見えない力が働いているかのようにキューレリムとココペリを護り、彼の怒声とともに青い刺青が空中に浮かび上がったかと思えば生き物のように蠢いてそれは大きな鳥の形を(かたど)った。


ココペリの銀の瞳も眩く輝きを示し、竜の姿をした彼らにも勝るとも劣らない大きさにまで変化した鳥は彼ら目掛けて悠々と飛んでいきその身を貫く。



『ぐっ……!』 


『うっ!』



二人の体を貫通した鳥がそのまま旋回してココペリの元へと帰り着きその体へと刺青として戻った。


ココペリの陽の気は陰の気を持つ者に対して容赦がない。シルラーナは多少の痛みで呻くに済んだが魔王は諸にその影響を受け、数歩蹈鞴(たたら)を踏んで乾いた大地に赤黒い血を少量吐き出し()せこんだ。


二人が怯み声が止めばココペリはキューレリムを抱え直しじとりと二人を見据え首を傾ける。



「とりあえず、喧嘩したいなら場所変えたら?まだ教えてもらってないけどこの城の中にはキューちゃん以外にも子ども、まだいるよね?親の喧嘩を見聞きさせるの、僕結構嫌いなんだけど?」



勇者とか外敵とかは自分がどうにかしといてあげるから早く出てけとココペリは彼に似合わぬ怒りの形相を浮かべて二人を追い立てるとやれやれとまた足を城の中へと向けてキューレリムをあやしながら他の子どもたちが嫌な思いや恐怖を感じていやしないかと探し始めるのだった。







魔王とシルラーナはココペリによって城を追い出され、渋々と少し離れた人気のない山岳へと向け飛び立った。


先程血を吐いた夫に僅かばかりシルラーナは気をかけたが、魔王は痛むとも言わず先を飛ぶ様子にも弱ったような雰囲気も感じられない為に大丈夫なのだろうとシルラーナも黙って彼の後を追って飛ぶ。


そして山岳地帯に着き若干冷静になった頭でココペリに叱られたようにこんな不毛な喧嘩、もう止めようと口にしかけ、人型を取る魔王にホッと息を吐き出しながら近寄っていった。


しかし魔王は何を思ったか、大きな岩に背を預けると体勢を暫し整えて目を閉じる。


何を、と言いかけたシルラーナに片目を開いて視線を向けるが溜め息混じりにこう答えた。



「……俺は少し眠る。あの馬鹿のせいで内臓が傷を負った。言い争う気分にもならねえ」



忌々しそうに顔を歪めてまた荒々しく息を吐き出すと血痰を地へと吐き出し、不機嫌そうに体を揺らしながらやがて寝息を紡ぎ始めた。


シルラーナは固まって魔王を眺めていたがそこまで重症だったのかと動揺し、その場から動けず暫く経ってから何か水か果物でもあればと慌てたように踵を返し空から何か見つけてこようと竜の姿をまたとって、魔王の為にと山岳を彷徨った。


小さな水辺を見つけて葉を皿代わりにして数回水を運んで来ては適当な窪みへとそれを流し入れて適量を汲み、人の姿へと戻れば火を起こして水を沸かしぬるま湯になるまで待って魔王の元にと戻る。


己の気配はわかるはずだが眠り続けたままの魔王に焦りつつ飲めと声をかけ刺激の少ない温度のぬるま湯を渡そうとすれば目を開き、鬱陶しそうにしながらも黙ってぬるま湯を飲もうとして眉を顰め。



「俺を殺す気か。この葉は毒草だぞ」


「は?貴様には毒は効かぬはずじゃ?しかもこれは毒草などというものではな……あっ」



その時に初めてシルラーナは気付いた。皿代わりにしたそれが魔物避けや魔族の嫌がる類いのそれだと言う事に。


仲違いはしているが流石に今はそんなつもりじゃなかったと慌てふためいてぬるま湯を捨ててその葉も丸めて遠くに投げ捨てればしかしまた沸かし直しては時間がかかるしと悩み、困っていると不機嫌そうにしていた魔王がクツクツと笑いだす始末。



「お前が無意識に夫を殺そうとするほど俺が憎いのは今のでわかった」


「ち、ちがっ!私は本当に善意で」


「何が違う?俺は内臓がどうにかなっていると先程伝えたぞ」


「私が人であった時はアレは傷などを癒やしたりしてくれるものだったんだ!それが毒になるなんて思わないだろう?!」



思わず叫ぶよう伝え必死に無実を訴えれば更に楽しげに魔王は目を細めてニヤニヤと笑って揚げ足を取った。



「嫌な気配など感じなかったのか?お前も魔族の端くれだろうに。まったくおかしな奴だ」


「確かに摘む時にピリッとは痛んだが、まさかそれか?!慌てて葉で切ったくらいにしか……」


「手指は無事か?長く触れると(ただ)れるぞ」



思わず両腕に視線を落としては薄っすら肌が赤くなっているのに目を見開き、魔王が仕方のないと体を起こし彼女の片手を掴み己の方へと引く。


そして吐息を吹き付けるようにして何かをするとゆっくりと赤みは引いていった。



「次からは気をつけるんだな。こんな情けのない事で傷を負えば周りのものに呆れられる」



無知は罪だと未だ笑いを引きずりつつ彼女の手を離せば魔王は少し遠くを見るように視線を外した。


その先には特に何もないように見える。だが、きっと魔王には何かが見えているのだろう。


目を眇め、笑みを引いてはあそこにと彼らがいる高い位置よりもずっと下を示し彼女に再び視線を戻す。



「冒険者だか何だか知らんが、襲われているガキどもがいるが、どうする?助けたいか?聖女サマ?」


「何?何故こんなところにそのようなものが?」


「そんなもの俺が知るか。大方、ろくでもない理由だろう」



遥か彼方でシルラーナには全く確認できない。言わなければ放置出来ただろうそれを、わざわざ尋ねるのには理由がありそうで更に少し前に知った聖女の事まで口に出されて彼女は顔を赤くし羞恥を抱きつつ、知らされた手前助けない訳にもと顎を引いて立ち上がった。



「助太刀に行く。勿論貴様も来るだろう?」


「俺を面倒事に巻き込むんだ。それなりの代償を覚悟しろ」



それが目的かとシルラーナは魔王を睨みつつ竜の姿となり魔王とともに滑空していった。



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