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神の思し召し



ココペリとシルラーナが魔王の私室に赴いたのは結局日が落ちてからとなった。


キューレリムがなかなかココペリと離れたがらず離れようとすれば泣き出してしまうのを見かねてココペリが魔王にもう少しだけ待つように言っておいてほしいと伝達役をするものたちに告げてキューレリムが眠るのを待って、それから魔王の元にシルラーナとともに向ったのだ。


一人部屋で二人の到着を待っていた魔王はまた()ねているかと思いきや、何かの血肉を食みつつも意外にも大人しく待っており、シルラーナは片眉を上げて魔王を見据えながらもそれならばそれで構わないと勧められた魔王の隣の席にと着席しココペリも魔王の向かいへと腰を下ろし、それを確認して魔王は口を開いた。



「お前の働きでようやく城内も落ち着きを取り戻しつつある。王としてアレの父として改めて礼を言う」


「いえいえ、困った時こそ僕の出番だし?それに久々に外に出れて楽しかったからこっちもお礼を言いたいくらいだよ」



友人同士の会話ではなく賓客と王としての感謝から始まり少し昔の事など当たり障りのない会話をしてはシルラーナも彼に感謝を伝えて和やかに場は保たれた。


しかしその内に魔王がシルラーナの肩を抱き、雲行きは怪しくなっていく。



「……それで、もう一つの件だが報酬は前に話したもので変わりはないか?」


「うん。僕の方は特に。ガーくんこそ後で文句言わないでよ?こっちとあっちじゃ効くかもわからないんだからさ」



一体何の話をとシルラーナが魔王に視線をやりココペリに問いかけようとしてすっとその場に立ち上がったココペリがいつもの柔和な笑みを浮かべたままにこちらに左手を向けキラキラと光が放たれるのをポカンと眺めてその行方が己であることに困惑する。



「何故私にそれを……?」


「ガーくん、今までは子どもに特に自分の力の継承とか期待せずにとりあえず周りが煩しいから必要な数だけシルラーナさんに生ませて後はのんびり暮らす的な考えだったらしいんだけど、今回のでちょっと欲が出たらしいんだよね」


「……」


「毒と腐食が継がれたなら、次は呪いか影使いが欲しい。でも運に任せるにはシルラーナさんにも限界があるし、なら僕に頼ろうかって。僕の力は破滅と創造ってのは伝えたと思うんだけど、僕が故郷で何の神として呼ばれてるか知ってる?調和と繁栄の神。……そんな怖い顔しないで。裏切るとかそんなんじゃない、ただのおまじない程度の祝福だし、そもそもここは僕の故郷じゃない。君たちには君たちの国の神がいる。だから通じるかも定かじゃないんだ。後は君たち次第。ガーくんも一回か二回試して駄目だったら諦めるって言ってたから」



そうして左手を下ろしたココペリは魔王に顔を向けてじゃあ僕は部屋に戻るよと告げれば魔王の私室から退室していった。


手も使わず開く扉は人気もないのに開いた時と同じくバタンと音を立てて閉まる。肩に乗った手がいつまでも離れない。隣を見るのも恐ろしい。


だが黙ってココペリが告げた事に従うのはもっと恐ろしかった。



「出産を終え、俺が外に出て百日以上経った。キューレリムの件でそれなりに日も開いた。……そろそろお前もあれが来るだろう?」


「っ……!!嫌だ、止めろ。私はしたくない!」



今回の件で骨身にしみる程に魔王の力が継承された時の危険性を知った。その上で不幸を背負う事になる子がまた生まれるかもしれない事実に彼女は顔を真っ青にして明確な“拒否”を示した。


肩に乗せられた手を必死に剥がそうと手をかけ力の差に阻まれけれど屈せずにガリガリと逞しいその手に爪を立てて彼女は魔王から一刻も早く逃れようと足掻く。


魔王はココペリの話しを聞いて尚嫌がるシルラーナに怪訝そうな顔をして首を傾げ、空いた片手で彼女の顎を取ると顔を覗き込み常と変わらぬ態度で問いかけた。



「何をそんなに怖がる?睦み合い、子を成すだけだ。お前は傷付かず、痛みもないだろう?」



常人とは違う思考と心を持った魔王としての純粋な疑問をぶつけ、曇りのない金の目に彼女を一心に映し。


シルラーナは息を飲みくしゃりと顔を歪めて小さな声で訴えた。



「私はどう扱ってもいい。でも子どもをそのように見るな……。わからなくていい、だから、だからそんな恐ろしい子どもを産ませないでくれ……」



頼むから、とじわりと涙をも目に浮かべて彼女は真っ直ぐに魔王の金の瞳に己の翡翠の瞳を向けた。


言葉もなく、ただ彼女をじっと見つめて魔王は数分、いや数秒だろうか。


瞬きを一つ落とし。彼女の顎から手を外した。



「……ココペリから得た祝福は死ぬまでその身に宿ったままだ。死んでようやくアイツに戻る。それまで手を出すな、とお前は言うんだな?」


「……ああ。お前が勝手につけさせたものだろう?なら、耐えてくれ」


「…………。約束はできない。俺はそれなりにお前を妻としてみている」


「戯れ言を。己の妻にこのような仕打ちをする奴はいない」


「何故だ?俺の力を望む者はこの世に数多いる。俺とお前の子にそれを授ける事の何がそんなに悪い?」



この男が歪められたのは環境か。それとも元からか。


シルラーナは目を眇め金の瞳を睨み見据えて強く答えた。



「その力でどれだけのものが泣いた!どれだけのものを葬った!私の子がそのような罪の証を抱くなど誰が許せると思う?!貴様に人の心などないのは仕方ないと目を瞑ってきたが、これは流石に我慢ならん!そんなに子どもに力を授けたいなら私以外のものと番え!!だが私とは金輪際関わろうとするな!もし他のものと番った後に私の前に戻りでもしたらそのイチモツ切り落としてくれるからな!」



ビリビリと人ならざる者と変えられここまで声を荒らげた事はないとばかりに大気が揺れ城に木霊するように彼女の声が響き慌てて駆け付けたのだろう城内の者たちの足音や声が近付いてくる。


しかし魔王は駆け付けた彼らが己の部屋にとするのを許さずキンと高い音が部屋の内に響けば結界のようなものが張り巡らされ、扉を、空間を切り離した。


そして何故かシルラーナと同じく怒りに染まった顔をして彼女だけをその目に入れて不安定に震える声で彼女に言葉を投げかけた。



『俺の力が罪?他の糞どもと、番えだと……?俺を愚弄しているのかシルラーナ』


「私を最初にそうしたのは貴様だ、ガリアス。貴様がココペリを差し向け、私を子どもを産む道具のように扱おうとした。全ては貴様のせいだ」


『違う。違う、違う、違う!!』


「何も違わない!貴様はいつもそうだ!私を私として見ない!何故私を妻と言いながらそんな扱いができる?!私を下に見て、私が折れるのを当たり前だと看過しているからだろうが!」



怒りにより人の形が保てず喉から発せられる音が割れて聞き苦しいものとなっても同じ竜とさせられた彼女には聞き取れる。


人ならざるからこそ。


肩を抱いた手も離れ、魔王が人の姿ではなくなる。城のものには恐ろしい咆哮をあげる古き竜が怒り狂っているようにしか思えない。


威嚇するその竜に、シルラーナも負けじと紅い竜となった。これでまた同じ土俵に上がった。言い訳も通じない。



『誰にも脅かされない、誰にも奪われない、強く王者たる子を、俺とお前の血を後世にまで残そうとしただけだ!』


『そんなものいらん!馬鹿たれ!脳に筋肉でも詰まってるのか貴様!』


『何だと?!』



ギャアギャアと騒がしくなる城内で、城のものも右往左往と走り回るその最中。ココペリはキューレリムの部屋でキューレリムだけを護る空間を作りあげ、外の騒ぎも聞こえぬようにしながら子守りをしている。


そのおかげでキューレリムはすやすやと眠り続けている。



「パパとママは本当に似た者同士だねぇ、キューちゃん」



あんな祝福、押し付ければ反発されて当然だろうに。そう言いながらココペリは苦笑し室内に星々のような精霊のような光を浮遊させながら子守唄を歌い夜が明けるまでゆっくりと過ごした。



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