ココペリという男
ココペリは毒と腐食にだけ耐性を持つ者ではなく魔王のように数多の力を持ち、この地より遥か遠くの領地で神として存在しているような者らしい。
かつてその異様から化け物とも罵られ貶められ追放までされたにも関わらず腐らず、追放された者たちの地でその才を存分に振るって実りの少ない土地を豊かにし寄る辺のない者たちを守り国を興した。
魔王とはまた違った意味での生き神と呼ばれるものであるのだと。
その体に刻まれた紋様も後から刻んだものではなく神より与えられた祝福の証であり、時にその証を他に分け与える事により祝福を移す。
そう、彼が赤子と出会い初めて行ったあの美しい光と印はそういったものなのだ。そして与えた者が天寿を全うした時にそれは彼に還るという。
「僕の力及ばず護りきれなかった時は印も神に戻ると思うけど、今までそういう事はなかったから大船に乗ったつもりでいてくれてもいいよ!」
悪用しようとしたり奪おうとするものはそもそも弾かれ付与した者に近付く事すら叶わないと彼は笑って胸を張った。
ヘラヘラとした笑みは出会った時には憎らしくて仕方なかったが味方になれば心強くホッとしてしまう。つられて微笑みを浮かべ赤子を見れば機嫌良くココペリの腕で声をあげる様子に純粋な赤子さえも懐くなら本当に大丈夫なのだと手を伸ばし頭を撫でた。
「気配はガーくんだけど笑うとシルラーナさんにも似てるねぇ。きっと大人になったらとびっきり美人になるよ〜!よかったねぇ、キューちゃん」
「えう、あうぅ」
「フフ、そうだといいな。皆に好かれて幸せに過ごせたら私も安心だ」
キューレリムと名付けられた赤子はココペリがきてようやくまともに名前を呼ばれだした。ココペリが呼ぶのではなく周りが騒動が一段落した為に呼ぶのだが、ココペリの愛称呼びももう誰も咎めない。
何よりキューレリム本人が呼ばれる度に嬉しそうにココペリに返事を返したり何かしら反応を示すのだ。今ではすっかり父親よりもココペリに懐いて見える。
日頃の行いの差だとシルラーナは魔王の横暴と彼の人徳を思い、そういえば奴は今どうしているのかと思い至った。
ココペリによりキューレリムの身の危険は過ぎ去った。乳母が食事や世話を焼くのも可能になり、子守りもココペリが自ら参加すればどんなに激しく泣いていたとしてもキューレリムは泣き止む。
どんなふうにあやしているのかと覗いてみれば抱き上げてあやす他に彼の刺青から美しい光が星々のように現れて部屋中を瞬き照らす。目を潰すような刺激的なものではなく、あくまで精霊たちが浮遊するように柔らかで温かい光でいてそっと見守っていた者たちをも魅了した。
子守唄なども歌うが異国のわからない言葉の筈なのに鼓膜を優しく揺らす調べは脳裏に故郷が浮かぶ不思議な響きを含んでいた。
父のような兄のような。
皆の共通の認識が不審な異国の男から変わるのも早かった。
城内ですれ違う者たちの中には未だに彼の格好を破廉恥なと恥ずかしがって目を合わせようとしないものもいるにはいるがそれも少数となりつつある。それどころか魔王の機嫌を損ねないようそっと隠れて彼に相談事や困っている事を打ち明けるものもいるという。
どんな小さな悩みでも笑わず聞いて受け止めてくれる。これもココペリのいいところだろう。
「あ、そういえばガーくんが君の事呼んでたよ。後で僕と部屋に来いって」
「は?またどんな悪事を企んでいるんだ……」
癒やしの効果でも出ているのではなかろうかというココペリの側で侍女もシルラーナもキューレリムも護衛も時間を忘れてゆったりと過ごしている午後の一時にココペリの口から災厄に関わる事が漏れればあからさまにシルラーナは顔を顰め嫌悪を露わにした。
先程一瞬でも考えていたものを、何故ココペリの口から出ただけでそこまで思うのかと言えばやはりキューレリムの事が腑に落ちていないためだろう。
生まれたばかりの自分の娘を道具のように扱った。母として妻としてそれが一番気に食わない。
ココペリは彼女の気持ちも汲んでか苦笑しそんなに嫌わないであげてと魔王すらフォローしようとする。
そしてその場を和ませようと何か思い出したという顔でキューレリムを侍女に任せ、左手を上げ人差し指でくるくると輪を描くように宙を揺らした。
「僕の故郷にね、腕のいい職人がいてね?友人がお嫁さん迎えて子どもも生まれたらしいからお祝いに行くって伝えたらコレくれて。もし良かったら貰ってくれると嬉しいなぁ〜!」
そう言って彼の描いた円の内から光り輝く何かが引き出され、それを差し出されたシルラーナは驚きながらも美しいその何かを受け取った。
丸い木の輪に紫の布が巻かれ、蜘蛛の巣のように白い紐が縦横に張り巡らされている。その中心には見たこともない大粒の宝石が留められ光の加減で透明から虹色に変化をした。
その木の輪から垂れ下がる布にも同じく似たような虹色の粒が括られ、末端には極彩色の羽がついている。
異国情緒溢れる何かに物珍しいと感じてどちらが表か裏かと数度ひっくり返して眺めればクスクスとココペリが愉快そうに笑った。
「どっちからでも楽しめるように作られてるんだよ。僕の故郷じゃ、蜘蛛は夢や富を掴むモノって昔から言われててそれにあやかったのがその飾り物。窓辺や出入り口なんかにつけるんだけど、それなら贈り物として無難かなって。こっちの国じゃ服を贈るのにも変な意味があるって言うしアクセサリーもとんでもない意味があったら申し訳ないし。後は蜘蛛って子沢山だからそれも込めてね。“子宝に恵まれますように”って。でも聞いたらキューちゃんでもう九人目って言うしそこは目を閉じておいてもいいかもね〜?」
肩を竦めてココペリはシルラーナの手にあるその飾り物を見つめた。
シルラーナも異国の話に耳を傾けそして最後に付け足されたその意味を聞いて苦笑する。
「ありがたくもらっておく。誰か、これをあそこの窓辺につけてくれないか?」
「はい、かしこまりました」
シルラーナが言えば侍女の一人がそれを受けとりキューレリムの部屋の窓辺に取り付けた。
宝石がキラキラと光を反射しキューレリムがココペリが星を部屋に出した時のように嬉しそうにその光に手を伸ばしはしゃぐ。
その様子にココペリは目を細めて気に入ってもらえて良かったと言って故郷の職人も喜ぶだろうと満足そうに息を吐き出した。
祝福のお土産のモデルはドリームキャッチャーですが、あれは悪夢を取ってくれるとか様々聞きますね。
この話ではココペリの容貌と素性に合うように少し違う意味合いにしました。何となく頭でイメージして伝われば幸いです。




