第7話 輝く星
星追い課の警官たちが気絶した犯人達を引きずって、車に乗せた後。
さっさと帰ろうとするツキを、青木が止めた。
「おい、なんで娘だなんて分かった?」
「おや? 青木くん、そんなことに興味があるのかい? さすが敏腕警察官!」
「黙れ! .......いいから、理由は?」
「うんうん、もちろん教えるよ! まずはね、あんなに雑に星を育てるなんて、電池目的ではないと思ったんだよ」
「.......育て方が下手だったのかもしれないだろ」
「うーん。もしただの技術不足だったとしたら、わざわざ部屋の電球をぬいて暗室まで作るかな? それで、別に星を強く育てるのではなく、薬のために育てたんだと思ったわけだ! それに、僕が聞いた時露骨に反応したからね!」
「.......それで、なぜ娘だと?」
「はは。簡単だよ、離婚した男が犯罪に手を染めるのなんて、自分の子供のためぐらいだろ?」
「色々飛躍したな」
「まず、あの男は離婚している。男には珍しいが、薬指に指輪のあとがあったからね」
「.......たまたま外していたのかも」
「そもそも妻に隠れて1年も星を育てるなんて不可能なのさ。一番近くにいる人が、星を飼う人の変化に気づかないはずがない。星は脆くて強いから」
「それで?」
「それで、娘さんの事だね。まあ、実はちょっとずるをしたんだよ!」
「ずる?」
「犯人のポケットからスマホを拝借してね、まず待ち受けが可愛らしいお嬢さんだった。まあ、ここまでは悲しいロリコンさんという可能性もある」
「お前、いつの間に.......」
青木は感心すると言うより、犯罪者を見る目でツキを見ていた。
「それで、少々中を見させてもらったら、随分たくさんの写真があってね。病院の中の」
「ああ.......」
「電話の履歴は病院と金貸しだらけ! 実にありふれた背景だね」
「.......そうか。分かった」
青木は視線を一度だけ落とし、それからまっすぐ前を向いた。
「おお、さすが青木くん。もしかして娘さんのことどうにかしてあげようってつもりかい?」
「.......うるせぇ」
「さすが熱血敏腕警察官。素晴らしい心がけですねぇ」
「.......何が言いたい?」
ツキのあまりに粘っこくまとわりつくような物言いに、青木の眉がよった。それを見て、ツキは胡散臭く笑う。
「おそらく、娘さんはもうダメでしょうねぇ。それでも、あと何年という単位ですよ。青木くん、あと何年も、未来のない他人の子の面倒、見れますか?」
「この野郎!!」
がっとツキの胸ぐらを掴んだ青木の腕を、ツキの長い指が撫でていく。そして、額に青筋を浮かべた青木に。
「青木くん、よく考えた方がいい。君には未来があるじゃないか。仕事だって優秀だ。頭の良い君なら、いかに損な話か分かるだろう?」
「お前っ!! 損とか、そういうモンじゃねぇだろうが! 未来がない!? 馬鹿言うな!! あと何年も生きるんだろ!? 明日も今日も生きてるんだろ!! 未来に溢れてるじゃねえかっ!!」
「おやおや、熱いですねぇ」
「その子だって、星だって!! 最後まで輝いていたいと思ってるだろうが!!」
「僕はね。青木くん」
するりと青木の腕を外して、ツキが胡散臭く笑う。
「器には興味がない。僕の心の抜け殻が震えるのは、星を見つけた時だけだよ」
「星はその人の本質だ! 器だなんて言うな! 」
「青木くん、人が死ぬと星が出る。星は空に上がって輝き続ける。そうだね?」
「だからなんだよ!?」
「星は、ずっと外に出たがっているのかもね」
「は.......」
「じゃあ、お先に失礼するよ! 課長によろしく!」
ツキがスタスタと車に向かっていくのを、急に大人しくなった青木は、ただ黙って見ていた。
「星野ちゃん、早くその星保管庫に入れようか」
「.......うん」
ツキが戻った車の中では、星野が大事に大事に小さな光の瓶を抱えていた。
「ツキ」
「どうしたんだい? 星野ちゃん、お腹すいたのかな?」
「星は、空にあるのがいい」
「そうだねぇ」
「月は、冷たくないよ。星と一緒に空にいる」
「星野ちゃん、月はね、冷たいですよ」
「ツキ、違う」
「月はね、星の様には輝けない。冷たく寂しく、空にあるんですよ」
「違う.......」
「まあ、僕には星野ちゃんがいますからねぇ! 月の様に寂しくはないですよ!」
そういって胡散臭く笑うツキは、どこを見ていたのか。
「.......」
悲しい月を見る星は、いつもより優しく輝いていた。