表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

第5話 赤い星

「あなた、現行犯逮捕ですよ!」


「あら? あなたお巡りさん?」


「ええ、こわーいお巡りさんです!」


 女が急に腕を振り上げた。


「おおっ! 危ないですねぇ!」


 女の腕に連動するように飛んだ光が、ツキの右足横の地面が焦がす。もちろん頑丈な金属製の足場であったが、それを焦がすほどの熱だった。


「悪いけど、後ろの子に用があるのよ。どいて?」


「さては.......あなた、変態さんですね? これはいけない。 署まで御同行願えますか?」


「ふふ、邪魔なお巡りさん!」


 女が指をツキ差し向けたのと同時に、()()()()()()()ひと房ちぎれ飛んだ。それを見て、金髪の女は唇を引き上げた。


「なんだ、使えるんじゃない」


「ツキ、私がやる」


 空のカバンを放り捨てた星野が、ツキの前に出た。


「星野ちゃん」


「ツキ、こんなの余裕。片手で十分」


「あらあら、生意気なお姫様!」


 女が腕を振り上げるより早く、星野の指が女を指す。女の目の前で光が交錯し、消えた。


「あら、やるわね。さすが3色持ち!」


 女が腿に手をかざした。その瞬間、ツキが跳ねられたように動いて星野の肩に手をかけ引き倒す。星野の小さな体がツキの腕に収まったとき。


 ぱんっ。


 と、乾いた音がした。


「ツキっ!!」


 悲痛な星野の叫び声。


「当たってませんよ、スーツはダメになりましたけどね」


 肩口が裂けたジャケットを脱ぎ捨てて、ツキが星野の前に立ち上がった。


「あら、なかなかの反応ね。星持ちって、こういうのに弱かったりするんだけど」


 女は熱を持った銃口をこちらに向けたまま、ジリジリと距離を詰めてくる。


「これは.......銃刀法違反ですねぇ」


「あら、ごめんなさいね。母国ではオーケーなのよ」


「ここは日本ですから、犯罪ですよ」


 ジリジリと女との距離が詰まる。

 そして、拳銃にとって完璧な間合いでピタリと女の歩みが止まった。


「その子を渡しなさい」


「ロリコンさんには申し訳ないですが、うちの星野はもう成人してますよ」


「ふふ、分かってるでしょう? 欲しいのはその子の星なのよ。取ったらその子は返してあげる」


「星なんて無理やり取ったら死んじゃいますからー」


「その子、たくさん持ってるじゃない。私が欲しいのは一つだけ。残りは取らないわ、さ、こっちによこしなさい」


「うーん、失礼。」


 ごほんと胡散臭い咳払いをして、ツキは笑った。


「許可なく星を捕獲すること、他人との星の譲渡、奪取、または売買は犯罪です。あなたは既に犯罪者ですが、一応お知らせしましょう」


「ご丁寧にありがとう。そして、さよならね。おかしなお巡りさん!」


 女の指が、ぐっと力を入れて引き金を引こうとした。

 その、筋肉が動き出す一瞬の空白に。


 ばぢんっ、と鼓膜を打った音が鉄の足場を震わせて、女の銃が宙を舞った。


 鋭く、一気に踏み込んだ右足をそのままに、ツキは天へと突き上げ銃を飛ばした腕で、ついでのように女の服を掴んだ。


「.......は?」


 間抜けな声を置き去りに、ツキは女の体をぐっと引き寄せて腹に膝蹴りを入れた。


「ぐぅっ!!」


 倒れかけた女の胸ぐらをツキの長い指が掴んで、手本のように美しい一本背負いで投げ飛ばした。


 がしゃあんっという肉が金属に打ち付けられた音と同時に、女は意識を失った。


「いやぁ、普通なら拳銃を持っていれば充分な距離だったんですけどねぇ! 僕の足が長いばっかりに、すいませんね!」


 ツキは、白目を向いた女に手錠をかけた。そのまま、胡散臭い笑顔を浮かべ声をあげる。


「星野ちゃん、怪我はー?」


「ないっ。ツキ、ツキ!」


 星野がツキの首にしがみつく。


「星野ちゃん、どうしたんだい? 課長に連絡しないと.......」


「ごめんなさい! ツキ、私、3色持ち(トリプルカラー)なのに!」


 ぎゅ、とツキの首に回っていた腕に力がこもった。ツキはその腕をよしよしと撫でる。


「いくら星を持っていても、銃で撃たれたらどうしようもないですからねぇ。さ、この変態さんをどうにかしましょう」


 星野が泣きべそをかきながら女の額に指をつけた。


「.......ツキ、何本?」


「星使ってましたからねぇ。景気良く4本! いっちゃいましょう!」


「.......4本」


 りんっ、と音がなって、女の体からがくりと力が抜けた。


「さて、課長に連絡しましょう。星野ちゃん、元気出た?」


「.......出ない」


「それは大変。今日は星を見に行きましょうか」


「.......いく」


 ぎゅっとツキのシャツを握って、星野は口を一文字に結んだ。



 生きた人間は、誰しも星を持っている。

 どんなに意思が弱くても、どんなに身体が弱くても。

 人はみんな、輝く星を持っている。

 普通なら一つだけ。

 そんな中で、星野は3つの星を持つ。

 星に愛された、奇跡の人。


 人が持つ星には、色がある。

 普通は白い。

 たまに赤く、たまに青く、たまに黄色く。

 たまに現れる色つきは、それぞれ特徴を持つ。

 星野は3つの色つきを持つ、星を愛する、奇跡の人。


 星は、誰しもが持っている。

 その人の本質、エネルギーの塊、強い意思の集合。

 その星を、単純なエネルギーとして自由に使える人がいる。

 指を向ければ力の塊が飛び、色つきならば特徴づいた効果がつく。

 星野は、自身の星を自在に使う、奇跡の人。


 そして。


「ツキーー!! 星野ーー!! 無事かーー!?」


「課長、お静かに! デート中ですよ?」


「勤務中ーー!!」


 金髪の女がパトカーで連れ去られるのを見送ってから、課長が2人に駆け寄ってきた。


「.......ツキ、車行ってる」


「はいはい。すぐ行きますよー」


「報告! 報告しろ!」


 トコトコと星野が歩いていくのをそのままに、課長は目元を押さえた。


「課長、報告しますよー?」


「.......中国の犯人か?」


「まさか! あの程度で250なんて無理ですよ! どうせ何処かの下っ端でしょう。星野ちゃんしか見てませんでしたし」


「.......結局お前が倒したらしいな」


「足が長いもので!」


「.......気をつけろ。お前は」


「はいはい! 分かってますよ!」


 ツキは胡散臭く笑って、長い指で輪っかを作る。

 それを右目の前に上げて、言った。


「星を無くした男なんて、そうそういませんからねぇ!」



 生きた人間は、誰しも星を持っている。

 輝くそれは、その人の本質、エネルギーの塊、強い意思の集合。


 それを無くした男は、なぜ生きるのか。


「.......月を飲んだ男か」


 課長のつぶやきを後ろに、ツキは星を見に星野のまつ車に乗った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ