表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

第2話 星の月

「星野ちゃん、この間の報告書、書いといたからね!」


「.......ん、ありがと」


 とある1室。胡散臭い笑顔の男と、ルービックキューブを持った小柄な女がそれぞれの机に座っていた。


「お安いご用だよ。ところで、この間からそのルービックキューブをずっと持ってるけど、気に入ったの?」


「.......可愛い」


「可愛い? 可愛いかな.......?」


 男が顎に手をやり、考え込んでいると。


「星野ーー!!」


 バタンっと、勢いよく部屋の扉が開かれる。鼻息荒く部屋に入ってきたのは、小太りの男だった。


「星野、勝手に管理庫に入るな!」


「.......呼んでた」


「許可をとれーー!!」


「課長、お静かに! ここ仮眠室の近くなんですから」


「げっ、ツキ! お前まだいたのか」


 課長と呼ばれた小太りの男は、胡散臭い男を見て露骨に顔を顰めた。


「酷いですねぇ。僕だってここの課なんですから、この部屋に居たって不思議ではないでしょう?」


「お前は警察官と言うより詐欺師じゃないか!」


 そんなことを言われても、男はやはり胡散臭い仕草で笑う。


「はは。酷いですねぇ! 僕ほど真面目な警官はいませんよ! ねえ、星野ちゃん」


「.......ツキ、コーヒー」


 女は目線を上げず、ルービックキューブをかしゃりと動かしながら言った。


「ああ。はいはい、ブラックですか?」


「.......ブラック。くまちゃんのコップで」


「はいはい、了解ですよ!」


 男がマグカップ片手に立ち上がったところで、小太りの男が声を上げた。


「.......お前達、課長がいること忘れてないか?」


「そういえば、課長。どうなさったんですか?」


「.......」


 小太りの男は、目元を押さえながらこの部屋で1番立派な席についた。それから、一度大きなため息をついて。


「.......星降りだ」


「ああ! それで最近事件が多かったんですね」


「.......回収?」


 ルービックキューブを置いて立ち上がった女が、トコトコと胡散臭く笑う男へと近づいてきた。そこに、小太りの男が声をかける。


「明日から回収作業に入る。お前達以外の組にはもう伝えた」


「ほお? 意外に大きな星降りですね?」


「新月だからな」


「.......運が悪い」


「ツキだけに? ツキがないって、はは。星野ちゃん、君コメディアンヌになれるよ!」


「.......ごほん。いいか、お前達星野ツキ組にも、場所を割り当てる。河川敷で回収してこい」


「「了解」」


「道具はロッカーだ」


 小太りの男の言葉に、女は不満そうに口を尖らせた。


「.......また網?」


「しょうがないよ星野ちゃん。うちの課予算少ないから」


「.......それもあるがっ! そもそもあの網より傷つけずに回収する道具がないのだ!」


「課長、僕お先に失礼しまーす!」


「.......ツキ、私も帰る」


「俺は課長! お前達は俺の部下! 俺は課長っ!」


「課長、お静かに! では、失礼しまーす!」


 バタン、とドアを閉めて2人は帰っていった。

 小太りの課長は目元を押さえながら、静かにパソコンを開いた。



 警察庁星追い課。

 全国の警察にひっそりと存在するこの課は、その名の通り星を追うことが仕事だ。

 そして、星追い課が取り締まるのは星に関する3つの犯罪。



 その1、許可なく星を飼育、または捕獲すること。


 その2、資格のないものが星を傷つけること。


 その3、他者との星の譲渡、奪取、または売買をすること。



 これらを犯した者には、その者の星に対して相応の罰を与える。


「星野ちゃん、星降りだって。久しぶりだね」


「.......降らない方が、いい」


「そうだね。でも、綺麗だよねぇ」


「.......ツキ」


「ああ、ごめんごめん! 明日は頑張ろうね」


「ん」


 星。星、とは。


「.......星は、空にあるのがいい」


「そうだね。月のない夜でも輝くのは星だからね」


 星とは。

 人の中にある。生きた人間の中にある、その人の本質となるもの。エネルギーの塊、強い意志の集合。


「.......空から落っこちちゃった」


 しゅんと肩を落とす女に、男は相変わらず胡散臭い笑顔をむける。


「そうだね。だから僕達が追っかけよう」


「.......うん」


 ツキは空に浮かんだ星々に長い指を伸ばし、ぐっと握りこんだ。


「流れた星でもきちんと空に帰れるって、僕達は知ってるだろう?」


「.......うん」


 人が死ぬと、星が出る。体から飛び出して、空に上がる。

 上がった星は、そのまま空で輝き続ける。

 しかし、星が弱ったり、何かに引っ張られれば、空から落ちてしまう。

 剥き出しの星は、強くて脆い。

 人に影響を与えるほどエネルギーが強いのに、少しの事で傷がつく。

 星追い課は、落ちた星を追いかける。

 そして、また空にかえすのだ。


「じゃあ、星野ちゃん。明日の夜ね」


「.......ツキ」


「どうしたんだい?」


「ツキの星は.......」


「星野ちゃん」


 小柄な女、星野は、ぐっと顔を上げて胡散臭い男、ツキを見た。


「僕はツキだよ。星じゃない」


「.......ごめん」


「はは。謝ることはないよ! 星も月も、美しくあればそれでいいだろう?」


「.......」


「じゃあ星野ちゃん、明日ね!」


 ツキは長い足で、スタスタと電気の眩しい駅に消えていった。


「.......」


 星野は手の中のルービックキューブをカバンにしまい、黙ってタクシーをとめた。



 次の日。


「星野ーー!! ツキーーー!!」


「課長、お静かに! 今トランプタワーが完成しそうなんですから!」


「仕事に行けーー!!!」


 日が落ちかけた頃。星追い課に与えられた部屋で、ツキが押収物のトランプでタワーを作っているのを、じっと見つめていた星野がギロりと課長を睨んだ。


「.......崩れる」


「仕事だーー!! 網持って行けーー!」


「あああ、崩れたね.......。星野ちゃん、行こうか」


「.......」


 可愛らしい顔をめいいっぱい歪めて、星野は課長を睨んだ。


「仕事! 勤務時間だ!! いいから星追っかけてこいっ!」


「星野ちゃん、行こう」


「.......ん」


 ツキがロッカーから大きめの虫取り網を取り出した。それを肩にかけて、胡散臭い笑顔を貼り付けて。


「さぁ、お仕事だよ星野ちゃん! 星を追いかけよう」


「.......うん」


 警察庁星追い課。

 星野とツキは、今日も星を追いかける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] 晴明は花見をしながら星追い課でお仕事してたんですね!笑 また面白そうな作品ありがとうございます! 君、コメディアンヌになれるよ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ