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002.召喚

 徐々に光が収まるとそこは既に会社ではなく、豪奢な細工の施された柱が立ち並ぶ、荘厳な教会のような場所にいた。眩い光が収まるとそこはほんのり薄暗い。

 視線が上にばかり向いていると、不意にやや下方から声が聞こえる。下へと視線を向けると、如何にもファンタジーですというような格好をした、美しい女性が跪いている。

 女は知らない言葉で何かを言うと、二人のいる場所へと続く階段を登る。


「小林先輩、すぐ逃げられるように立ちましょう」

「え、うん・・」


 警戒している宮園に対して、小林は何処か嬉しそうにしている。しかし同時につまらなそうにもしていた。

 登ってきた女性と距離を取ってみたものの、その場所は大した広さもない。女性は再度跪くと、美しい笑みを浮かべ何事かを話した。恭しく立ち上がり、手に持つ杖を小林へと向ける。


「え、私・・・?」

「小林先輩!?」


 小林は嬉しそうに女性の方へと一歩踏み出す。


「小林先輩、もう少し様子を見ませんか?状況が分かるまで、何もさせない方が良いですよ」

「でも、言葉も分からないし・・」

「それはそうですけど」


 宮園が感じているのは言いようの無い不安。何も根拠などなく、ただこの突然の状況を受け入れられないからこその拒否だ。

 宮園の選択は拒否だが、小林は受け入れる事を既に選んでいる。成人した個人の決定を否定する権利など、他人である宮園にはない。

 引き止める事も出来ないうちに、女性の手にしている杖が小林の頭部へと添えられる。女性が笑みを称え呪文を口にすると、杖が輝きを放ち魔法陣が浮かび上がる。


「あ、いたっ、痛いぃ!!」

「先輩!!」


 小林に駆け寄ろうとするも女性に手で制され立ち止まる。

 目が合えば優しげに微笑みを浮かべるその女性には、敵意があるようには見えなかった。


「乱暴な事、しないで下さい・・」


 しかし小林が何かしらをされ、苦しんでいるのは事実である。

 それと同時に、何かしらをされているのは事実であるが、それを中断する弊害も分からない。


「・・・」


 結局どうすることも出来ずに、ただ見守るしかない。

 そうしているうちに、何かしらは終わったらしい。苦しげに小林が体を起こす。


「先輩!大丈夫ですか!?」

「・・・」


 しかし小林からの反応がない。


『小林先輩?』


 次に小林から発せられた言葉に、宮園は全身が粟立つような感覚に襲われる。

 言葉が通じないのだ。


「・・・何を言っているのか分からないわ」

「こちらの方は適正がありませんので、言葉を与える事か出来なかったのです」

「適正?」

「はい、聖なる巫女としての適正です」


 仄暗い喜びが小林を包む。

 宮園でなく小林が選ばれた。その事実がどうしようもなく嬉しいかった。


「この子はどうなるの?」

「召喚に巻き込まれたのですから、それなりの援助はさせて頂きます」

「そう、帰してあげられないの?」

「残念ながら、還る方法は分からないのです」

「そう・・この子には、ひどい事をされた事もあるけれど、帰れないのは可哀想だわ」


 ほんの出来心だった。どうせ言葉は通じないのだ。ならば心証が悪くなれば良い。そうすれば多少は溜飲が下がる。


「・・お優しいのですね」

「だって、私が巻き込んでしまったんだもの」


 感じるのは優越感。


「不自由はないよう取り計らいます。先ずは色々とご説明したい事もございますのでこちらへ」


 そう言われて案内された別室も内装の美しい部屋だった。


『まさか、日本語が分からなくなってる?』


そんな宮園の言葉を理解出来る者は、もうどこにもいなかった。


「どうぞ、お掛けください」

「はい・・」

「まずはご紹介を、私は召喚士メルエム」


メルエムの口から紡がれる内容は、小林にとっては喜びそのものだった。聖なる巫女は祈りを行う事によりその体内に聖なる力を蓄え、聖域でその身に宿る聖なる力を捧げることの出来る唯一の存在なのだそうだ。


「後ほど、祈りの旅に同行する騎士を五名お選び頂きます」

「はい!」


事情さえ説明して貰えない宮園は、この世界で哀れで惨めな存在だ。そんな存在に成り果てた宮園に、自然と笑みがこぼれた。

ああ、私はこんなにも宮園が嫌いだったのか。


「説明は以上です。何かご質問は?」

「・・・」


最初のほう以外、あまり聞いていなかった。とりあえず五人と旅をするんでしょ。こういう展開だと、その五人が攻略対象って事よね。


「・・・」

「・・質問はないようですね。それでは騎士の紹介を致します。こちらへどうぞ」


部屋を出れば、召喚された部屋に煌びやかな衣装に身を包んだ大勢の男達が待機していた。その中には一際輝く美貌を持つ男が数名確認出来た。他にも並のイケメンはいるが、攻略対象としては物足りない。それ以外は攻略対象とは思えないようなモブだ。

目線だけで男達を吟味していれば、その一番端に目にしたくない人物が映り込む。


「なぜ彼女がまだここに?」


その言葉を口にしたのはメルエムだった。


「申し訳ございません。どうやら聖なる巫女様をご心配をされているようで、案内を断られるのです」

「そうですか・・」


宮園に付き添う騎士はここにいる騎士の中でもトップクラスの美貌を持っている。きっとイケメンに良く見られたくてそんな行動をしているのだと思うと、どうしようもなく腹が立った。


「どうせ会話もできないのに、何が出来るのよ」

「こばやしサマ、ダイジョーブ?」

「・・・は?」


聞き取れる言葉であったはずなのに、理解が追いつかない。


「ダイジョーブ?」


その目に見えるのは、心配と配慮。言葉は授かってないんでしょ。なんでこっちの言葉を話してるのよ。返事なんて出来なかった。


「な、なんで・・」

「聖なる巫女様を気遣っておいででしたので、僭越ながら言葉を教えておりました」

「沙汰は後で下します。これより先は聖なる巫女が側に仕える騎士を選ぶ神聖なる儀式、関係の無い者は退室して頂きます。連れて行きなさい」

「賜りました」


このままではトップクラスのイケメンが宮園について席を外してしまう。それはやめてほしかった。


「まって、彼も騎士なんでしょ!この場に残って!」

「・・聖なる巫女の思し召しです。彼女は外の者に任せなさい」

「畏まりました」


騎士は外にいるらしい別の者に宮園を引き渡すと、また元の位置に戻った。もしかしたら最初からそうするつもりだったのかもしれない。慌てたとはいえ大声を出すなんて、恥ずかしかったかもしれない。


「それでは、選定の儀を始めます」

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