第十二のすゝめ:裏切り、だけとは限らない
「話が進まねーなー!」
「うるせぇんだよ田中さん。いい加減にしてくれ」
「あーもー!」
「雅も黙れ」
「なんだよ! その扱いの違いは!」
作戦会議は非常に難航しています
なんの作戦会議か? それは、いかにしてここシチリアのマフィアたちに言うことを聞かせるか、最悪手を組んでもらいうまく利用するか。についてだ
急進派の田中さんは、単騎で乗り込んでマフィアの頭を潰してくるとかめちゃくちゃ言うし、穏健派の佐藤さんはお金で解決とかできればそれにこしたことは無いのだが、実現不可能なことを言うし、雅はボケだし……
「もういいぜ! 俺が1人で全部しめてやる!」
「田中さん。もうそれ聞いた。無理だって、1人でもあんなに強いのに」
「やはりここは話し合いで……」
「無理だって」
「平和的にだな……」
「アホか」
アホだ。マフィアと平和的に戦おうとするアホが1名
「じゃあ騙しちまえば?」
「お? 東大卒の一応天才。期待してるぞ」
「だから、架空でいいから金を払っちまうんだよ」
「架空って……あいつら現ナマじゃねぇと信用しないんじゃないか?」
「アホはお前だ。何時代だよ。世はビジネスだよ」
雅に言われるとカチンと来る
が、一理あるな。ビジネスという言葉の響きもいい
「でも、具体的にどうすんだよ」
「……まず、俺が社長だ」
「なんでだよ!! ちょっとおいしい役を!」
「……はぁ。これだからゆとりは……」
「あ? もっぺん言ってみろ」
いまなんて言った?
これだからゆとりは、って言ったな? ゆとり教育舐めんなよ!
ゆとり万歳じゃ
「力馬鹿め。こんな詐欺でまで、架空の役職でまで社長になりたがるゆとりな力馬鹿め」
「あーもう分かったよ。で、俺は?」
「社長の息子。ボンボンだ」
「あ?」
てめぇ……借金苦で大変な、社長の息子の御曹司の子供がいるか?
「だから架空だっつーの」
「……田中さんと佐藤さんは?」
「社員」
「少なっ!」
「だから架空だから」
架空架空と鬱陶しいヤローだ
自分の目立てる分野が来たからって調子に乗りやがって……オタクの悪いくせだ。周りはドン引きなんだよ! ざまーミロ!
架空詐欺オタクめ!
「てか、雅イタリア語話せるの?」
「……ふぅ。と・う・ぜ・ん・だろう?」
ガチで死ねばいいと思った!
うん、このがり勉め! 俺は日本で暮らすからイタリア語なんていらねーよ! ざまーミロ!
「一体なにがざまーミロなんだ?」
「あ!? テメェなに人の心読んでんだよ!」
「読唇術だ」
「それ違うからな!」
「ぶつぶつ喋ってるじゃねぇか!」
「マジ!?」
え? 俺考えてることそのまま口から出てるの?
はずかしー……なんだそれ? じゃあなにか? 今考えてるこれも口からだだ漏れなのか? そいつは困ったぜ
雅馬鹿め! ざまーミロ!
「……」
「スルーかよ!?」
「え? なにが?」
「読唇術は?」
「嘘だよ」
テメェ……うざい
「うざいとか言うな」
「あ!? コラてめえやっぱり!」
「来やがったぞ!! マフィアだ! 多分パネファミリーの残党だ!」
「ホテルまで来るのかよ!?」
くそー。このホテルの警備員は一体何をしているんだ?
何をこんな白昼堂々の殴り込みを許してるんだよ!
『ボス……よくもボスを!!』
「なんか知らんがボスって言ったな……」
「御礼参りにわざわざご苦労! 下っ端は門前払いだ」
「いやいや門はもう超えてるから」
なにを悠長に話しこんでんだよ田中さんと佐藤さん。そして雅は逃げるの早い!
へたれにも程があるっての!
『ボスー!! 敵はとります!!』
「「死ねっ!」」
『ぐあぁっ!』
気の毒だ!
気の毒すぎる! 泣けてきた……
覚悟を決めた最後の特攻なのに、その扱いはあまりにも酷いんじゃないか?
『くそぅ……くそぅ』
「あー。コイツはヒデェな」
「あり? 雅いつの間に?」
「いつ、どこからだろうと来れる」
「「このヘタレ」」
「ひっ、酷くねぇ!?」
そりゃそうだ。戦いのたびにいなくなるなんて、ヘタレの極みだ
だいたいそれにしても……あれ? 雅って結構ガタイがいいな。いままでしっかり見たことは無かったが、こんなに威圧があったとは
てか戦えよ!
「雅でけぇな」
「そうか?」
「あぁデカイ。急にでかくなったんじゃねぇ?」
「はは、そんなわけが「離れろ息子!」
は? て……え!? なんで佐藤さんが雅に殴りかかってるの?
「よー気付いたな。あんたなかなかやで」
なぜ急に関西弁みたいに? というかあんな高速パンチを雅がかわすなんてありえない……
偽物か!? 偽物だな!
「本物は今頃寝とる。安心せぇ、ただの一般人を殺したりはせん」
「そうかい。大層ご立派じゃねぇか」
「せやけどな、ワイのマイスファミリーに刃向かうんやったら……一般人やろうとなんやろうと、容赦せーへんぞ」
「ぐあっ!」
……え?
何があった? 俺が飛んでる?
くらったな……ちきしょう。見えやしねー。つかイテェし
今のはあばらに入ったかな……何本かはいったかもしれねぇな、今の衝撃だと。
しかし壁にぶつからねぇな、いつまで飛んでんだ? つか、なんかめちゃくちゃゆっくり飛んでねぇか? こんなことやってるうちにもかなり長いこと考え事してるしな……
つーか。あれか? 死の危機が近いというか、俺死ぬ……の、か?
「グホォ!!」
ヤベ……意識が飛ぶ。あの高速の助走をつけた膝蹴り、ここはマンションの最上階、窓から飛ばされたな、ガラスが砕けたのが分かる
「「息子ォ!!」」
ち…きっしょう……