僕の幼馴染はドローン
別作品で少し消耗したので気晴らしに衝動に任せて書きました。
こんなヒロインは無しでしょうか?
「起きてくださーい!!」
何か聞こえる。いつも聞いている声だけれど、誰だっけ?
「……起きるつもりがありませんね、これは。仕方がありません、最終起床攻性プログラム起動!」
攻性? なんか物騒な響きが……ガガガガガガ!!
朝のまどろみを楽しんでいた僕はいきなり体に走った鋭い痛みに飛び上がった。まるで電流を流されたかのような痛みが……なんで僕の体に電極が付いているんだろうか?
「おはようございます! 圭ちゃん」
そんなことを言って僕に眩しい笑顔を向けてくるのは幼馴染の小田切空奈だった。艶やかな腰まである黒髪に猫みたいに丸い瞳。桜色の小さな唇は可憐な声を紡ぎ、バランスのとれた体つきで誰もが振り返る美少女だった。
実際に彼女を初めて見た者はだいたいが彼女を二度見する。まぁ、それも仕方が無いと思う。だって空奈は……
「ほら、早くしないと朝ごはん食べる時間が無くなりますよ。せっかく遥さんが用意してくれたんですから」
そう言って僕をアームで引っ張ってくる。そのアームは宙に浮いているドローンの物であり、空奈はそのドローンの上で僕に笑顔で催促してくる……全長20㎝の立体ホログラムとして。
そう、僕の幼馴染はドローンに入ったAIだったのです。
僕は桜田圭。普通の高校二年生だけれど、一つだけ人と違うことがある。それは幼馴染がドローンだということだ。正確にはAIである幼馴染である空奈が外で活動するために使っているのがドローンだということなんだけれども。
いつも空奈は僕を起こしに部屋まで来てくれる。幼い頃に起こしに来てくれたことにお礼を言ったらそれが嬉しかったみたいで、それ以来休みの日以外毎日欠かさずに来てくれるのだけれど。正直に言えば朝から電気ショックは勘弁してほしい。
聞けば安全な出力でしかやっていないと言われたけれど。僕の体調をサーチしてからやっているからミスは無いらしい。なんてスペックの無駄遣いだろうか、全国の技術者が怒り狂いそうな話だ。
「今日は私もお弁当のレシピを考えたんですよ」
空奈が僕の横を飛びながら楽しそうにそんなことを言っている。僕が歩きで登校だから朝はこうやって話すのがいつもの光景だった。もしこれがバスや電車だったらこんなにのんびりと話しながら行くことは出来なかっただろうな。
もう慣れたのか通学路の皆さんはいつもの光景と言わんばかりに微笑ましい顔でこちらを見ている気がする。最初はみんな二度見してギョッとしていたもんね。
「聞いていますか? 圭ちゃん」
「今日のお弁当を楽しみにしていろってことだろ? 聞いているよ。ありがとうな、母さんと一緒に作ってくれて」
実際はドローンだから作れないんだけれど、考えてくれるだけでもありがたい。何せ僕は料理が出来ない。本当は出来ないと困るけれど、空奈がいつか自動調理器が出来たら作ってくれると言ってくれているのでそれに期待してしまうのでついつい後回しにしてしまっているんだよね。
「私は圭ちゃんの幼馴染ですからね。圭ちゃんの好みは全てデータで把握しています。味のバランスも完璧に記録しています」
空奈はAIだ。と言っても普通のAIじゃないらしく、僕と一緒に赤ん坊のころから育てられてきたらしい……正直AIの赤ん坊って何って聞きたいんだけれど、そうとしか言えないらしい。
なんでも小田切のおじさんの弟さんが凄い博士らしくて、その博士が開発したAIが空奈らしい。それで一般家庭で育成した場合にどう成長するのかとかなんとかの実験の一環らしいけれど、正直そんなことを忘れているとしか思えないくらいにおじさん達は空奈を溺愛しているんだよね。
以前、こういうのは国の実験じゃないのかって小田切博士に聞いたら個人的な研究だから誰にも文句は言わせないとか言っていた。実際、行動に制限があるわけでもないのできっとそういうことなんだろうな。
「それでですね、私的には今度の誕生日は絶対ウルスエネルギー使用の最新エンジンを使ったドローンが良いってお父さんに言ってる最中なのです。圭ちゃんはどのドローンが良いと思いますか?」
「僕のおすすめは小鳥遊工業のMX-5HRがおすすめかな。軽くて頑丈だし、何より立体ホログラムに一番力を入れている会社だからね」
「メイドインジャパンですね。確かにそれもいいいですね。でもどうして小鳥遊に?」
言える訳ない。その方がよく空奈のホログラムが見れるからなんて。
僕はそれに答えないで歩いていく。そろそろ登校中の他の生徒と合流するころだ。いつものこの時間帯に空奈の友人がやってくるころだし。
「ちょっと、圭ちゃん。答えまだ聞いていませんけれど?」
「ほら、空奈。あれ大島だろう?」
僕が指した方にポニーテールの女子生徒が向こうから走ってきていた。同じクラスの大島瑠衣で空奈の親友だったりする。陸上部で県大会に出れるくらい凄いのに気さくなあっさりとした奴で話しやすく、付き合いやすい。なぜか女生徒に人気のある不思議な奴だったりする。
大島はAIである空奈に対して特別な態度も取らないし、普通に対応してくれる貴重な友人だ。今でこそクラスメイトは空奈と普通に話してくれる人も増えたけれど、そうでないクラスメイトもいまだにいるくらいだから大島の器の大きさが分かるというものだ。
「瑠衣ちゃん! おはようございます!」
「おっはよー! クーちゃん」
真っ直ぐに大島の方まで空奈は飛んで行ってアームで握手してテンション高く二人で飛び跳ねている。それにしても朝からテンションの高い二人だこと。僕にはちょっとそのテンションは朝からはキツイ。
ちなみに何故か大島は空奈のことをクーちゃんと呼ぶ。なんでも空奈の空をくうって最初読んだことが理由らしい。
「先に行ってるよ」
話し出した二人を置いて僕は先に靴箱へと向かう。いつものように上履きを取り出して……あれ?
「……手紙?」
可愛らしい便箋が一つ靴箱に入っている。もしかして間違って入れたかなと思って宛先を見てみると桜田圭となっている……間違いじゃないみたいだ。
ど、ど、どうしよう!? こんな手紙貰ったの初めてなんだけれど! と、とにかく見つからないように急いで僕は鞄にしまうと教室へと駆け込んで行った。
「であるからして、2050年に発見されたウルス鉱石から生成されるウルスエネルギーは環境に悪影響が無く理想的なエネルギーとして急速に普及しており、社会のエネルギー事情を根本的に改革し我々の生活にもはや深く結びついていると言っても過言では……」
今の授業は黒板なんてない代わりにホログラムで表示されるし、教科書、ノートはタブレット一つで十分だ。岸先生も電子チョークでいろいろ書き込んでいるのだけれど、僕はそれどころじゃなかった。
社会科の岸先生の授業が頭に入ってこない。それくらい僕は手紙のことで頭がいっぱいだった。こっそり見つからないように見てみたら、中には可愛らしい字で手紙が入っていたのだから。
『急にこんな手紙を出してすみません。どうしてもお話したいことがあります。放課後、屋上まで来てもらえませんか? 一年A組 湯川美幸』
まさか、僕がこんな手紙を貰うだなんて。もしかしなくても告白なんじゃないだろうか?……まさか、ドッキリとか言わないよな?
初めての経験でドキドキするけれど、だからと言って嬉しいかって聞かれたら微妙かな。
まぁ、何にせよ行ってみないと分からないし。放課後屋上まで行くとしようかな。
それに仮に告白だとしても答えは決まっているしね。
「おい、桜田。今の説明してみせろ」
しまった! 聞いていなかった!……社会の岸先生は別名鬼死先生と呼ばれるくらいの強面のおっかない先生だっていうのに!
「ええっと……」
答えられなくて僕が口ごもると机の上のタブレットに何か表示された。
「ウルスエネルギーは精神に反応して様々な現象を引き起こすことが判明しており、取り扱いに注意が必要ですがその分新しい技術も生み出しており、中でも魔術と呼ばれる技術は僕たちの生活にこれから関わってくると言われています」
「なんだ、聞いていたのか。今、桜田が言った通り……」
良かった、助かった。これは空奈が送ってくれたんだな。サンキュー助かったよ。
僕は空奈が座っている? 斜め前の方に手を合わせてお礼をする。するとホログラムの空奈がこっちを見て親指を立ててきた。
本当に僕にはもったいない出来た幼馴染だよ。それにしても魔術なんて民間利用が出来るようになるのはまだ先だって話らしいから習っても意味があるんだか。
「じゃーん! 今日のお弁当はそぼろ弁当です!」
空奈の言葉通りそぼろに炒り卵、ほうれん草が綺麗に並んでいる。そぼろもぽろぽろ崩れることは無く食べやすくまとまって取れるようになっている。
……うん、美味しい。さすが空奈だ、僕の好みの味付けだ。
「どうでしょうか? 圭ちゃん」
「美味しいよ、空奈。流石だな」
僕が素直に感想を言うとホログラムの空奈はくねくねしながら照れ始めた。何故かドローンまでくねくねし始めるのはなんかシュールなんだけれど。
「クーちゃん、ドローンがくねくねするのはなんか怖い」
「瑠衣ちゃんヒドイ!」
「いや、ドローンはくねくねしないっしょ、普通」
クラスメイトの山下 光大がそんなことを言いながら僕のそぼろを奪おうとしてくる……って、それを取られたらおかずが無くなるじゃないか! それに空奈がくれたお弁当を簡単にくれてやるか!
「いいじゃねぇかよ、ちょっとくらい」
「ダメだね。これは僕のだ」
光大は空奈がAIでも気にしないで話してくれる方のクラスメイトで僕の友達でもある。入学式の時に光大から話しかけてきたことで仲良くなったんだよね。ドローンの空奈がいるにも関わらずに、気にすることなく僕に真っ先に話しかけてきたって言う変わり者だけどね。普通はドローンの方が気になるはずなのに。
後でその時のことを聞いてみたらこんなことを言っていた。
「だってドローンを連れた奴の方が面白そうじゃん」
まるで僕の方が変わりものみたいな扱いだけれど、結果的に空奈にとっては良かったからいいんだけれどね。
僕らはいつもこの四人で昼を過ごしている。だからお昼ご飯も一緒に食べることの方が多い。ちなみに空奈は食べる必要と言うか、食べるものが無いからホログラム上で僕と同じお弁当を食べている。少しでも同じことが出来れば楽しいもんな。
放課後、僕は空奈に用があるから教室で待ってて欲しいと頼んで屋上に向かっていた。大島と光大に一緒にいるように頼んでおいたから大丈夫だと思う。
屋上に上がると風が僕に吹き付けてくる。もうそろそろに入ろうかという11月だからやっぱり屋上は寒いね。とは言え、人気のない場所なんてここぐらいしかないから他に場所なんてないんだけれどね。
しばらく屋上で待っていると一人の女生徒がやって来た。制服のリボンを見れば分かるけれど、一年生みたいだね。彼女が湯川さんかな?
「……ええっと、君が手紙をくれた湯川さん?」
僕が聞くと彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして頷いた。小柄で肩口くらいまでの髪がさらさらと流れる可愛い子だとは思う。
「は、はい。そうです。桜田先輩ですよ……ね?」
「うん、それで話って何か聞いてもいいかな?」
「は、はい!」
なんか緊張しているみたいだ。僕もなんだか緊張してきたぞ。まだ、告白と決まったわけではないのに変な汗を手にかいてきたぞ。
「桜田先輩、その、好きです。私とお付き合いしてください!」
精一杯の勇気を振り絞ってくれたんだろうな。僕はいろんなパターンを予想していたからこのパターン
でも慌てることはない。ふ、だ、大丈夫だ。なんの問題もない。
ど、どうしよう! 緊張してなんか上手く喋れそうにないんですけれど!?
「先輩に幼馴染がいることは知っています。でも、私は、私なら人間ですから、体だってあります。先輩もその方が」
緊張していた頭がスーッと冷静になっていった。あれだけかいていた手汗が引いていく。今の言葉は見過ごせない。
「ごめん、湯川さん。君の告白に応えることは出来ない」
「なんでですか!? 私だって先輩のことが」
「違うんだよ、僕は体があるとか人間だとかそんなことはどうでもいいんだ」
もともと告白だとしても断るつもりだった。それでもなるべく優しく断ろうと思っていたんだ。でも、空奈のことをそんな風に言われたら黙っていられない。
「僕にとって空奈はいてくれるだけでいいんだ。もちろん、僕も健全な男子高校生だからね。そういう気持ちが無いとは言わないけれど、それ以上に空奈が一緒にいることが大事なんだ。だから空奈のことを悪く言う人は受け入れられない。もう分かっているとは思うけれど僕は空奈が好きなんだ。だからごめんなさい」
僕は頭を下げたあと湯川さんの横を通り過ぎて屋上を出ていく。風に乗って泣き声が聞こえてきた気がするけれど僕には関わる権利なんかない。
今は急いで空奈のところへ行きたかった。
「おかえりなさい。用事は終わったんですか?」
大島と光大と一緒に雑談をしていた空奈は僕を見つけて文字通り飛んできた。
「うん、終わったよ。なぁ、空奈。良かったら今日ドローンに付ける飾りを見に行かないか? いつものお礼にプレゼントするよ」
僕の言葉に驚いた後、花が咲くように満開の笑顔を見せながら空奈のホログラムはくるくると踊り始めた。
「おや、デート?」
「お前……なんださらっとそんなことが言えるんだよ……」
大島と光大が何か言っているけれど気にするもんか。嬉しそうに踊り続ける空奈に僕は手を差し出して声をかける。
「ほら、行こう空奈」
「はい!」
ドローンが差し出したアームを僕は優しく手に取る。例えドローンだったとしても僕の大事な幼馴染だ。
だから、僕の幼馴染はドローン(AI入り)だって胸を張っていよう。
こんな幼馴染が欲しかった……かな?(-_-;)