8:敗北から学ぶべきこと、或いはおまえの最終話
私はだんだんと裕福になっていった。原因は、暴力的地下遊戯での人気。ここでの人気は、金になる。
順調だった。強くて可愛い子というイメージを作り上げたおかげで、わざと負ける必要もなくなった。いちいち加減しなくて良いのは、本当にありがたい。今日も、そんな素晴らしい条件での試合中。そうだ、今私は試合を――――。
「しぶといぞ、糞が!」
じゃあ何故? 何故今私は、こんな汚い台詞を言わされている。今、試合中だぞ? 私が有利にいけるはずの試合中だぞ?
「離せっ! 離せっ!」
何故私は、こんなにも焦っている。今日の相手とは再戦だ、力量は把握してる。いくら修行してきたとしても、私が焦らされるような相手じゃない……はずだ。
「離せっ! 離せっ! はぁああなぁああせぇえええええ!」
何故この糞餓鬼はっ、私のっ、足首をっ、こんなに殴られてまで、私の足首を離さないんだ! これだけ殴れば、壊れるはずだろう! こんなにやりすぎたのは、私だって初めてだぞ! 脳みそおかしくなってるはずだろ! なぁ!
「目をえぐられたくなければ離せ! そこから脳を引きずり出してやる!」
離しやがれこの糞餓鬼が! 暴力的地下遊戯は、私のステージなんだ!
「ああああああああああっ」
あ……今の声、私? いい声で鳴くじゃねぇか……。あれ、足が痛ぇな……。
「うおお――」
対戦相手の雄叫び――――そっか、こいつ、私の足首引きちぎりやがったのか。
「うおおおおおおおっ!」
諦めるな私! 倒れる勢いと全体重かけて拳をぶっ込めば、いくらタフなこいつだって――――――――――――――――――――――――――――――――。
次に私が目覚めた理由は、顔面の激痛だった。負けたということはすぐに理解できた。あの時、もろに喰らったあいつの拳の色をよく覚えているから。
「だ、大丈夫か」
心配そうにしているのは、私が駆け上がることで手に入れた恋人。パン屋を経営する、ガタイのいい、周囲からも愛されている立派な男。
「痛てぇ! 顔がっ……」
「メメメス! 動いたらだめだ!」
ああ、どうしてこいつはこうも女々しいんだ? 今やるべきことは、私の顔を潰しやがったあの糞餓鬼からけじめをとることだろうが!
「はぁっ、はぁっ……なぁ、リドルゴ、頼みがある」
「なんでも言ってくれ」
私の顔は綺麗だった。素晴らしかった、愛らしかった。それを失った私を、こいつはまだ愛している。なら、私がそれを利用して復讐できるというのは、当然の権利だ。
「痛っ」
「大丈夫か」
多分、あの敗北で私の人気は下がった。でも復帰すれば、それはプラスに変えることができる。だけど、だけど私には……潰される前と同じクオリティの顔面を用意する金が…………足りない。先月……オババがいきなり身をくらましやがったから、金があっても……どのみちできねぇか。
顔がなきゃ、私の人気は成立しねぇ。ちくしょう、なんでオババの野郎いきなりいなくなっちまったんだよ。スラムを出ても、欠かさず足を運んでいただろうが……。いや、そんなことはない。オババがいなくなる前、私はインタビューだとか自己PRとかそういうので忙しくて、顔を出していなかったじゃないか。
「メメメス、頼みを言ってくれ」
「うるせぇ! 今考えてるんだよ!」
「す……すまん」
チッ、楽になろうとしやがって。本当に私を救いたいなら、待ってろって話だ。そっか。私は今、私の中のリドルゴを失ったんだな。ああ、オババの詫びも……もう終わっちまったし……。
なんだこの、糞みてぇな考え方は。
そっか、私変わらなきゃいけねぇんだ。悪いけどさ、おまえに私が変わるための怒り――――――――全部、ぶつけさせてもらうぜ。私の顔面を潰しやがった、金髪の糞餓鬼め。