7:ポークステーキ
上から光が入ってきたのは、オババが床をあけたから。今の私から見たら、天井だけど。……はぁ、ほんとに一時間か? もっと長かった気がするぜ。
「おい、生きとるか?」
「私は生きてる。あ、こいつが死んだのは私のせいじゃないからな? 勝手に持ち込んだ銃で自滅しやがったんだ」
一応そのへんははっきり言っとかねぇと。こいつらは特権階級様、私のせいにはされたくねぇ。
「わかっとるわかっとる。おぬしはコード404で攻撃できんからのう」
何故か殴れたことは……黙っとくか。
「はぁ、災難だったぜ。悪いけどオババ、迎えに来てくれねぇか? 撃たれちまって――」
「ヒッヒッヒ。オババの力じゃ行っても意味なかろうて。自分で上がってこい」
くそっ、ぶん殴ってやりてぇぜ。
「いてて……」
「こりゃ結構当てられたのう。ところで、死んだ後に動き出さんかったか?」
「チッ、てめぇいろいろ知ってたんだな?」
「ヒッヒッヒ、さてのう。ゾンビ化したんならおぬしは悪くない、むしろ殺して正解、大正解じゃ」
ゾンビだと?
「おい、そんなことよりオババ」
「なんじゃ」
詳しいことを聞くのはまた後だ。今は、私自身を優先しないとマズい。
「いろいろ聞きたいとこだが、とりあえず傷を治してくれ。血が出すぎてくらくらしやがる。金はとるなよ? 意図的かどうかは知らねぇけど、話が違ったからな」
「したたかなやつじゃの。まぁいい、詫びのかわりに今後おぬしが怪我したら、いつでも無料で治してやろう。この街に儂がおる間の話じゃがの」
あんな地下室を増設してるようなやつが、なに言ってんだよ。おまえ、ずっとこのスラムに居着くつもりだろ?
「いっそ借金ごと消えてくれたら助かるぜ。ああ、オババ傷痕は残すなよ? くそっ、目が霞んできやがった」
「ヒッヒッヒ、儂がそんな雑な手術をするわけなかろう。儂はこのゴモラシティで一二を争う腕の持ち主じゃぞ?」
「オババみたいなやつが他にもいるのかよ……」
「さて、どうかのう。ヒッヒッヒ」
私の意識は、そこで途切れる。次の目覚ましになったのは、飯の匂い。美味そうな肉の焼ける匂いだ。
「お、起きたか。大した傷じゃなかったからもう動けるじゃろ?」
「良い腕してるぜ――――う……」
「腹の虫がなっとるのう。どうじゃ? ポークステーキを二枚焼いたのじゃが、一枚譲ってやろうか?」
「なんつータイミングで豚肉出すんだよ」
「いらんのか?」
「いや、いる」
このババア、実はただ寂しくて私を構ってるんじゃねぇだろうな。