6:ビチャ、びちょ、ドバ
馬乗りで殴らせて、興奮で腰を浮かせたタイミングで抜け出した。それから、犬みたいに階段を駆け上がった。その間に撃たれた弾を一発も喰らわずに済んだのは、ただの運か?
「くそっ! かてぇ! おい! あけろオババ、あけろ!」
なんだこれ、ただの床板じゃないのかよ。びくともしやがらねぇ……まさか、上には音が聞こえてないのか? ヤバイぞ……こんな階段あがりきったところを撃たれたら…………。
「あ。あれ?」
地下室の底からは、なんの音も聞こえてこない。
「…………」
目を凝らす。見えたのは、倒れているデブ。
「おい、なにしてんだ……」
聞かなくてもわかった。あいつはなにかしらの要因で今、動けない状態にある。
「…………」
演技かもしれない。だが、そうだとしたらなおさら階段の上にいるのはまずい。
「跳弾か」
額のど真ん中から少しずれた場所、銃弾が突き刺さった痕がある。撃たなくてもいい銃を撃って自爆するなんて、馬鹿な野郎だ。まさに自業自得だな。
「はぁ、一時間まであと何分だ」
服を破いて傷を縛る。しまったな、こいつの服にしとけば良かった。私の服なんかより、よっぽど清潔だろうし。
「ちくしょう、とんだバイトだぜ」
「…………」
死体なんざにビビる私ではないが、ちょっと密室に二人きりというのは気分が悪い。いや、もうこいつは死んだから、厳密に言えば二人ではないのかもしれないが……。
「…………」
「物欲しそうな顔で死にやがって」
こいつの人生は一体なんだったのだろうか。それともこれは、噂に聞く観戦用クローンか?
「クローン観客席つきの会場か……、くそっ、クラクラしやがるな……」
「……あ」
血の流し過ぎによる、幻聴。私は一瞬そう思い、それが無駄にビビリを大きくした。
「ひっ……おまえ、生きてたのかよっ」
「あ……ぐあ…………」
な、なんだこいつ、様子がおかしいぞ。どこ見てやがる、そのおかしな表情はっ……なんだっ!
「嘘だろ?」
腰が、抜けてる……だと? くそっ! くそっ、私はビビってねぇ! マジかよ、おい! くるな! くるな!
「ぐああああああああああ!」
「うあああああああああああああっ!」
「ぐぶォエッ!」
ビチャ、びちょ、ドバ。私になにかがかかる。
「あ、ああ? あ? え?」
殴れた……え? こいつを、殴れた……のか? 間違いない、私の拳がこいつの太った腹にがっつり食い込んでる。感触だってある。じゃあ、私にかかったのは……。
「臭っ……てめぇ、ゲロかけやがったな!」
「ぐあ……ぎゃご……うぐぉ」
殴れる、こいつ……殴れるぞ! なんでだ? コード404は? 人間判定は? ええい、構うか! とにかくやっちまえ!
「おらぁあああああ!」
「ぐぎっ! ぐあぶぃ!」
デブに馬乗りになると、股がひらきすぎてやりずらい。ああ、余計なことを考えるな、今はとにかくこのリスクをぶっ倒すことだけを考えろ、血を流しすぎてぶっ倒れちまう前に!