5:人間の基準
階段を先に降りたのは失敗だった。
「いって……蹴落とすことはねぇだろ!」
そこで私は気がつく、思っていたよりこの豚は強いと。
「ぐっ……!」
もちろん、私に打撃で致命傷を与えることはできない程度だ。だけど話に聞いていたより……きやがる。
「このっ……うっ……ぎ」
これが噂に聞いてたコード404か……ぶん殴ろうとした瞬間体がかたまりやがった。やっかいだな、反動で体に負担がかかる。
「ぎあっ!」
くそっ……目に指をっ……。おかしい、防御はできるはずじゃなかったか?
「くっ」
二度も目をやらせるかよ。ちくしょう、痛てぇ。白目が真っ赤になってるかもな……試合前じゃなくてよかったぜ。
「なるほど、そういうことか」
早めに腕を楯にするのは問題ない。でも相手が動き出してから足で防ごうとすると、体が硬直する。ようは相手のダメージになるような行動は、攻撃だろうが防御だろうがだめってことだろ? なら避ければいい。
「当たんねぇよ、そんなどんくさい動きじゃ」
からくりがわかっちまえば楽なバイトだ。サンキューオババ。ああ、そうか、そういうことか。こいつのへなちょこパンチが妙に効いたのは、体に力入れて抵抗することも、こいつの手首を痛める可能性の高い攻撃とみなされて止められてるってことだな。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
悪いな豚野郎。避け続けりゃいいってわかった時点で、おまえの楽しみは終わりだよ。さあ、何分動ける? その太った体で。
「ふぅ、ふっ……ふふぅ」
もう呼吸が乱れてんじゃねぇか。ほんと豚みたいな……いや、豚って私みたいな貧乏人が罵倒に使っていい言葉なのか? 高級食材じゃねぇか。ああ、腹へった――――。
「ぎゃあっ」
痛っ……な、なにしやがっ……。
「ぎゃっ! ぎゃっ! ぎぃっ!」
嘘だろ……撃ちやがった……。
「おい! オババ、こいつ銃を…………」
階段の上の入り口、いつのまに閉めやがったんだ? くそ、ぶっ壊すしかねぇか。
「ど……どけよ」
狭い階段にでけぇ図体で座るんじゃねぇ……。私はおまえをどけれねぇんだよ。
「どけって! くそっ!」
また撃ちやがった。
「……ちゃん」
ん? 今なにか言いやがったか?
「メメメスちゃん……」
ぼそぼそしゃべりやがって……もう近づかねぇよ。腕に一発……足に三発……見た感じ口径が小さいし当たりどころが悪くないから立ってられるが……正直避け続けるのはきついぜ。
「メメメスちゃん……もう撃たないから殴らせて……」
気持ちわりい提案だが、のるしかねぇな。隙を見て階段を駆け上がり、出口を全力でぶち抜く。チャンスは一回だ……一回しかねぇぞ。