1:自称夢カワイイ
私は媚びた。駆け上がるために。
「さぁ! 本日デビューするのは夢カワイイを自称するファイター、メメメスちゃんだ!」
この実況はどこでやっているのか。別室か、それとも別の街か? まぁ、どちらにせよ安全圏から眺めているだけのクズであることにかわりはない。そんなやつ、私からすればただのゴミだ。
「試合前恒例っ! 愛を込めて金を放り投げる一分間だ! ¥10,000-以上投げればモニターに愛のメッセージを表示できるぞ! さぁ! 新人を値踏みしろ!」
私はここに来る前に金を使いすぎた。だからこそ私はこの時間にかける。視聴者が任意で金額を決め、プレイヤーに投げるこの時間を。
『自称夢カワイイとか痛くない?』
くだらない。¥10,000-も使って人を馬鹿にするなんて。ここは……申し訳無さそうな顔をするべきか? いや、落ち込んだ顔が正解か。
¥500-。¥900-。¥600-……三桁が続いても気にするな。新人なんてこんなもんだ。でもこの時間帯なら混ざってるはず……目の肥えた初物好きが!
『ビジュアルはいいじゃん』
来た! 初の肯定的なメッセージ! よし! 鏡の前で何度も練習した驚いてからの喜びを隠せない顔をしろ! 慎重にいけよ? このチャンスを無駄にするんじゃないぞ私!
『うはwwめっちゃ可愛いじゃん』
『メメメスちゃんのファンになります』
『こういうキャラ無理だわ』
『頑張ってる感じするし小生はこの子とゲェムの未来のために推すことにしますわ。まぁがんばりなさい。』
メッセージで自己主張。悪くない、悪くない流れ! おまえみたいのは必要なんだ、口下手だけど使命感をもって私を推してくれるやつが。本気で見ているやつが。
『把握しまつた! ぼくもメメメスちゃん押忍お! おすおすお!』
あえて押忍? いや……もしこれがタイプミスなら、いける。
『おすおすお』
『おすおすお』
『おすおすお』
続いた……あの小生は匿名の有名人か。いいぞ、私の狙ったとおりだ。この試合でデビューするのは間違ってなかった。
『絶滅危惧種を守る会(最近見ない萌のステレオタイプなので)』
『メメメスちゃん^^』
来てる、別のタイプもいい感じに食いついてきてる!
『メメメスちゃん^^』
『^^メメメスちゃん』
『メメメスちゃん^^』
『メメメスはいいぞ』
『メメメスちゃんをすこれ』
『^^メメメスちゃん』
『メメメメメメメスちゃんゃちスメメメメメメメ』
『メ メ メ ス ち ゃ ん』
『^^メメメスちゃん』
よし! よしよしよし! 私は勝った、勝ったぞ! 顔に金をかけたかいがあった。さぁ、次の仕事だ。
「こんなに……はじめて見た私をこんなに応援してもらえるなんて、こんなにこんなに嬉しいのはじめてです! がんばります! こんなに嬉しいのはじめてです! ありがとうございます!」
ここは過剰でいい。同じ言葉を繰り返して、計算ではないことを演出しろ。感極まって言葉が選べない私を演出しろ。
「おおっと! 新人にしては驚きの金額が投げられたぞ! メメメスちゃんは熱い期待に応える試合をやれるのかぁああああ!」
ここは暴力的地下遊戯。愛されれば理不尽の風上に立てる。でも安心して対戦者さん、私は今日試合には勝つつもりはないから。がんばってがんばって負けるのがベスト。私は遊びで選手になったんじゃない。だから考えて、考えて考えて必要な勝ちだけをとれ。だって私は、のし上がらないといけないから。自分が自分であるために、顔をいじってまで戦っているのだから。