ブックカバーの歓び ~紙製~
さて、書皮の話が出たのでブックカバーの話を。
前回お話しした通り、本には本文を保護する表紙がついていて、さらにその表紙の外側にかぶせたコート紙製の、これをカバーという。ブックカバーとは、カバーのさらに外に着ける紙や布、革などで作られた書籍のいたみを少なくするためのモノをさす。
いちばん簡単なブックカバーといえば紙製のモノだろう。手元にかわいらしい包装紙があればものの数分で作ることができる。
まずは包装紙を横長に置いて、その上に本を縦に置く。この本の天地にあわせて上下の幅を決め、谷折りで折る。ピッタリではなく、ほんの数ミリ余裕があるのが好ましい。
横幅はまず表紙側から、表紙の内側5センチ以上に届くように内側に折る。
背表紙側は、いちど表紙側にきちんとカバーをかませた状態で決めるといい。本が閉じているその姿にあわせてカバー紙を巻き、背表紙にちょうど沿う場所で折ってから、余りが多すぎる場合は切る。目安は背表紙に五センチ以上かかるように。
こうすると本が閉じたときや開いた時の遊びの差、あとは紙の厚みによる余裕分を計算しなくて済むので楽なのだ。
どうしても計算で折り目を決めたい方は下を参考に。
上下=実測した本の縦幅+(表紙の厚み×2)
横幅=実測した本の横幅+本の厚み+(表紙の厚み×2)
この時、折り返した部分が袋になっているので、そこに表紙を突っ込むとずれにくくなる。余談だがもう少し手をかけるつもりならば、ハサミで小さく切れ込みを入れてしっかりと本に添わせる折り方が、ネットで検索すれば出てくる。手順は少し複雑だが、アザとーはそちらを好んで使う。
で、ここまで読んでお気づきだろうか、「それって本屋さんでつけてくれる書皮と何が違うの?」と。
まったく同じである。だからこうした紙製のブックカバーも、人によっては書皮と呼ぶ。
この紙製ブックカバー、サイズが自由自在であるというのも魅力の一つである。
アザとーはカルトナージュで作ったものと布で作ったブックカバーを愛用しているが、これはそれぞれサイズが決まっている。手元にあるのは文庫本サイズとジュニア文庫サイズ、あとは四六版サイズのみ。もっとも本を持ち歩く癖があり、且つ文庫本至上主義であるアザとーは、この三サイズがあれば普段は十分に事足りるのだが。
困るのは勉強用に買った参考書や、ちょっと特殊なサイズの本である。実は百均に行けばいろんなサイズのビニール製カバーが手に入るのだが……家にたった一冊二冊ある特殊な本のためにわざわざ複数枚入りのパックを買うのもなんだかなあ……。たった一冊二冊のために手芸道具を並べるのはもっとめんどくさいし……。
という時に便利なのが紙製のブックカバーなのだ。何しろ大きな紙を用意できれば好きなサイズに切って調整可能、本にあわせて折るだけなので調整可能、ありとあらゆるサイズの本に対応可能であるという優れモノなのである。
さらに紙のブックカバーには紙質にこだわるという遊びができる。百均で同柄の包装紙を大量に買い込み、これまた百均で手に入るラベルシールやレタリングシールを駆使すれば、自分好みの柄で統一されたおしゃれな本棚なんてのも作れる。
百均ではなく画材店やホームセンターに行けばさらに紙のバリエーションは増えて、ザラ感が心地よい和紙や懐かしのわら半紙、さらにいろんな加工を施したシンプルだがおしゃれな紙がたくさんある。しかも紙だから驚くほど高価ということはあまりない。プリントされた柄のかわいらしさではなく、素材となる紙の質感を楽しみたいのならこちらがオススメ。
さて、どのような紙がブックカバーに向いているのか……ブックカバーは折って作るものだから、イメージとしては折り紙を目安にすればいい。
画用紙のような分厚い紙は折り紙に向いていない。固い繊維がぼこぼこと塊になり、まっすぐ折ることさえ難しい。
同じ厚めの紙でも和紙やクラフト紙は繊維が柔らかくて折るのが容易である。薄めのものを選べばしっかりと折ることができるので、ある程度の堅牢さが求められるブックカバーに最適な紙である。
逆に薄すぎるものも良くない。ティッシュやデコパージュ用紙では紙の張りが足りないのだ。特にデコパージュ用の紙はおしゃれなプリントと程よい透け感がかわいらしくて手が向くだろうが、小さな折り鶴程度ならいざ知らず、本の表紙という大きな面積を折りくるむには、素材的に少し弱すぎる。
ちなみに薄いのに程よい張りがあって折りやすく、透け感があるのでビニール感覚で使える素材が一つある。パラピン紙だ。
古書店が好きな方なら、表紙や函に薄い保護用の紙がかぶせてあるのを見たことがあるだろう、アレである。特に岩波書店の古いものなどはコート紙のカバーではなく表紙の上に直接パラピン紙をかぶせて販売していたので、本に触れる人ならば一度も見たことすらないということはないはず。
本のカバー紙のほかにも薬包紙やトレーシングペーパー、料理用のクッキングシートや……あと、昆虫採集が趣味の方は絶対に知っている、展翅テープや三角紙に使われているので、人生で一度も触れたことがないという人はいないはず。そのぐらいありふれた「透ける紙」がパラピン紙。
このパラピン紙、要するにはパラフィン紙ってやつである。特に本にかけるものはグラシン紙というパラフィンをひく前の状態のものが良く使われる。同様に硫酸紙という物もあるが、こうしたものを一緒くたにして「パラピン紙」と呼んでいるわけである。
これだけ世にありふれた素材でありながら、ある程度大きなサラの状態でこの紙を見かけることはあまりない。百均のラッピングコーナーで見かけることもあるが、いつでも置いてあるとは限らない。一番確実にいつでも手に入るのは製図用のトレーシングペーパーぐらいだろうか。
実際にA4サイズ程度のトレーシングペーパーは百均でも常時売り場に置かれているし、文庫本だけにかけるならばこの程度の大きさで十分用は足りる。キッチンペーパーも使えそうな気がするだろうが、パラフィン加工されている分の厚みとツルツル感があって扱いにくい。お試しで使うならトレーシングペーパーから始めるのが一番いい。
そしてこの時に覚えてほしいのが、前出のハサミでちょっと切れ込みを入れるしっかりしたブックカバーの折り方。透け感のある紙を折ると重なった部分が表から見えてしまうので、表に折り目の出ないこの方法が一番美しいのだ。
透け感のある紙の扱いと、このちょっと難しいカバーのかけ方を覚えてしまえば、実は『岩波書店ごっこ』が楽しめる。
アザとーのように古書店の前にある投げ売りコーナーをあさるのが趣味であると、コート紙のカバーの欠損がひどいものを手にすることもある。多く廉価版である文庫本は『消耗品』なのだから読むにはそれで十分ではあるが、それでは遊び心がない。だからコート紙のカバーを外して薄紙のカバーを張り、かつての岩波書店本のように偽装して遊ぶのだ。
多く文庫本はコート紙のカバーを外すと同レーベルは同一柄の、そっけないほどシンプルなデザインであることが多い。だから薄紙にくるむと一気に古書感が出て美しい。消耗品として読み捨てるつもりの本ならば一時の楽しみとしてはぜいたくすぎるほどの遊びである。
ただしこのグラシン紙……長期保存用には向いていない。紙である以上は陽にやけて劣化する。古本屋で見かけるおそらく元パラ(出荷時にかけられていたパラフィン紙)は茶色く焼けてもろくなっており、手に取るとパラパラと崩れ落ちてくる。もしも古い本なのにきれいなパラフィン紙が貼ってあれば、それは古書店の店員さんが新しいものに取り換えてくれた手間の証なのである。
ちなみに一年や二年でそこまで劣化するものじゃないし、何より外のパラフィン紙が先に焼けてくれるのだから中身であるほんの日焼けを防ぐ効果は十分にある。定期的に取り換えるなら、愛蔵本を並べた棚を古書店風に演出するブックカバーとしても十分実用に足るだろう。
要するには自分がどのように読書という行為と向き合うか、なのである。
アザとーのように本は消耗品だと考えているなら、ブックカバーに金をかけたり手間をかけるのは惜しい。だからといって遊び心がないのも楽しくない。ならば読書という行為を楽しむ手立てとしてブックカバーをかけようと、そう思うのも悪くはない。
また、自分の読んだ本は長く棚に並べておきたい向きならば、ホコリや日焼けから保護するための保存法としてブックカバーを活用した方がいい。アザとーも長く手元に置きたい愛蔵本には特に丁寧に書皮をかけてある。
またはブックカバーをかける手間さえ惜しい、本など読んだら次、読んだら次と思っているなら、ブックカバーなどもちろん不要である。
せっかくなのでこの機にお試しで一冊、薄紙のブックカバーを丁寧にかけながら、自分の読書スタイルについて見つめてみてはどうだろうか。きっと今よりも深く読書を楽しめるようになること請け合いなのである。




