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書皮 ~読書の安心を守る盾~

 今回は書皮の話……

 耳慣れない言葉なので、『書皮とはなんぞ?』と思う方も多いだろう。なんのことはない、聞けば誰もが知っているアレ……本屋さんで「カバーはお付けしますか~?」と出してくるアレ……つまり書店名が印刷された紙製のブックカバーのことだ。

 この『書皮』という文化があるのは日本だけらしい。もっとも、ご本家日本でもエコブームに押されてすたれつつある文化ではあるけれど。

 だって考えてみてほしい、本には表紙というものがある。そもそもこの表紙が本文紙よりも分厚い紙で作られていて、本文紙の保護を担う。さらにその表にカバー紙が巻いてあって表紙の保護を担う。さらに外側にまいてカバー紙の保護を担うのが書皮であるから、これ過剰包装はなはだしいではないか。

 だからエコに気を使って、つい「いりません」と言ってしまう。ゆえにすたれがちな文化なのである。

 しかし何事にも好事家というのはいるもので、この書皮をこよなく愛する『書皮愛好家』という者が存在する。この書皮は広告も兼ねているがゆえに書店ごとにデザインが違い、十分にコレクションアイテムとして成立するのだ。

 いま、うちの近所にある書店はいずれも大手チェーン……GEOとTSUTAYAだが、この2店とも自社のロゴを印刷した書皮をかけてくれる。少し足をのばせばショッピングモール内に未来屋書店とくまざわ書店があるが、このいずれもが書店名を印刷した書皮を使っている。

 もしこれが小さな個人経営の書店が多かった昔ならば、もっとあまたの書皮があったに違いない。そう思えばコレクションしてしまう気持ちもわからなくはないのだ。

 ちなみにこの書皮、私の手元にあるものはいずれもクラフト紙に藍色や灰色の単色で印刷を乗せたシンプルなモノばかりである。柄はストライプや市松模様、または十分な余白をとってラインと書店ロゴのみという……こう言っちゃ悪いが、俺の美的センス的には野暮ったいモノばかりだ。

 ネットで『書皮』というワードで画像検索すれば、もっと洒落たものもあるが、多くは基本的に色数少なく、地はクラフト紙の色で、全体的に地味な見た目のものばかりである。

 例えば人気イラストレーターの手によるかわいらしい女の子を描いた表紙の本など、この書皮にくるむと、せっかくの派手さが隠れてしまってもったいないと思うかもしれない。その程度には地味なもの、それが書皮である。

 さて、地味ではあるが、この書皮、アザとーはかけた方がいいと思う派である。もちろん表紙を保護するという目的もあるが、一番は他人の目を気にしてのことだ。

 例えば電車で文庫本を広げたとき、向かいに座った人の視線が気になる。なぜなら電車で本を広げるという行為は、対面に向かって表紙を見せびらかす行為に他ならない。ここで読書に対するセンスが問われるのである。

 電車の中やファミレスの窓際で本を読む他人の手元を、他人は意外に見ているものだ。これは私が読書好きだからではなく、人間というのは他人に無関心ではいられない生き物なのだ。それ故に他人の読んでいる本が気になって仕方ない。

 想像してみてほしい、電車で向かいに楚々とした黒髪の長い女性が座っている姿を。彼女はレンズの小さな銀縁のメガネをかけて、いかにも理性的な風貌だ。服装も体になじんだビジネススーツをきっちりと着こなしており、どこからどう見ても『仕事のできるいい女』風であるのを。

 さて、この彼女が傍らに置いたバッグから本を取り出した。タイトルは……『イってはいけない肛門凌辱24時』、表紙には『プラグイン!』されたアヘ顔美少女が描かれているとしよう。そんなん……めっちゃ気になるじゃん? 

 常識人ならここで「公序良俗的な」とか「子供も見ているかもしれないのに」とかいうべきなんだろうけど、そういう建前ふっ飛ばして本音を言う。そんなん、本能的に気になって仕方ないに決まってる!

 しかも、さらに……お姉さんがページをめくりながら時々、「ふふっ」なんて笑い声をあげようもんなら……もしかしたら正月恒例の某番組のパロディなのか、それともエロなのか、気になってしまって検索必至に決まってる。

 まあ、この例えはちょっと煽りすぎだが……つまり、自分もそのくらい気になるのだから、他人も自分の手元にある本を気にしているかもしれないと思ってしまうのである。

 そうなると、自分の読んでいる本の表紙をおおっぴらに見せびらかして歩くのは恥ずかしい。せっかくの読書に身が入らない。

 そういう時に役にたつのが書皮である。

 それ故に書皮のデザインはシンプルに、そしてあからさまに買った書店でかけてもらった感を醸し出していなくてはならない。それにより種々雑多、様々なジャンルの本がすべて『書店で買った本』というイメージで統一される。

 すると何が起きるのか……先ほどのお姉さんに再登場していただこう。

 いかにも『できる女』風な彼女、電車の中で一冊の本を取り出しました、その本には紀伊国屋書店の書皮がかけてありました……と、これだけで彼女の手元にあるのは単なる『本』だと周りに認識される。たとえその中身が『イってはいけない肛門凌辱24時』だったとしても。

 さらに、彼女が読書中、「ふふっ」と声を出して笑ったとしても、「あ~、面白い『本』を読んでいるのね」で済まされてしまう。つまり書皮1枚かけただけで『本の内容』ではなく『本を読む』という行為自体に目が向くのである。これ、ほんと。

 だから衆人環境の中で読書をするとき、たった1枚の書皮が人目からあなたを守る盾となる。安心して読書にいそしみたいのならばぜひとも書皮を、エコとか言ってられないくらいの効果がある。


 ちなみにこの書皮、本棚に本をしまう時には剥いてしまう人が多いだろうが、実は裏返せばただの無地のクラフト紙なので、背表紙の部分にタイトルを書きこんでかけなおすと統一感のあるおしゃれな本棚が出来上がる。

 もらったものを長く使うという点では、エコに反しているわけではないのだ。


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