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書籍に付箋 ~本は消耗品である~

 少し前のことだ、ネットで『本に付箋を貼らないで』という注意喚起が流されているのを見た。付箋をはがそうとしてページの一部がペローンとはがれた本の写真も添えられていて、「あー、うんうん、付箋ってそうなるよね~」と思ったものだ。

 もしもあなたが本にできるだけ傷をつけたくないと思っているのならば、付箋はご法度だ。弱った紙が破れる危険性だけではなく、うっすらと残った糊は年月を経て変質すれば染みとなる可能性もある。特に図書館で借りた本や稀覯書に付箋を貼るのは絶対ダメ、さすがのアザとーも激おこレベルの暴挙なのだ。しかし、手元において勉強のために何度も開く本にはベッタベタに付箋を貼りまくる、なぜなら書籍など消耗品なのだから。

 この二つは相反しない。消耗品だからこそ保存するつもりならば丁寧な扱いが必要であり、だからこそ図書館の本や後世に残すべき希少本を乱暴に扱うようなことをしてはいけない。また、消耗品だからこそ自分の手元で消費する書籍なら少々乱暴に扱っても惜しくないよと……要するに付箋を貼るというのは『乱暴な扱い』なのだ。

 付箋だけではなく、セロテープもよろしくない。ほんのページを破いてしまったりすると、つい簡単に補修しようと使ってしまいがちだが、これが数十年を経ると劣化して本のページに染み込んだ接着剤が四角く茶色いしみとなって残る。古本屋をこよなく愛するアザとーはこうした無知による汚れも元の持ち主の愛情と考えて愛でるが、普通は古本としての価値を落とす単なる汚れとして扱われる。

 ならば本を完全な状態で後世に残すためにはどうすればいいのか……簡単である。買った時のシュリンクは開封せず、さらにジップ袋に入れて脱気して保存すればよい。しかし、これでは手に取って開いて読むものであるという本の機能は果たされない。

 単純に考えよう、ここに200ページ程度の本があるとする。この中身を読むには200回、ページをめくる動作を行わなくてはならない。つまり本はページ数と同じ回数だけ人の手に触れる。どんなに清潔にしているつもりでも人の手というものは皮脂や老廃物で汚れており、これが手垢となってページにこすりつけられる。

 また、開き癖というものもある。本を開いた状態で伏せておくなんていうのは論外だが、普通に読んでいても本には開き癖というものがつく。開いたことのないページはピシッと背までサラ紙状態であるのに対し、人がめくったページは紙の角がわずかにこすれて、背のあたりでは本を開いた時の紙の捩れが残っている。そのため古本屋で手に入れた文庫本などは指に触れるページの角も柔らかく、読むときにページを開きやすい。これが新品新刊の本であればページをめくろうとする指先に紙の固さを感じることだろう。

 余談ではあるが、古本屋で参考書など買うと以前の持ち主がどこまでをどのぐらい勉強したのか、開き癖でわかってしまうことがある。最初の数十ページは何回も開いては閉じてを繰り返した癖がついて柔らかくページがめくれるのに、後半のページは新しい本をめくるがごとく固くて紙の劣化もほとんどない状態であるなんてことがよくあるのだ。

 この開き癖、本を三十度ぐらいの角度で開きつつ読めば見た目的にはほとんど癖がつかないのだが、たとえ三十度であっても本を開いたのであれば、まっすぐだった紙に三十度分の開き癖がつくということで……絶対に開き癖をつけたくないのなら本は開いてはいけない。

 さらに書籍には『紙の劣化』というキズもつく。人の指が触れれば紙の表面は微細に擦られてすり減る。そうしたダメージの蓄積や折れたり曲げられたりといった見た目にもわかるキズまで、本は愛されれば愛されるほど劣化してゆくものなのだ。

 また、綴じに使った素材や紙自体の経年劣化というものもある。無線綴じにした本――主にコミック本などは、年月を経て糊が固くてもろくなり、ページがパリっと抜け落ちてしまうことがあるのだ。紙自体も古くなればページをめくるだけで崩れそうなほどもろくなる。最近は糊や紙自体の品質があがっているからそうでもないが、そもそも酸性紙の耐用年数は50年といわれている。無限ではない。

 本棚が日向にあれば小口の天が日焼けする。古本屋などの本は紙自体がしっとりと茶色を吸い込んだような具合になっているが、あれが日焼けである。

 脱気して保存する方法は、こうした日焼けや経年劣化を防ぐ。ジップロックに入れて空気を抜けばいいだけなのだから、簡単お手軽にピカピカ新品状態の本が保存できる。

 だが……そこまでして手元に『置いておくだけ』の価値など、書籍にあるのだろうか。書籍とは見た目や品質を楽しむ芸術品ではなく、手に取って中身を読んで愛でる実用品だというのに。

 なればこそ、『本は消耗品』なのである。手に取り、心行くまで中身を楽しむものだから、劣化はするのが当たり前なのだ。劣化するほどの時を共に過ごした『愛読書』にこそ価値がある、それが本の神髄なり。

 そうして手元で消費してしまう『消耗品』としての本には遠慮なく付箋を貼り、書き込みをしてしまおう。特に勉強用の本であれば付箋ほど便利なツールはない。

 付箋の最大の利点は『落ちにくい』ということだ。付箋の代わりに三角栞を折り紙で作るという手もあるが、この栞は落ちやすくて、持ち歩きする本には不向きだ。

 さらに付箋であれば、ちょっとしたメモを書きこむことができる。しおりを挟んだだけでは何のためにそのページをマークしたのかわからなくなりがちだが、付箋であればちょっと目的を書きこむだけで何のためにマークしたのかわかるようになる。透ける素材の付箋を選べばマーカーで線を引く感覚で本文の上にも使える。

 そして勉強のための本に限り、付箋は『ご褒美』になる。

 勉強とは何かの解説をサラッと読み流してその意味を『知る』ことではない。特に大人になってからの勉強とは知識を自分の身になるまでかみ砕いて『理解』することをさすのだ。だから勉強用の本は同じところを行きつ戻りつ、何回も同じページをめくり、知りたい知識のところまで戻り、そして先に進んでを繰り返すものだ。だから勉強用の本は特に消耗品特有の痛みや傷がついている方が「勉強した!」という実感がわく。つまり付箋はこうした痛みや傷と同じく「勉強した!」と実感させてくれる絶好の小道具なのだ。

 付箋はカラフルだったりかわいらしい見た目をしていたり、パッと見ただけでどれだけ貼ってあるのかがわかりやすいというビジュアル的な強みがある。例えば『よくできました』のハンコの感覚で勉強したページに貼れば、『どれだけ勉強したのか』が一目でわかるという仕組みだ。自分がどれだけ努力したのかが自分の目で、視覚的に認識できるというのはモチベーションにつながる。

 付箋を貼りながら何度も同じところを復習し、また先に進んでわからないところがあれば前に戻って付箋を貼り……これを繰り返していると本は挟まれた付箋の厚みで膨らんでくる。つまり傷がつく、この傷が自分の中に取り込んだ知識の数なのだ。所詮消耗品である書籍はいずれキズが付く運命、ならば本棚に飾っておくよりは傷つくほどに活用した方がいい。これがアザとーが『勉強用の本には付箋を使え』と言い張る理由。

 ただし、最後にもう一度だけ言っておく。図書館の本や他人から借りた本に付箋を貼るのは絶対禁止! それは『あなたの本』じゃない。

 図書館の本は多くの人が使う知的財産として、図書館の職員の人たちがメンテしてくれている、だからこそ『消耗品』でありながら長く保存することができるのだ。そうした人たちの仕事をわざわざ増やすようなことをしてはいけない。

 自分が所有する本になら、それがどれほど高価な本であっても、好きなだけ付箋を貼ればいい。本など所詮『消耗品』であり、いずれ朽ちるものなのだから惜しがることはない。他人も使う消耗品なのか、自分だけが使う消耗品なのかをきちんと区別しろ、ということなのだ。

 そのうえで勉強のための本には付箋を貼ることを強くお勧めする。ほんと、一回やってみるとマジで効果わかるから。


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