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(3)

よろしくお願いします!

【2】幼少期

(3)

 ジーモの愛称で呼ばれるジーモーサム・ソメヤヨラも5歳になった。

 ジーモの前世において七五三があるように、この世界での5歳というのも一つの節目となっている。

「これより、魔術の解禁式を始める。5歳代表、ジーモーサム・ソメヤヨラ、前へ」

「はいっ」

 大勢の客人の集まる会場の中に響く慇懃な声。

 声の主はジーモの父・ルフォクト・ソメヤヨラ。

 ここは、ジーモたち5歳児と領地の内外からの来賓を集めた魔術の解禁式の会場。

自身の名を呼ばれたジーモは少しも臆することなく、子供らしい元気な声で返事をすると、会場の上座にある壇上に上がり、一度振り返ってから微笑を浮かべながら会場の列席者に向けて貴族の礼で挨拶をし、再度振り返って数歩進み父であるルフォクト・ソメヤヨラの正面に立った。

「ジーモ、おめでとう。ついに魔術の解禁だな」

 小声でそう言って、ルフォは一丁のライフルをジーモに手渡した。

 ライフルといっても、子供の体格に合わせた小型なものだ。

「はいっ、父上!」

「ふふふ、ジーモ、私からはこれを」

「はいっ、母上!」

 ルフォの隣に立つのは、ジーモの母親のカルディナミナ・ソメヤヨラ。

カルディナからは、一本の短刀が渡される。

 とても精緻な彫刻が施され、黒く美しい宝石が一つあしらわれているが、その短刀の持つ絶妙なバランスの美しさは決して下品なものではなく、機能美とでもいうような洗練されたものだった。

 護身用の短刀ではあるが、父親のルフォから受け取ったライフルの銃身に取り付けることの出来る銃剣小銃用の短刀でもある。

 ジーモは、ライフルを右腕で抱え、短刀を腰に帯刀した。

「さぁ、新しい魔術師たちの誕生だ。みな、祝福してくれ」

 ルフォの言葉に、会場に盛大な拍手と歓声が巻き起こる。

 ジーモも感極まったように身体を震わせている。

 何せ、ジーモはこの日を待ち遠しく待っていたのだから。

(やっと、公然と魔術を使わせてもらえるっ!)

 魔術――

 それは魔法、念力、超能力。

 そういった類の異能の力のことである。

 この世界における魔術の特性は、超能力のサイコキネシス、念動力に近いものが多い。

 不可視のエネルギーを操り、干渉する。

 その魔術の解禁が5歳のこの日なのだ。

 もっともジーモの場合隠れて独学で魔術を研究していたのだが、あくまで隠れて、であり、見つかれば説教されたこともある。それだけ、危険も伴うのが魔術である。

 では、魔術の解禁の日にどうしてライフルが贈られるのか?

 それは、ライフル――89式アサルトライフル、又は89式自動小銃とか呼ばれている――に魔力を込めて銃弾を放つ。

それがオーソドックスな魔術の使い方だからだ。

 魔力――

 それはゲームなどにおけるMPとかそういったものにあたるだろうか。

 魔術を使うための原動力、エネルギーみたいなものだ。

 ジーモが贈られたライフルは弾奏の代わりに魔貨を嵌め、魔貨から吸い上げた魔力をライフルに流し込むことにより魔力の弾丸が装填される。

 そうしてトリガーを引けば、岩をも貫く魔力弾が放たれる。

 魔貨――

これは、この国の貨幣でもある。

 白貨・金貨・銀貨・銅貨――どれもが魔貨である。

 500円玉くらいのサイズで薄めのドーナツのような形をしている。

 元々はこの魔貨。

 魔術の媒体として始まり、今では様々な魔道具の動力としても使われている。

 その多様な用途と価値の高さ、容易に持ち運べる大きさから、貨幣として使われるようになった。

 ただ、魔術の媒体や魔道具の動力として価値があるのは白貨・金貨・銀貨・銅貨のみであり、エネルギーを使い切られた魔貨には価値がなくなる。

 使用限界を迎えた魔貨は真っ黒に変色してしまうので、間違って使われることもない。

 ちなみに真っ黒に変色した魔貨は黒貨と呼ばれる。

 しかも、この魔貨、黒くなるだけではない。

 白貨を、魔術の媒体などとして使用すると、白貨→金貨→銀貨→銅貨→黒貨といった具合に変色していくのだ。つまり、電池残量が分かる仕様となっているのです。

 といっても、黒貨も無価値ではない。

 貨幣としては、黒貨10枚で、銅貨1枚の価値がある。

 ついでに言っておくと、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、金貨10枚で白貨1枚になる。

(せっかく異世界転生したんなら、やっぱり魔術使いたいよっ!)

 どうやら、転生ライフを楽しんでくれているようだ。

 転生させた神としては、何よりだ。

「お兄様っ、おめでとうございます!」

「ジリヤ、ありがとう」

 駆け寄ってきた4歳の少女は、ジーモの胸に飛び込む。

 それを優しく受け止めたジーモは、艶やかで柔らかいショートボブパーマの髪の毛を撫でてやる。

 セーラー服を着た少女は嬉しそうに顔をさらに強くジーモの胸にうずめる。

 ちなみに、セーラー服はコスプレではない。

 正装だ。

 男子は軍服に、軍帽に、軍靴。

 女子はセーラー服に、軍帽に、軍靴。

 ただ、女子の正装は男子とは違い至るところにアレンジがされている。

 カルディナは黒ロングのスカートにセーラーの上着、さらに黒いカーディガンのようなものを着ていたし、ジーモの目の前の少女は純白のワンピースの上にセーラーの上着を羽織っているようなデザインだ。

「ジリヤは甘えん坊だな」

「お兄様、これは甘えているのでありません。誘惑しているのです」

 そう、この少女はジリヤーヤノ・ソメヤヨラ。

 ジーモが生まれたあの日に出来た――ということはないだろうが、いつまでも仲睦まじいジーモの両親の娘、つまりはジーモの妹である。

「そうか、道理でいつもよりジリヤのことを愛おしく感じるはずだ」

「そうでしょう、お兄様? 私はとっても魅惑的なのです」

 そう言って、一歩下がったジリヤは平らな胸を張ってドヤ顔でジーモを見上げる。

 微笑ましくジリヤを見つめていると、ジーモの視界に数人の少年の姿が映った。

(ん? なんか揉めてるか?)

 さり気なくジリヤの手を握ったジーモは少年たちの輪に向かって歩き出した。

 ジーモに手を握られたジリヤは手を引かれながら、顔を真っ赤にしている。

 ちっともさり気なくはなかったようだが、妹の様子に気付くことなく、ジーモは少年たちの後ろに立つ。

「君たち、何してんの?」

「あん?」

「げっ!?」

「ソメヤヨラ四爵のご子息!?」

「これはこれは、ご機嫌麗しゅうございます」

 振向いた少年たちは、ジーモに気付き、貴族の礼をする。

(えっと、このリーダーっぽいのは確か、ダロンクロウ・マチダイラ、だったかな?)

 ジーモは人の顔を覚えるのが早いようだ。

(マチダイラ家ってことは、五爵か? 一応ウチより下だから、話は聞いてくれそうかな、よかったよかった)

 今さらだが、ジーモは貴族の子弟である。

 この国、アマツヒラ皇国における、貴族階級は家名で判断出来る。

 上から――


○○ヒラ  【一皇】

 国家元首の一家だが、表舞台に出てくることは余りない。

○○フラ  【二王】

 国の中央で行政に携わる一家。実質的なナンバー1と言える。

○○ミラ  【三爵】

 中央八家と呼ばれる立法を取り仕切る八つの家。

○○ヨラ  【四爵】

 八辺境八中央と呼ばれる司法を任された八つの辺境領主と、八つの中央領主。

○○イラ  【五爵】

 十六家からなる地方領主。

○○ムラ  【六爵】

 三十二家からなる地方領主。

○○ナラ  【七爵】

 九十九家からなる泡沫貴族。

○○ヤラ  【八士】

 三百三家からなる騎士の家柄。

○○コラ  【九民】

 一般の民。

○○トラ  【十奴】

 奴隷階級の人間。主に犯罪奴隷だが、それ以外も黙認されている。


 となっている。

 ジーモの家、ソメヤヨラ四爵は東の辺境領主である。

 隣国に面しているため、侵略に備えるために大分軍備増強がなされている。

(げっ、とか言っちゃうあたり、まだ子供だな。大人貴族だったらもっと腹芸が上手いんだろうなぁ。って、それよりも――)

 ジーモはにこやかに少年たちに貴族の礼を返してから、少年たちが囲んでいたモノを見た。

 そこにいたのは二人。

 イケメンとクマの中間のような少年と、流れるように長い金髪で耳の長い――エルフだ――大人しそうな少女だった。

(さて、穏便に引いてくれよ~)

「ダロンクロウ・マチダイラ殿、僕にも彼らを紹介してもらってもいいかい?」

「っ!? なんと、僕の名前をご存じだとは、さすがはジーモーサム・ソメヤヨラ殿」

「はは、大したことじゃないさ。君が僕の名前を覚えているのとなんら変わりないよ。それより彼らを紹介してくれないか?」

「……彼らは、爵位のない八士と九民です。ソメヤヨラ殿のご友人にはふさわしくないかと――」

「友達は自分で選ぶ」

(相手の言葉に食い気味で話すと主導権握りやすいんだよな)

「……そうですか。僕らもまだ挨拶程度しかしておらず、名前を知りませんので――」

「そっか、じゃあ直接聞くからいいや。マチダイラ殿、ありがとう。また今度ゆっくり話そう」

「え?」

「それじゃ、二人とも、あっちに僕のとこの侍女お手製のお菓子があるから付いて来てよ」

「……」

 後ろで睨みつけるようなマチダイラ家の子弟の視線を全く意に介することなく、ジーモは侍女のマルカオル・スルガナラの下に三人を連れてきた。

「マルカ~っ!」

 ジーモは、先ほどのジリヤがしたのと同じようにマルカオルの胸にダイブした。

「おっと」

 マルカはしっかりとジーモの身体を受け止めた。

 侍女のマルカは、ジーモが生まれる前からいる世話係だが、当時から全く見た目が変わらない。エルフは、長命で若い時期が長いため若々しく見える。マルカもその例に漏れず、その見た目の可愛らしさに反して、ジーモの十倍くらいは年を重ねている。

「ジーモ様は、本当に変わったお方ですね」

「そう?」

「八士と九民の子弟に四爵の子弟が声を掛けるなど、聞いたことがありません」

「聞いたことがないだけで、しちゃいけないわけじゃないでしょ?」

「ふふ、本当に変わっていらっしゃいます」

 マルカは楽しそうにクツクツと笑う。

「マルカのおっぱいの感触は、僕が生まれたときから変わらないよ。たまらんっ!」

「離れろ、クソガキが……」

「いぎっ――!?」

 マルカは軽々とジーモの首を片手で掴み、持ち上げた。

足が完全に宙に浮いている。

(し、死ぬっ!)

 ジタバタと暴れるジーモだが、汚物でも見るような視線を向けるマルカは微動だにしない。

「ま、マルカ! やめてっ!」

(ナイスだっ、ジリヤ!)

「はっ!? も、申し訳ございませんっ!」

 正気に戻ったマルカは手を離し、その場に平伏した。

「げほっ、げほっ……、いや、かまわない「許しませんっ!」……よ?」

 咳き込みながら話すジーモの言葉に割りこませて、ジリヤが叫んだ。

「マルカ、あなたは何をしたか、分かっているの?」

「申し訳ございません」

「いや、ジリヤ、そこまで怒らなくても――」

「いいえ、お兄様。私には許しませんっ!」

「ジーモ様、理性を手離した私が悪いのです」

「そうよ、悪いのはマルカ、あなたよっ! 何しろあなたは私のお兄様を、そのおっぱいに埋もれさせたのですものねっ!?」

「「……はい?」」

 ジーモとマルカの声がハモった。

「お兄様は私のおっぱいに埋もれたいのっ! わかった!?」

「あ、はい。分かりました、兄弟そろってイカれていやがることが……」

「分かればいいのよっ、ふふん」

 満足そうにジリヤは胸を張ってドヤ顔だ。

(だ、ダメだ、この娘、早くなんとかしないと――)

「あ、あのぉ……」

「ん?」

 振り向くと先ほどの少年少女が苦笑いで立っていた。

(あ、忘れてた……)

「悪かったね、ほっといて」

 振向いたジーモはさも何もなかったかの如く、さわやかに話しかける。

「い、いえっ! 俺みたいな下民のことなど、そこらへんの馬糞だと思ってくれて構いません」

「馬糞て……。まぁ、とりあえず、自己紹介でもしようか」

「あ、はいっ! 俺は、スティーリク・ワタリヤラです」

「スティーリク……、スティでいいかい?」

「はいっ!」

「はは、そんなに緊張しなくてもいいよ。僕は、ジーモーサム・ソメヤヨラ」

「存じておりますっ!」

(う~ん、もう少しフレンドリーに話したいんだけど、それにはもうちょっと時間がかかるかなぁ?)

「そっちの君は?」

「……クラリスミカ・クルミコラ」

「そう、クラリスって呼んでも構わないかな?」

「馴れ馴れしい奴だな。まぁ、貴族様の要望なのだから、聞くしかあるまい?」

(あっれ~? なんでこんなに冷たいの~? エルフに嫌われる星の下にでも生まれたんだろうか……)

「……し、しかし、助けてくれたことには礼を言う」

 クラリスは赤くなった顔を隠すように深くお辞儀をする。

(あ、そういう方でしたか、はい、分かります。嫌いではありません)

「ジーモ様、顔が不細工になってますよ」

「ぶっ!? マルカさん、さすがに失礼じゃね?」

「そうですか? それよりも、お菓子は召し上がらないのですか?」

「……解せんが、お菓子は頂こう」

「ああ、不細工なお兄様も素敵……」

「……スティ、クラリス、これでも食べてくれ」

 そう言うと、ジーモはジリヤの言葉を無視して、テーブルに置かれた大皿から一つずつ、クリームの詰まったシューを取り、小皿に移して二人に手渡した。

「これは?」

「ジーモ様考案のシュウクリイムですっ!」

(何故かマルカが自慢げだが、まぁ可愛いからいっか。マルカは僕のことを大好きだからな……。何故かマルカが睨んでいるが、気のせいだろう)

 スティとクラリスは恐る恐るではあるが、シュウクリイムに口をつけた。

「うほっ!? なんスか、これ!」

「……」

「はは、美味いだろ?」

(この世界、なんでか甘味があんまりない。どれもこれも塩辛いものばかりだ。だから、マルカに作らせてしまった)

「ジーモ様、っパないっスよ、これっ!」

「……」

「喜んでもらえてなによりだよ。……あれ、クラリスは好きじゃなかった?」

(クラリスは辛党だったか?)

「いえ、好きです。結婚してください!」

「うん、それなら良かっ――え?」

「好きです。結婚してください」

(二度言われた……。確かに、大事なことだけども――)

「ぶっころがすぶっころがすぶっころがすぶっころがす……」

「えっと、そうだ、これから友達としてよろしくなっ!」

 後ろで怨嗟のたっぷり込められた呪詛を唱える悪魔憑きの妹を無視して、ジーモは叫んだ。

「友達からですね? 分かりました。末永くよろしくお願いします」

(あれ? 友達になったんだ――よね?)


ありがとうございました!!!

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