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チュートリアルで魔王やってます。

作者: KIA

『ふっははは。世界の選定か何かは知らんが、ぽっと出の勇者ごときに我が負けるわけなかろう!』


 わ、このゲーム凄い。けーたいのヤツなのに声まで出るんだ。

 ……っとと、落としそうになっちゃった。画面割れちゃってる友達とかよく見るし、気をつけないと。

う~ん、タッチパネルって馴れないなぁ。手が小さいから両手で持たないとすぐ落としちゃうよ。


『どうした! 勇者のくせして怖気づいたか!?』

 

 勝手に喋った!?

 あたしの操作が遅かったせい? でも難しいよ。フリックとかタップとかホームボタンってなんなの?


「うぅぅ、あたしじゃ皆みたいに上手くできないよぉ……」


 せっかくおじいちゃんとおばあちゃんに頼んで買ってもらったのに。せっかく皆と協力プレイとかできるって思ったのに。

 また子供扱いされてのけ者にされちゃうかもしれない。弟にもバカにされるだろうし、……憂鬱。


『…………。ぬははは、そんなことではこの魔王・エールハルトは一生かかっても倒せんぞ』


 た、タイミングよくボタン押してるハズなのに、どうして攻撃がミスになっちゃうんだろう。

 うーん、指先の静電気が足りないとか?

 よし、手のひらを擦って静電気を貯めよう! 

 合掌。


『効かぬ!では我の攻撃をさせてもらう。邪炎波動、黒ノ太刀!』


「ひゃぁ!」


 なんだか凄い派手な技喰らっちゃったみたい。

 あたしのキャラクターは……よかった生きてる。ってあれ、ダメージが『1』ってこの人、魔王だよね? こっちのキャラクターが強すぎるのかな?


『くははは、そんな攻撃じゃ相手にならぬな!

 ちゃんとタップ操作はできているか? タップとは指先でポンッと画面を叩く行為だ。

 いいか、ポンッだぞ。ボン…だと長押し扱いになって攻撃と認識されない場合があるぞ!』


「急に説明しだした!?」


 なんかいきなり魔王さんが親切になった。あ、あたしがあまりにも下手だから救済措置ってやつなのかな……。それはそれでちょっとショックだけど。

 ううん、私は下手なんだからここはご指導に預かろう。


「てぃ!」


『ぐぎゅあぁぁああぁ!』


「何事!?」


 断末魔の叫びが。って、あ、攻撃成功した。あぁ! 魔王さんの体力ゲージがガクッと減った!?

 勇者のあたし強すぎない? まだ初めて1時間の勇者なのに。


『や、やるではないか。それでこそ聖なる力を受け継ぎし者よな……。だがしかし、我は貴様の聖剣技によってしか倒れる気はない!』


ピロリン。(ミッション:最高の必殺技を放って《原初の魔王 エールハルト》を倒そう。)

 魔王さん、素人目の私でも通常攻撃もう一回で倒れるってわかるよ……。どうして自分をいじめたがるの。


『くは……はは、我はやられんぞ。やら……れん!』


 最早虫の息だよ。

 ……わかったよ魔王さん、せめて次の一撃で……あたしが倒してあげる!


 ☆数時間後。


「ああ!また失敗。 “最高の”必殺技ってタイミングがシビアすぎるよ! 」


 あたしリズム感ないのに、どうしてこのゲームはこの時だけ音ゲーになるのぉ!


『ーーガッハァ。そ、そんな必殺技では、我は倒せんぞぃ……。最高のやつをよこせ!』


「魔王さん本当にごめんなさい……」


 さきほどからあたしの放った “ただの”必殺技を放つ度に、律儀に直撃しては恨み言を吐く魔王さん。

 ライフゲージは0.1ミリほどの赤線を残しているだけ。


『我は、ゼーハー、死なぬぞ。貴様の、最高の、スゥー。必殺技をうけるまでなぁ! はぁぁ!漆黒ノ太刀ィ!』


 (ダメージ1。)


 (あたしのキャラ効果発動。1ターンに一度ライフを50回復する。)


 魔王さんダメ!

 なんかあたしのキャラ自己再生しちゃう! ねぇ、もういいじゃん。負けようよ。

 これだけ世界のために身体張れる支配者とか早々いないよ。

 内心で一人ごちていると、


『私には――背負うものがある。帰りを祈っている皆がいる。研鑽の道をともに歩んだ聖剣がある。そして、何より私とともに戦ってくれる相棒がいる』


 あたしの使用キャラ《極彩の勇者 エリナ・アーシェス》が画面向こうのあたしをちらりと見つめ、天真爛漫に笑みを浮かべてくれる。

 もう8度くらい見た演出。初めて見たときはかっこよくてちょっとドキドキしたけど。

 すみません。満身創痍の魔王さんと比べると、暴力を楽しんでいるサディストにしか見えないです……。


『最高の必殺技を出すためには、ハァハァ、タイミングが……重要だ。いいか、タンタンタン、ハイ!のリズムだ。これを忘れなければ……ずれることもないだろう……』


 解説がどんどん具体的になっていく!?

 というか勇者ちゃんがアドバイスをするべきだと思うんだけど……。

 ごめんなさい、こんなのいいわけだよね。魔王さんはどうしても最高の一撃でやられたいんだ。


「魔王さん、あたしやるよ。今までのアドバイスを全部活用して、最高の必殺技を決めてみせる!」


『よしこい!』『やってちょうだい!』


「……? あれ、今魔王さんと勇者ちゃんが返事したような」


『にははは!愚直なるその刃、我が散らせてみせよう!』『おのれ、魔王!』


 気のせい……かな?


 その後、あたしと勇者ちゃんが放った最高の必殺技は見事に魔王さんの《1》ポイントだけ残っていたライフゲージを削って倒し、見事世界の平和を取り戻した。


 けれど、魔王さんは散り際、最後の力を振り絞って全世界の人族や獣族、果ては古代文明の産物(所謂ロボット)に誓約を結び、彼らを従えることで再帰を計ろうとする。


 おまけに魔王は勇者に対しても呪いをかけ、その影響で勇者が悪堕ち、混沌と化した世界を平定するために残された最後の望みは、勇者の力の一端を得たプレイヤーことアタシの手に委ねられてしまった……らしい。


 スケールが大きくてイマイチ、ピンとこないけど、このゲームが人気になる理由はこういうところにあるのかもしれない。

 チエリちゃんも相当やりこんでるって聞いたし、今度色々聞いてみよう。


(♪ メッセージが届きました。)


 ゲーム内でのメッセージなんてあるんだ。へぇ……。


(この度はXXXXテラーズをお遊びいただきありがとうございます。第序章クリアのプレゼントといたしまして《チュートリアル魔王 エールハルト》、《原災の勇者 エリナ・アーシェス》のどちらかを選択して贈らせていただきます。)


 どっちも絵柄は綺麗。魔王さんは黒に近い配色だけど堕ちた魔王って感じでカッコイイし。勇者ちゃんはちょっとだけさっきと雰囲気が違うけど神々しい見た目は変わらないし……。うん、決めた。


「エールハルトにします!」


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