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第四章十四話

「前置きをしている時間は……ま、なさそうだね。さっさと本題に入ろう。魔神をどうするかだ」


 腕組みをしながらいうスフレの言葉に、ヌイが頷く。

 

「ええ。アレが人里に出る前に何とかしないと、大勢の人に被害が出るでしょう。とはいえ、近隣に魔神に対抗可能な冒険者や騎士はいません。だからこそ私たちにお鉢が回ってきたわけでしょうし」


「そうはいっても、あなたたち……いえ、わたくし達で魔神に対処するなんて不可能よ。相手は神話やおとぎ話に出てくるような手合いよ。もちろん、その辺りはわたくしよりあなた方のほうが詳しいと思うけれど」


 自分たちで魔神と当たることが前提のように語るヌイに、ハリエットが待ったをかけた。確かに魔神を何とかしなければならないのは確かだろうが、だからと言ってこのパーティーで無謀な攻撃をかけたところで待っているのは無慈悲な全滅だろう。彼女としては死ぬのも死なれるのも勘弁願いたかった。せっかく助かった命なのだ。

 

「あの大公さまに何とかしてもらう他ないんじゃなくて?」


「正論だな」


 うなずくスフレ。だが、その表情はとても苦々しいものだった。

 

「だけど、だめだ」


「駄目? なぜ」


「簡単なことだよ。われらが大公閣下はいまだ戦闘中でいらっしゃる。手が離せないんだよ」


「ま、まだやってるの!?」


 思わず驚きの声を上げるハリエット。何しろ、戦いが始まってすでにかなりの時間が経過している。すでに夜明けも近いような時間なのだ。もうとっくに勝負はついているものだとばかり思っていたのだが……。

 

「ああ。戦力不足は重々承知なんだ。それは最初に確認した。だが━━」


 スフレは目をそらし、深々とため息をついた。


「ちょっと遠視の魔法で覗いてみたんだがね。まだまだ元気にやりあってたよ。参ったね、ほんと」

 

 その乾いた笑みにハリエットの顔色がさっと蒼くなる。無言で額を押さえ、それから助けを求めるように周囲を見回す。しかし、彼女に助け舟を出すものは誰もいなかった。

 

「や、やるしかないの? わたくしたちで」


「そうですね。不本意ながら」


「ああ、神様……」


 わたくしが何をしたというのです。空を仰ぎながら、ハリエットが嘆いた。

 

「まあ、戦うしかないなら戦う方法を考えよう」


 その肩をたたきつつ、大西が笑う。そのいつもと変わらない穏やかな表情にハリエットは口をへの字に曲げたが、文句は言わなかった。

 

「一番の問題はあの体躯だよね。生半可な攻撃じゃ通らなさそうじゃない、アレ」


 なんといってもくだんの魔神は身長百メートルの大巨人だ。サイズがあまりにも違いすぎる。

 

「ああ。ちょっとばかり剣やら矢やらでつついたところで、虫が刺したほどの痛痒も与えられないだろうね。肉体も、内包する魔力量もあまりにもけた違いすぎる」


 肩をすくめるスフレに、大西が顎を撫でる。

 

「大物相手なら、それこそオルトリーヴァの出番じゃないかな。タフネスも攻撃力もなかなかのものだよ」


「う……」


 いきなり話題に出されたオルトリーヴァが、その大きな体を恥ずかしそうに小さく縮める。大西本人が気にしていないとはいえ、あんなことがあった直後だ。とても自己主張するような気分にはなれなかった。

 

「い、いや……。ほめてくれるのはうれしいが、さすがのオルトリーヴァも一人でアレに勝つのは無理だ。あいつのほうが、たぶん強い。とても悔しい話だが……」


 実際、さしもの最強妖魔であるドラゴンとはいえ、魔神を相手にするのは厳しい。齢を重ねた古龍ならまだしも、オルトリーヴァは巣立ちをしたばかりの幼龍でしかない。ドラゴン社会では下から数えたほうが圧倒的に早い程度の実力でしかないのだ。

 そしてそれは、オルトリーヴァ自身もよく理解していた。とても簡単に安請け合いなどできない。本音を言えば、任せろと胸を張り、下がった株を上げたいところなのだが……。彼女はぐっと奥歯をかみしめた。

 

「なるほど」


 大西はオルトリーヴァを見ていた目を空に向け、小さく息を吐く。

 

「僕たちの対処能力を超えた事態じゃないかな、これ」


「何をいまさら」


 肩をすくめて苦笑いを浮かべるヌイ。魔神を相手に戦うなどということは、一部の人間をやめた化け物にしかできない芸当だ。このパーティーで魔神討伐など不可能に近いなどということは自明だ。

 

「ですが、私は引くべきではないと思います。王都……いえ、今のこの国に魔神に対処できるだけの人材がほかにいないからこそ、わざわざ大公閣下自らのご出陣となったわけです。ここで私たちが引けば、未曽有の大惨事となるでしょう」


「だろうな。あんなモノが王都を我が物顔で歩いてる姿なんて、想像したくもない」


 スフレが頷く。

 

「それはそうでしょうけど……それならば、余計に早く国にこの事態を知らせるべきではなくて? 民を避難させて、防衛体制を整えて……時間はいくらあってもたりないわ。あの化け物を倒せる確証があるならまだしも、そうでないなら次善の策をとるべきよ」


「それもまた道理だ。難しいな……」


 口をへの字に曲げるスフレ。ここま魔神を倒せないならば、よしんば王都が滅んだとしてもより多くの人間を生かすために早く避難させるべきだというハリエットの意見はもっともだ。

 

「ううーん。攻略の糸口さえあれば、賭けてみる価値はあるんだが……」


「オオニシ、何とかなりませんか」


「無理じゃないかな。拳で倒せない手合いは僕にはどうしようも……」


 そこまで言ったところで、大西の脳裏に師匠の言葉が蘇った。

 

『いいか大西。パンチで倒せない相手にはナイフを使え。ナイフで駄目ならピストルだ』


「……なるほど、そうか」


「何か思いついたのか? 相棒」


 驚いたように効いてくるスフレに、大西は満面の笑みでこう答えた。

 

「爆破してみるのはどうだろう」

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