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薬爵の薬  作者: 三原すず
本編
8/20

08

シルバーウィークという存在、忘れてましたσ(^_^;)

「………アイン?」

「………」

「アイン……?」

「………」

「アーイーンー?」

「………」

「アイーン!」

「ぶっ!!」


ユーモアたっぷりに自分の名を呼んだエリスにアインは思わず噴き出した。

やっと反応したと軽く息を吐きながらエリスは怪訝そうにアインを見る。


「機嫌が悪いのか?確かにお父様の冗談はタチが悪かった、すまない」

「いや、エリスが悪い……?わけじゃない。無理やり連れてきておいていきなり帰ると言いだして、こっちこそ悪い」

「それに関しては感謝している。あそこで貴方が来なかったらメイドたちの着せ替え人形になってた」


柔らかい表情に見惚れてしまう。

公爵家(実家)を悪く言いながらも彼女は決してあそこが嫌いなわけではないのだろう。

ただ、親バカ(両親)人形師(メイドたち)がしつこかったり、度が過ぎたりするだけだ。


「……これは、ただの独り言だ」

「?」


唐突に言いだしたエリスにアインが首を傾げている間にエリスは窓の外に視線を向けて口を開いた。



「私、さっきお父様が、縁談相手が貴方だと聞いて………嬉しかった」



「………は?」


普段のエリスらしからぬ言葉に、アインは間抜けな声を上げた。

エリスの表情は見えない。流れる景色を見つめる彼女の紫の瞳は、どんな感情()を灯しているのだろう。


「お父様の冗談だったとしても、アインとなら、いいかもしれないって……」

「エリス……」

「でも、貴方に迷惑だな、って思った。私の一時の感情で国を担う人間に迷惑をかけてはいけないって思った」

「そんなことは!」


アインは声を荒げた。エリスのことを迷惑だなんて一度も思ったことはない。

そんな心配、無用だと告げたかった。

だが、エリスは視線を戻し、ふっと軽く笑みを浮かべる。自嘲の笑みだった。


「---それに、もとから私には縁遠いんだ」


アインの頭によぎったのはエリスが作る数多の毒だった。

公爵には薬を作ると偉そうに言ったがエリスは毒を作る方が多い。

そのことを後悔しているのだろうか。


「私は寝る。昨日は徹夜だったから、眠い」

「……王宮に着いたら、起こしてやる」

「あぁ。よろしく頼む、アイン」


エリスは座席に頭の凭れさせ、目を閉じた。しばらくして、規則正しい寝息を立て始める。


(俺は、馬鹿だな。好きな相手が自分のために悩んでるのに告白もしないなんて)


疲れたように目を閉じ、眠るエリスの髪を柔らかく撫でた。

銀髪が窓から差し込む昼の太陽の光を弾く。


(……本当に)


エリスには困ったものだ。

アインから離れると思ったら、引き寄せて―――放さない。

伝えたいのに、拒絶が怖くて、口にできない自分をひどく臆病だと思う。


「なぁ……エリス」


もし、もしもエリスが王宮に到着するまでに目覚めたら、この想いを伝えよう。

けれど、アインがエリスを起こすことになったなら---。


♢♢♢


「レイヴン、その実はこっち。葉と皮と種と果肉を分けておけ」

「はぁあっ!?いくつあると……!」

「やっておけ」

「………」


黙って作業を開始するレイヴンを横目に見ながらエリスは堅い殻を砕いていた。これは《クグゼ》という名の毒になる。


「こんなにあるのに……」

「……、ふ」


レイヴンはエリスの弟子だ。

薬爵としてのエリスに与えられた屋敷に突然訪れた少年はエリスに迫り、「弟子にしてください!!」と叫んだ。その気迫にエリスは頷いてしまったが、意外にも彼はよく働く。

レイヴンと名乗った少年は無知だった。

だからこそ、吸収が早い。


「……レイヴン」

「なんですか?エリス」

「貴方は、何になりたい」


正直、エリスは彼に教えれるものはない。

エリスは薬を作る薬師だが、毒を作る毒婦だ。

毒の製法を誰かに教える気はない。だから、製法を目に見えるものに残していない。


「オレは、医者になりたいです」

「………ふぅん」

「医者じゃなかったら、まじない師でも薬師でもいい。オレは病気や怪我のひとを助けたいんです!」

「殊勝な心がけだな」


エリスは苦く笑った。清すぎて、エリスとは違いすぎる。

無知なレイヴンは何もわかっていない。

だからこそ、それに救われそうだ。


「そういえばエリス。最近殿下、来ませんね……」

「別に普通だろう。王太子なんだから執務があって当然だ」

「でも、今まで来てたじゃないですか。突然来なくなるなんて……エリス、何かしました?」


(どうして原因が私にあると思い込んでいるんだ、レイヴン)


確かにここ数日、アインは薬室に訪れない。

数日、というよりかこの間実家から戻ってきた一週間前からアインとは会っていなかった。

もしかしたら、本当は父の冗談に憤っており、エリスとも顔を合わせたくないのかもしれない。


「しっかり何かしてるじゃないか…!」

「えぇっ!?マジで何かしたんですか!?」

「ほかに理由がわからん。たぶんそうだと……」

「だったら早く!殿下に会ってきてください!!」

「ちょっ、レイヴン!」


レイヴンに薬室から追い出され、エリスは渋々、アインの宮に向かった。


エリスがデレた、の回。


エリス「いやそれより、アインはどうした……?」

レイヴン「エリス!そんな道草食ってないで殿下のところに行きなさーーい!!」

エリス「れ、レイヴン!?」


次回、はてさて_φ( ̄ー ̄ )

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