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2話同時投稿②です(^.^)
息を深く吸って、吐く。ゆっくりと深呼吸を繰り返してエリスは懐かしい自宅である屋敷の扉を開いた。
「エリスが帰りました。爺はどこです」
「爺はここに。お帰りなさいませ、エリスお嬢様。お元気そうで何よりでございます」
エリスの声に長年公爵家に仕える老執事がすぐさま現れ、腰を折った。安堵の色が浮かぶ爺の声にエリスは苦笑を浮かべた。
「ただいま戻りました。王太子殿下が共にいらしています。すぐにいっ!?」
「エリスーーーっ!」
爺に指示を出していた声が上擦った。
ぎゅうぎゅうと身体を締めつけられる。力任せに抱きしめられている。
さすがに窒息するとエリスは自分を抱きしめる腕を叩いた。
「お父様ッ!?放して!苦しい………っ」
「エリスエリスエリスッ!帰ってきたんだな!お父様は心配していたぞ!」
「わかりましたから本当にはなして、しぬ……」
呼吸困難で掠れた声で懇願するとようやく父はエリスを解放した。
荒い息を整えながら一ヶ月ぶりの父の顔を見上げる。
(少し、痩せた気がする)
知的な父の顔には疲労が浮かんでいた。
(…心配しすぎだ、親バカめ)
なんとなく居心地が悪くなり、エリスは目を逸らした。
「………ただいま、帰りました、お父様」
「おかえり、エリス」
今度は優しく抱きしめようとする父にエリスもおとなしくなったところを新たな攻撃が訪れた。
「エリスーーーっ!」
「お母様ッ!?」
エリスは突進してくる母にぎょっと表情を歪めた。
♢♢♢
「申し訳ありません殿下。娘との再会が嬉しくて嬉しくて」
「聞いていた以上だな、公爵。エリスがああなるのも頷ける」
「いやはやお恥ずかしい」
機嫌のいい公爵はにこにこと笑みをこぼす。
エリスは公爵夫人の抱擁に遭ったのち、身仕度を整えるとメイド達に連れ去られ、アインは唯一冷静な執事に客間へと案内された。
「冗談はここまでにして――殿下。王宮で何かございましたか?」
「いや、特にない。エリスが一ヶ月もここに帰ってないと聞いて連れてきただけだ。安心してくれ」
「それはご足労を、ありがとうございます。さすがに一ヶ月は長かったもので」
公爵はまた相好を崩した。
よほどエリスの帰りを待ち望んでいたようだ。だが親バカにもほどがある気がする。
「お父様。お待たせしました」
「大丈夫だよ。ほら座りなさい」
「はい」
仕事着のワンピースから令嬢らしいドレスに着替えたエリスが客間に現れた。
会食の時のようなドレスではなくすらりと彼女の身を包むドレスも似合っている。
久々のエリスのお帰りにメイドも気合いを入れたのだろう。
「失礼します」
父親の前だからか丁寧な口調でエリスは断りを入れてからアインの隣に腰掛けた。
他意はないとわかっていても些細な行動が嬉しい。
「リルからお話があると聞きました。お母様も機嫌がよさそうで……何かありました?」
「あぁ。エリスにいいお話だよ」
「なんでしょうか?」
エリスにいい話と言ったらなんだろうか。
新しい薬の素材、とかか。
「縁談だよ」
公爵はにこにこと幸せそうに笑う。
アインは目の前が真っ暗になるような錯覚に陥った。
次回、アイン本気出すo(`ω´ )o
……かなぁ?(。-_-。)




