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薬爵の薬  作者: 三原すず
本編
5/20

05

2話同時投稿①です(^.^)

「エリス」

「……………」

「怒るな」

「……………」

「一ヶ月も帰ってないから悪いんだ、な?」

「……………」

「っていうかおまえ一ヶ月どこで生活してたんだ?」

「……………」


エリスは答えない。

公爵家へ向かう馬車の中でむすっと押し黙っている。

先ほどからずっと声をかけているのだがずっとこれだ。

実家である公爵家に帰るだけであるのにこれほどまでに反応がないとアインも呆れてくる。


(エリスと公爵殿の仲は悪くなかったと思うんだが)


むしろ良好とも思える。

公爵は最愛の奥方との宝であるエリスを幼少から可愛がり、今も変わらぬ愛を捧げていたとアインは記憶している。

よって帰らない理由はないのだが。


「なぁ、どうして公爵家に帰らないんだ?」

「………だ」

「ん?」

「……鬱陶しいんだ」


ようやく口にしたのが両親に対する悪口だとは思っておらずアインは「は?」と間抜けな声を上げた。


「鬱陶しい、もっと言えばウザいんだ。私がいくつだと思ってる?あれだけべたべたと」

「は、はぁ……」

「お母様もお父様に毒されたのか私をあんなに……あぁ!思い出すだけで苛々する!」

「へぇ……」


つまり、『親バカがウザくて帰るのが嫌な反抗期の娘』というわけか。


あの公爵が親バカだとは意外だ。常に威厳を持ち、王の臣下としての仕事に人生をかけているような男なのに。


「……おい」

「ん?」


エリスがじろりとアインを見上げる。いくらか目つきが悪いがそこがまたエリスらしい。


「…お父様に用があったのか?」

「いいや」

「……じゃあ何故、私を実家に連れて行く。関係ないだろう」

「……それは」


アインとエリスは幼馴染みだ。

だが、ずっと一緒にいたわけではない。アインは帝王学など学ぶことが多くあり、エリスも公爵令嬢としての教育があった。

だから互いに知らないことがまだまだあるし、特にアインはエリスがどうして薬や毒を作り始めたか、など意外と彼女を知っていない。


(少しでもエリスのことを深く知りたい……なんて言ったらどんな反応するんだろうな)


呆けるか、鈍いまま嗤うか、それとも自分の気持ちをちゃんと認めてくれるか。

きっと呆けるだろう。

どこまでも、自分に向けられる好意には鈍いから。


「_____着くぞ」

「………」


視線を向けて示すとみるみるうちにエリスの表情が不機嫌になっていく。

だがそのなかに嫌悪はない。

どこまでも鈍く、どこまでも素直じゃない想い人を静かに見つめ、アインは馬車に揺られていた。



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