03
王妃がエリスに勧めたのは晴れた日の空を写したような薄蒼のドレスだった。
レースを何枚も重ねるようなものではなく、身体のラインが綺麗に出るスラリとしたドレスだ。
「可愛らしいドレスもいいけれど、エリスにはシンプルなドレスの方が似合うと思うの。エリスは飾るんじゃなく、自身を引き立てるのよ」
「は、はい。恐れ入ります」
「あと、髪は下ろしましょう。美しい銀髪なんだから、大事になさい。はい、座って」
王妃はメイドを呼んでエリスの髪を編み込むよう命じた。
エリスは恥ずかしく思いながらじっと王妃の楽しげな声を聞いていた。
♢♢♢
「アイン。エリスはどうした」
「……母上に盗られました」
父である国王はアインの不貞腐れた様子にくくくっと笑みをこぼした。
「……笑わないでもらえますか」
「くくっ…悪い。あれの強引さはおまえ以上だからな。盗られないように気をつけろ」
「もう手遅れですって……」
アインは幼い頃からエリスが好きだった。
無愛想だが優しく、まっすぐなエリスに惹かれている。そう、ずっと前から……。
「おまえのアプローチが足りないんじゃないのか?」
「エリスが鈍すぎるんです。自分に向けられる好意にだけ。それ以外は敏感なんですけど」
「ははっ、おまえも厄介な女を好きになったな」
他人事に笑う王を軽く睨んだ。
本当に、エリスは厄介だ。
アインの心を掴んで放さない。そのくせに本人にその自覚がまったくないのだ。
「陛下、殿下。王妃陛下と薬爵様の準備が整いました」
「わかった。すぐ行く」
王はメイドに答え、アインを見遣った。
その顔に、不敵な笑みが浮かんでいる。
「おまえの姫と私の姫が待ってる。いくぞ」
「……はい」
父には敵わない。もちろん、母にも。
アインはふぅっと深くため息を吐き出して父の背中を追った。
♢♢♢
女は化けるというがその通りだと思う。
肩と首元を露出させ、装飾を落とした艶やかな薄蒼のドレスはエリスのために作られたように似合っていた。
肌を出した首には髪と同じ色の銀の飾り。それすらもシンプルなもので彼女の美しさを際立たせていた。
先ほどまで無造作にまとめられていた銀の髪は下ろしてあり、耳の後ろの辺りから編みこまれている。
化粧はしていないようだが、頬が恥ずかしそうにほんのりと赤く染まっていた。
「………エリス…?」
「……そうだが?」
「…似合ってる。綺麗だ」
「…は、ぁ……?」
エリスの目が大きく見開かれる。信じられないとでもいうように。
悔しいが、アインの負けだ。
母はエリスを着飾るのではなく、魅力を引き出してる。
アインではただ飾るだけだっただろう。
「エリス・ツァリアス、久しいな」
「国王陛下!挨拶が遅れ、申し訳ありません。会食への招待、誠に光栄に思います」
跪き、頭を下げたエリスに王はすぐ「立て」と声をかけた。
さすがだ。王が遮るより速く跪くとは。
王も苦笑を隠しきれないようだ。
「ねぇあなた。エリス、綺麗でしょう?」
「あぁ。おまえが選んだのか?」
「えぇ」
王妃と王は一足早く、食事の間に向かう。
アインとエリスを置いて。
絶対にからかわれてると思いながら、アインは手を差し出した。
「行こうか、お姫様」
「う、うるさい…っ。私だって似合わないのはわかってる。さっきは国王陛下の手前で言った世辞だろう。嗤うなら嗤え」
「おまえ、妙に自分を卑下するのやめろよ。おまえ綺麗だから」
「だから世辞は…っ」
エリスは耳まで真っ赤にして、俯いた。
悪戯半分に頬をつんつん、と突くとエリスはビクッと反応して飛び退いた。
「ななっ、なんだ!」
「いや、顔上げないな…と思って」
「それで人のほっぺた突く奴がいるか!」
「ここにいるぞ」
「〜〜〜ッ、もういい!行くぞ!」
未だに湯気が出そうなくらい顔を赤くしながらエリスは食事の間へ歩き出した。
足取りは乱暴なようで、優雅だ。
「エリス」
「……、なんだ」
「______なんでもない」
「おかしな奴だな。行くぞ」
エリスから手を差し出された。情けないと思うと同時に嬉しい。
アインは微笑し、エリスの手に自分の手を重ねた。
薬師なのに全然薬を飲ませてない!
作ってるのも少ない!
……と今更焦ってきました。