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薬爵の薬  作者: 三原すず
本編
2/20

02

「会食は今夜がいいそうだ。早急だが大丈夫か?」

「私を誰だと思ってる。両陛下が望むならそれぐらい平気だ」


翌日、早くも時間を伝えに来たアインにエリスは手を止めないまま答えた。

今は木の実をガツガツと砕き、粉状にしているところだ。ちなみにこれは栄養剤用だ。

とりあえず元の形がわからなくなるまで砕き、薄い布をかけてアインのいるテーブルに向かった。

先日のサンドイッチの礼か、クッキーを持ってきたので渋々皿に盛り、紅茶を淹れた。


「ドレスは大丈夫か?女は色々準備がいるだろ?」

「………なんとかする。両陛下の前に仕事の格好で行くのは恥ずかしすぎる」

「ハハハ……俺はその両陛下の息子だぞー」

「ん?何か言ったか暇人」


エリスの今の格好は平民が着るようなワンピースに薄茶けたエプロンだ。以前までは動きやすいと男物の服だったから多少成長したと思うが男の前にいるのだからもう少し女らしくしてほしいとアインは常々思う。


(まぁ、そのままでもエリスならいいがな)


スッとした紫の瞳に長い睫毛、豊かな長い銀髪は彼女そのままのようにまっすぐで、絶世の美女とまではいかないが充分整った容姿だ。アインにとってはエリスが絶世の美女だが。


「あぁ、あたりまえだが俺も会食に参加するから」

「はぁ?なんでだよ」

「俺は王太子!おまえが尊敬する両陛下の息子!一緒に夕食ぐらい食べるから!」

「わかってるわかってる、冗談だ」


視線を合わせて会話したらこんなではアインの心が折れる。

エリスは冗談のつもりかもしれないが普段の態度からどうしても冗談に思えない。


「……ドレス………ドレス…」

「…率直に聞くが、あるのか?」

「阿呆、あたりまえだ。爵位を持ってるんだぞ」

「そうだな。安心した」


エリスだってドレスの一着二着ぐらい持っている。さすがに失礼だ。

しかし、エリスが持っているのは型落ちしたものや今の流行には合わないと思われるものばかりでそんなドレスでは情けない。

公爵令嬢の時から服装には無頓着だったがこんなところで仇になるとは。


「_______」

「…ドレス………ドレス…ドレス」

「……ドレスの心配はするな。どうにかしてやる」

「………、は…?」


硬直した。目の前の男が言ったことに理解が追いつかない。

珍しく目を丸くして固まったままのエリスにフッと笑ってアインは彼女の手を取り、引っ張った。


「わっ!」

「ちょっと来い」

「待てアイン!どこに」

「少し静かにしてろ、お嬢様」


愛らしい唇を指でなぞって閉ざす。

エリスの手を握ったままアインは薬室を出た。

王族が暮らす宮に向かうとエリスは堪えきれないとばかりに大声を上げた。


「待て!ここは私が入っていい場所じゃないだろう!馬鹿か!?」

「別におまえだったら父上も母上も俺も許す。あぁ、さすがにその格好はやめておけ。メイドの着せ替え人形になるぞ」

「え………き、きせかえ、人形…?」


エリスの顔が青ざめた。もしかすると経験があるのかもしれない。

実家の公爵家でも彼女のドレスは必要最低限のものばかりだったからメイドに甲斐甲斐しく世話をされていたのだろう。


「あら、アインに……エリス!?」


柔らかい女性らしい高い声にエリスとアインが振り返ると煌びやかな衣装の金髪碧眼の美女が駆け寄り、アインの手からエリスの手を奪い取った。


「ひさしぶりね、エリス。会えなくて寂しかったわ。アインばかりが貴女に会うのだからもうわたくしったらこんな年になってまでヤキモチを妬いてしまったわ」

「お久しぶりございます王妃陛下。私などをお思いくださりありがとうございます」

「もう、エリスったら」


王妃は少女のように頬を染め、楽しげに唇を緩めた。

国王と王妃との間には王太子アインと第二王子の二人しかおらず、女児には恵まれなかった。

ちなみに第二王子は同盟国へ留学中だ。

王にならずとも勉学を怠ることのない第二王子は将来はアインの補佐に就くと公言している。


そんな理由もあり、王妃はエリスを自分の娘のように可愛がってくれる。


「会食は夜だけれど、どうしたの?アインに攫われかけてるのかしら?」

「違います!」

「違う!」


異口同音。

王妃の冗談にエリスとアインは揃って答えた。

王妃はくすくすと笑いながら「ごめんなさい」と謝罪を口にした。


「ならどうしてかしら?」

「会食のドレスがないとエリスが言うから」

「ないとは言ってない!」

「あれだけドレスドレスとブツブツ言ってだろ。あってもないのと同義だ」


エリスはぷいっと顔を背けた。

尊敬する王妃を前にドレスもないと言われて恥ずかしいのだろう。


(俺にもそうなれよ………異性だぞ)


エリスにとってアインはその程度の存在なのだろうか。

そう思うと哀しい。


「だから俺が見繕ってやろうと」

「あらアインは優しいわね。でも女のわたくしの方がエリスを綺麗にできるわ。エリスを借りるわよー」

「えぇ!?」

「は!?母上待ってください!」


王妃がエリスの手を引っ張って自室に向かう。

強引さはアインにそっくりだ。

そのアインは不意を突かれてエリスを盗られ、呆然とその場に立ち尽くしていた。


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