彼女の理由2
「じゃあ…毒を作り始めたのはどうしてだ?」
続けて訊かれた質問は正直答えるべきか悩んだ。
だが、隠すものでもなく後ろめたいものでもなくただ気まずいだけなので口を開いた。
「失敗作だ」
「……は?」
呆気にとられたアインに苦く返す。
「薬を作り始めた当初は失敗ばかりだった。なんせ、独学だったから」
「あ、あぁ」
「それが猛毒で、その辺りの専門家を探して見せたら売ってくれとせがまれた」
「は!?」
「言っておくが、売ってないからな!神に誓って!」
疑惑を払拭するために大声で叫ぶとアインはほっとしたようだった。どうやらあまり信用されてなかったらしい。
こほん、と咳払いして仕切り直しに口を開いた。
「勿論それは断ったが自分がどれだけ危険なものを作っていたかわかって、それなら他でもない自分で管理することにした」
「ならどうして毒が増えてる?」
「あぁ、今だから言えるがアレ全部毒じゃない」
「……、っ!?」
今日は何回もアインの驚く顔をよく見るな、などと呑気に考える。
彼の感情が変わるのを見るはなんて面白いのだろう。
「液体のものはただの栄養剤、粉状のものはただの砂糖、粘液のものは片栗粉を溶かしただけだ」
「は、…何っ!?」
「あぁ、いくつか毒もある」
「っ!」
びくっと肩を揺らすアインに外面の笑顔よりさらに凄味のある笑みを見せる。
「気をつけてな」
「………冗談だろ?」
「アイン、私はな、貴方に嘘をつく気はない」
言外に真実だと匂わせておく。
エリスは薬しか作っていない。それが失敗すると毒になる。解毒剤も同じだ。
しかし、処分が難しいので保管している。
「…もし俺が浮気したらどうするんだ?」
「………、確実に一人は死人が出るな」
なぜなら、ベタ惚れしてるから。
ころころと変わる表情をずっと独り占めしていたいから。
その手を取るのが遅れてしまったから、大事にしていたい。
「だから、ずっと私だけを見ていてよ」
「……当たり前だ」
困ったような微笑に見惚れていたら、軽く唇が合わさった。
薬の効き目は抜群だ。もしかしたら失敗して毒になっていたのかもしれない。
だって効能が切れることはないのだから。




