彼女の理由
エリスの特技は他でもない、薬を作ることだ。
爵位まで賜うほどの才能をいつ開花させたか、実は誰も知らない。
「____薬を作り始めた理由?」
「知らないな、と思って。エリスが薬を作ってるのを知ったのも、父上の件が初めてだったから」
あぁ、とエリスは頷いた。
現国王は以前毒殺されかけた。そのときに効いたのがエリスの作り出した薬だった。
あれは緊急だったが、それまで誰にも教えていなかった。
「薬を作り始めたのは貴方が理由だ」
「俺が?」
「うん。昔、流行り病にかかったことがあっただろう。幸い治ったが、あのときは私だってゾッとした」
あと少し、病原菌が強かったなら、今アインはエリスと話すことだってできていないかもしれない。
そう思ったからエリスは独学で薬学を学び始めた。
両親には教養と銘打ったが教養の範囲から逸脱しているのは他でもない両親が気づいているだろう。
しかし両親はエリスを止めたことなどなかった。鬱陶しいぐらいの親馬鹿だがちゃんとエリスのことを見守り、考えてくれる。
だから、『鬱陶しい』で止まってしまう。いつまでも親を頼ってしまうのだ。
「いつかまた、大切なひとが苦しんだときのために、私は薬を作り始めた」
「……そうか」
実はずっと前からアインが好きだったと知ったのはつい先日だ。
そう意識するとエリスの薬はすべてアインのためだということになるのではないかと、エリスは思った。
「……私、貴方にベタ惚れかもしれない」
「…………、は?」
すっとんきょうな表情を見せる美貌に笑みを返す。
昔も今も変わらず、エリスはアインのものなのだ。
「ちょっ、どういうことだ?おまえが俺をベタ惚れっ?」
「ふ、変な顔して慌ててる貴方も好きだよってことだ」
「!?」
アインのすることがすべて好きだ。慌てているのも、驚いているのも。
重症だと、自覚してるが気持ちは止められない。
なぜなら、エリスに薬を飲ませたのは他でもない、アインなのだから。




