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ボクらの青春戦争論   作者: くまそば
2/4

1-1

“2年B組”…そう書かれたプレートの下がった教室に着いたのは、ホームルーム開始のチャイムが鳴り終わろうとしている頃だった。中からは既に騒がしい声たちが聞こえてきていて、しかし特に何も考えずそのドアを滑らせる


「…」

「…」


それまでの雑音が嘘のように耳の痛くなる静寂がその場を包む。こちらの一の視線に対し、十何もの目が一斉に私に集まった。なんだか分からないが泣きそうだぞ


「おら、入り口で止まってんじゃねぇよ」

「あで」


さっそくサボりの特権でも使おうか考案していると、後ろから結構強い衝撃が頭に襲来する。痛みを抑えながら振り向けば、そこには出席簿で自身の肩を叩く不良教師と、その後ろでつまらなそうに欠伸をこぼす不純教師がいた


「まさか二年連続でお前のお守をすることになるとは思わなかったな」

「運命とかぬかすならシバくぞ」

「口の悪さは相変わらずか不良娘」


不良教師…『渡辺(わたなべ) (じゅん)』はもう一度私の頭に出席簿をぶつける。仮にも教師が生徒の脳細胞を減らすというのはいかがなものだろうか


「大丈夫。お前それ以上バカになれないから」

「体罰と言葉の暴力で訴えんぞこら」

「バカ二人して私の時間を無駄にしないでもらえますか。ホームルームはもう始まっていますよ」

「いやこいつはともかく俺もかよ/コレと一緒にすんな」


私たちの抗議などまるで聞こえていないように不純教師…『綾瀬(あやせ) 五月(さつき)』は室内の生徒たちに向けて手を打つ。少々ざわつきながらもそれぞれ自席なのだろう机についていくので、私も黒板の座席表を軽く目に入れて自分のところに落ち着いた


「よし、ちょっとわちゃったが、見た感じ全員揃ってんな」


それからすぐに渡辺が教壇に立ちそこに出席簿を置いた。しかしすぐにぐるりと教室を見回し、ちらほら空いている席があるにも関わらずそう言ってそれを閉じる。人のことを言えない、いつものヤツである


「お前らは今日から二年生で新しいクラスになったわけだが、まぁ一年の頃からちょいちょい交流はあったろうし、知った顔ばかりでクラスメートのことは今さら自己紹介しなくとも必要ねぇよな。約一名除き」

「ひっこめむっつりー」

「はいそこで今暴言吐いた不良娘が、今回のお前ら、B団のサポート役な。一応聞くが自己紹介してほしいか?もしくは自己紹介しとくか?」

「面倒でーす」

「ですよねー。ならいいでーす。まぁこんなんだけど仲良くしてやれよー」


こいつらは学内で知らぬ者はいないほどの有名人のため、直接の関わりがない私でも名前と顔くらいは一致すると思う。そう考えているうちに“以上”と溜息をついて彼が教壇から降り、入れ替わりで綾瀬が上る。本日の連絡事項やらなんやらが簡潔に伝えられるのを片耳に入れながら、ぼんやりと窓の外に目線を外す。これから私は自宅警備員になろうかな


 ―――


ホームルームが終わり教師たちが教室を出ていくと、さっそくというべきか、廊下には噂のB組のメンツを一目見ようと人だかりができていた。美形どもにあがる賞賛の言葉と同時に、私に対する罵詈雑言が秘密裏に囁かれる。いや、聞こえている時点で全然秘密ではないのだが


「大変だね」


いい加減に腹に据えかねて軽く締めてやろうか理性と相談している私の傍に、一人の女子が近づいてきた。下手なイケメンよりイケメンな苦笑を浮かべる彼女は、確か『柳川(やながわ) 沙江(さえ)』だったはず


「…いや、まぁちょいとイラッとはきたが」

「お、結構メンタル強いんだ?」

「普通だと思う」


廊下から視線を外し、前方の空き椅子に後ろ向きで座る彼女をぼんやり眺めながら大きく息を吐いた


「知ってる?自分で言う“普通”は普通じゃないんだって」

「まじか」

「あたしと平然と会話している時点でそれは確定だよね」

「なん、自慢かい」

「事実です」


机に肘をつくと、一層深く笑んだ彼女が顔を近づけてくる。廊下からは歓喜か悲痛か女子どもの悲鳴が響いた


「近い」

「これは失礼」

「うるさくなるのは勘弁なのだが?」

「かわいいじゃない。あぁやって素直に好きって気持ちを外に出せるなんてさ」

「人の迷惑考えてからにしろっての」

「あれがあの子たちの“普通”だから」

「…なるほど、さっきのお前の言葉の意味が分かったわ」


真面目にうなずく私に対して、しかし柳川はいきなり吹いたかと思うと腹を抱えて笑い出した


「…えー」

「ふはっ…ごめん、そんな真面目に返されると、思わなくて…!」


笑い上戸なのかなんなのか、止まらないそれをどうすることも出来ずとりあえず見守っていると、再び廊下のほうが騒がしくなった


「あら、なんだか楽しそうね」

「ししっ!やっぱ沙江が一番に接触したんだ。」


入口方向に目をやるとすぐに原因が分かった。こちらに近づいてくるツートップ…『如月(きさらぎ) 京子(きょうこ)』と『早見(はやみ) 優華(ゆうか)』は、そんなことなど露ほどにも気には留めていないようだが


「どこを見たらその結論に至るか疑問だな」

「あら、沙江がお腹を抱えて笑うなんて滅多にないのよ」

「そうそう。お澄まし顔ならちょーお得意だけどね」

「優華ほどじゃないよ」

「京子には負ける」

「私が何かしら?」

「…いえー何も」


急に弱いな。


「それより、サポート役としての抱負は?」

「干渉しないから私に迷惑かけるな」

「いっそ清々しいね」

「ね、面白いでしょ」

「私にとってはこれが”普通”だけどな」

「ぶ」

「またかよ」


本当は笑い上戸なんじゃないか、こいつ。再び腹を抑えて震え始める柳川と、休憩の終わりを告げる鐘の音にため息をついた。


 ---


ようやっと放課後を迎え、ホームルーム終わりでざわつく教室の中、一秒でも早く帰ろうと荷物を担いで出口へと向かおうと席を立つ。


「よーっす!」

「のわ」


が、突然何かが後ろからぶつかってきたせいで腹を机にぶつけた。地味に痛い。


「んだよ。挨拶したんだからちゃんと返事くらいしろよなー」


恨みを込めて目だけで後ろを見やると、初対面とは思えない馴れ馴れしさ私の肩に腕を回している『神岡かみおか将太しょうた』がいた。不満そうに口を尖らせているが、その前に言うことがあるんじゃなかろうか。


「まぁいいや。お前、この後暇だろ?」

「それじゃねぇよ」

「は?」

「いやこっちの話」


いかん。心の声が漏れた。


「悪いな暇じゃない」

「悪いといいつつ悪いと思ってないやつな」

「ち」

「つれねーこと言うなって」

「あいにくと、これでも多忙な身なのでね」


それじゃ、と立ち去ろうとするが、腕を離そうとはしてくれない。見たい再放送ドラマも始まりそうだし、そろそろ殴ってしまおうか。


「ってぇ!!」

「?」

「こらこら、クラスメートを怖がらせたら駄目だろ」


が、思考を巡らせている間に突然彼が頭を抱えてしゃがみ込む。今度はなんだ。


「ごめんな。少し目を離した」


安全な距離を取って、改めて振り向いた先には、拳から白い煙を上げながら静かに微笑む『矢野やの裕輔ゆうすけ』がいた。


「ってぇ…いきなり何すんだよゆーすけ!」

「将太、ナンパなら引き際が大切だよ」

「ナンパじゃねーよ!どんな奴かなと思って…」

「ごめんね。悪い奴じゃないんだけど」

「聞けよ!」


騒ぐ神岡を完全になかったことにして、矢野は私の方を見る。爽やかさ100%の笑顔は、脳内で警告音を鳴らした。こいつ、苦手なタイプかもしれん。


「ぶつかられてたけど、怪我はない?」

「ない」

「それは良かった。女の子が怪我したら大変だ」

「……その”女の子”はやめろ」

「そう?」

「おーい。俺の事忘れんな?」

「忘れるわけないだろ。ほら、ちゃんと誤った?」

「謝罪はいらないから帰らせろ」

「謝罪しないから遊びに行こーぜ!」

「おい」


マジでなんなんだこいつ。


「…」

「こらこら、無言で帰ろうとしない」

「ち」

「遊びに行く、は突然すぎるとしても、親交を深めるために自己紹介を「却下」

「…即答だね」

「自己紹介するほどの人間でもないもんでね」


そろそろ本当に始まってしまう。鞄を肩に担ぎ直して溜息をつく。


「名前なら不良教師にでも聞いてくれ。人柄を知りたいならこれから自分の目で確かめろ」

「自分の目でって…」

「お前面白いなー」

「それ、今日はもうお腹いっぱいです」


お先に、と教室を出る。ま、何や言いつつ自分の事を話すのが面倒なだけなんだが。


「変わったやつー」

「そうだね。女子で俺たちにあの態度って初めてかも」

「どう思う?」

「とりあえずは、合格なんじゃない?これから俺たちの役に立つのかは分からないけど」

「悪い言い方するなー。ま、俺も同感だけど」

「悪いのはそっちだろ。彼女が俺たちにどう接するのか試すなんて」

「いや、げんの指示。アイツほんとデータ収集好きな」

「なるほど」

「ってか、お前もノリノリだったじゃん」

「何のことかな」


私がいなくなった教室で、2人がそんな会話をしていたというのを知るのは、もう少しあとのこと。

そして、この時の私はというと。


「…おい、離せハゲ」

「ヤですー。ハゲじゃないですー」

「うぜえ」

「シンプルな暴言が一番効くんだよ」

「どこに連れて行く気だ」

「スイーツ食べに行くんですー。美味しいところだから、期待しておきー」

「しばくぞ」


廊下にておっさんに捕まっっていた。校長も後ろからついてくるが、仕事してください、と言いつつもしっかり止めてくれる気配は全くない。腕の時計を見ると、もう再放送には間に合いそうにない。

深い深い溜息と共に、不思議そうにこちらを見てくる生徒たちから目を逸らす。見世物じゃないぞこら。


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