私立英蘭高校は、生徒の自主性及び協調性を育むため、とにかく“自由”をモットーとして生徒中心の学校運営がなされている。学問・クラブ活動ともに、常に全国に名が響き、今現在の“人気進学高校ランキング”不動の一位を誇る。
そして、この英蘭の“核”として、また最も憧れられる存在としている選ばれた生徒たちを、誰が読んだか知らないが、皆はこう呼ぶ。
美形集団 ――――“B団”と
二年B組、またの名を“B団”という。その年の一年生の中から、二年に上がる少し前に選抜される学校全体の行事を取り仕切る要となるものであり、まぁざっくりに言ってしまえばクラス規模の生徒会のようなものだ。
それらは今年…つまり私と同学年となる者たちは能力面はもちろんのこと、顔面偏差値が全国クラスといっても差しさわりないために歴代の中でも豊作との呼び声が高い。そして誰もが憧れるその楽園には、そいつらのサポート役という名雑用係の一般生徒が一人、ぶち込まれるのだ。
「……で、それが私…と?」
「ハーイ正解でーす。ご褒美にアメちゃんあげよう」
「フザくんなおっさん」
新学期の始まりの日、私――――『瀬神 彩』はこの目の前の、口端をひくつかせ
笑顔を保とうとしているおっさん…私立英蘭高校理事長に呼び出されていた。なんか嫌な予感はしていたが、まさかこの学校で唯一それを望まない私になにをぬかしやがりましたか、このひとは。
「失礼ですよ、本当のことを言ってしまっては。いくら理事長が50代に見えていたとしても、そこはうまく隠してあげてください」
「おまいさんも大概だよ。それにオレまだ30代ね」
「ウザいので黙っていてください」
「オレのほうが偉いのに?!」
彼の側近である校長が、もともと細い目をさらに細めながら眼鏡のつるを軽く押し上げる。“失礼しました”と口にしていてもそこに反省の色は見えない
「ったくもー…」
「で、おっさん。私が選ばれた理由を納得できるよう説明願おうか」
「理由?んなもん、おまいさんがオレの娘だからに決まってるじゃない」
「大事なもん潰すぞ」
「おいおい女の子」
そんな理不尽が通ると思うなよ。隠すことなく盛大に放った舌打ちに、彼は深い溜息をつき頭を抱えた。
「…そんなに嫌なん?」
「いえす。面倒事はパスしたいのね」
「んー……なら、特権つけたろうか?」
「あい?」
「この話を受けてくれるなら、そうさなぁ…成績の保証、ある程度の授業サボり・遅刻・早退の自由ってのはどうだ?」
「…なるほど」
「ついでにお小遣い三割アップ」
「のった」
「そこで即答かよ」
「お金は大事だよ」
理事長は私の言葉に苦笑を浮かべながら、安心したように革製の社長椅子にもたれかかる
「まぁ嫌でもなんでも、もうクラス決まっちゃてたんだけど」
「マジか」
「はいはい、チャイムが鳴る時間ですよ。はよ行きな」
「…へーい」
「頑張ってください」
ヒラヒラと手を振る理事長と深々と頭を下げる校長を一瞥し、それから振り返らず部屋を出る。後ろ手でピシャンとドアを閉め、大きく息を吐いてから新たなる教室へと一歩を踏み出した
――― 始まりの、鐘が鳴る