平凡な学生は奇跡を信じてました
学校で冴えない奴なんて一人ぐらい、いるだろう。なぜ冴えないのか、運動が苦手な人。コミニュケーションがとれない人。多種多様な理由があるものだ。
俺もその一人。名前は……うぅむ、嫌、名乗らないでおこう。
↑のような名前じゃないぞ。名乗らないだけだ。
俺は学校では所謂「ぼっち」だ。漫画が好きだが、異常にあがり症で、人に中々話しかけられない。
新入生歓迎会の時のクラスの皆に自己紹介をするコーナーでは、
「お、おれ、おれは、俺は…おれぇ!?」
と、盛大にやらかしてしまい、そのネタでよく弄られた物だ。
部活も未所属で、青春を過ごす相手もいない。恐ろしく、ただ、少しばかり不自由な、平々凡々な学生、それが俺である。
あぁ、目立ちたいなぁ。俺も、皆と一緒に騒ぎたいなあ。そう思ってはいたものの、やはり行動には移せずにいたのだ。
しかし…頭の中にあの声が届くまでは…俺も平々凡々だったのかもしれない。
「おーい!カラオケ行こうぜ!」
クラスの一人が騒ぐ。あぁ、自分にはなんて無関係な話だ。そんな事をしたことは自分の人生のなかで一度もない。
「いいね!行こう行こう!」
クラスの皆が賛同する。そうして教室には誰もいなくなる。俺一人を除いて。
俺は一人、机に突っ伏して寝ていた。寝ていた振りだがな。
そうして、今日も誘われないままかばんを持ち帰ろうとした、その時、
ズキン。
「ぐっ!?」
頭痛がした。思わず頭を抑え蹲る。痛い痛い。痛い、痛い!
頭が割れそうとはまさにこのことなのだろう。痛みが引くまでは全く動けなかった。
五分ほど蹲ると、痛みが引いた。五分なのに、何時間も蹲っていたかのようだ。
だが、その時
「おくじよ…屋上に…来なさい…」
!?
変な声が聞こえた。周りを見渡すが廊下にはだれもいない。
「幻聴…だったのかな?」
しかし、幻聴とは思えないほどリアルな声。どこか温かみのある声。
「屋上か…」
俺は目的地を変更して屋上に向かった。
なんかの悪戯なのか。本当に幻聴なのか。その好奇心もあった。階段を登るたび、頭が警告する。やめておけ、普通じゃないことが起こるかもしれない。やめておけ。
第六感とかいう奴だろう。だが、その第六感さえ、強い好奇心には勝てないものだ。
そうして屋上のドアを開ける。そこには…
「なんっ…だこりゃぁぁぁ!?」
女神。そう思えるほど神々しく、美人な女がそこにいた。
女は響くような声で言う
《貴方は選ばれたのです。××君。》
「選ばれた!?何にだよ!」
訳が分からない。いきなり知らない奴に選ばれたとか言われたならそりゃあ頭も混乱するだろう。しない奴は俺と変われ。
《貴方はこれから勇者となってビクトリアワールドを救ってもらいます》
「勇者?ほんとお前だれ!?何者なの!?」
《ビクトリアワールドは今危機に瀕しています。あなたの力が必要なのです。さぁ!》
相手は中々強情だ。こちらから折れるしかないな。
「分かった!そのビクトリアワールドとかいう奴にはどうやって行くんだ?」
《まず、屋上から飛び降りて下さい。》
!?そんなことできるわけない…
「ふざけんな!そんなこと」
《平々凡々な自分に飽き飽きしていたのでしょう?》
「!!」
《それなら、己の道は己で、切り開くしかないのです。お願いします。どうか…》
「くそったれ!」
俺は屋上のフェンスに足をかける。そして、考えた。
(もし、ビクトリアワールドに行けたら、この平々凡々な自分から脱出できる?なら…やるしかないんじゃないか?)
意を決した。
「どうにでも、なれぇぇぇぇぇぇ!!」
飛び降りた。怖い。ギュッと目を閉じる。落下して行くのが分かる。
その時、光が自分を包んだような気がした。
ベチャ
無常にも、地面に落ちてしまった。
「っ!げふっ…うぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
足が動かない。視界が暗い。痛い痛い痛い痛い!!
「ちくしょう…なんなんだよ!ビクトリアワールドってどこにあんだよぉぉ!飛び降りただろう!」
また声が響く
《やはり、気が変わった。勇者は他のものに頼むことにするよ。》
はぁ…!?おかしいだろ、気が変わったって!飛び降りて、やったのに、なんなんだよ。
…意識が朦朧とする。ふっと窓を見る。
窓からはクラスメイト達、いや、同級生、先輩、先生が覗き込んでいる。
そして、皆が一斉に拍手をしだす。褒め称えるかのように。
あぁ、そういうことか。平々凡々な自分を変えられたのか。あの頭の声は俺自身だつまたのか。
薄れゆく意識の中、俺はつぶやく。
「やっと…俺を見たな……!俺の、俺の名前は……」
意識は途絶えた。
《幸せそうでしたね。この少年は。しかし、この世は神の気まぐれなのです。神様に飽きられたらもうおしまい。この少年は奇跡を信じたばかりに、痛い目を見ました。皆さんも、身の丈に合わない希望は持たないように。》