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タガタメノセカイ  作者: マルタマ
第零章
7/28

6話

 「全く、ライカさんも心配し過ぎなんだよなー」


 討伐依頼の受注は昨日のうちに済ましてあるのでこれから出発することをギルド側に伝えると受付のライカさんにいたく心配された。


「まあまあ、ライカさんにしてみれば僕たちもそこら辺のひよっこ同然なんだから仕方ないよ」

「昔から私たちのことを知っている分、特にね。だからこそ今回の仕事をこなして見返さなきゃ」

「ああ、分かっちゃあいるんだけど。でも何だかこうムシャクシャするっていうか」


 この感情は自分でもよく分からない。

 よく分からないから尚更ムシャクシャする。


 何故かリーリャがこっちをジト目で見てくる。

 エレンに至っては苦笑すらしてやがる。


「ああーもういいや。兎に角、気を引き締めて行くぞ!」

「一番集中してないのはダンなんじゃない?さっきからライカさんのことばかり考えて」

「何だと!」

「あーもう、二人ともそんなこと止めて本当に集中してよ。もうここは魔物が現れる区域なんだから」

「……ああ、そうだな悪かった」

「分かったわよ」


 魔物たちにも縄張りはある。

 その中を進んで行くのが冒険者だが、勿論危険は多い。

 冒険者の常識としてあまり魔物に気づかれないで行動するのは当たり前だ。

 リーリャとの言い争いなんて街に戻ってからやるべきことで、こんな所でやっていいことではない。


 それは分かってはいるんだけどな。

 俺っちは元々あまり物事を考える性分じゃない。

 よく親父からは考えるということをしろとか言われるし。


 ……よし悩むのは後回しにしよう。

 今は討伐依頼の最中。

 五感を尖らせてなけりゃ急に魔物に襲われるかもしれない。



「……やっばりおかしくないかい?」

「何だエル、何かあったのか?」

「いや何もないのがおかしいんだよ。もう依頼の指定区域に近いのに狼だけじゃなくて他の魔物が出す音もないんだよ」


 エルンの言う通り森の中はいつも何かしらの音がするのに今は一切無い。

 一瞬にして体全体から冷や汗が流れ落ちる。

 もしかして本当にこの仕事は危なかったんじゃ。


「どうする、ダン?」


 リーリャが不安気にこちらを見て来る。


 帰るべきなんだろうか?

 だけど、いくら親父の仕事を手伝っていたとはいえ経験に乏しい俺たちの勘で依頼を放棄していいのか。

 それに今回を逃したらいつ俺たちに討伐依頼が訪れることか。

 やっぱり帰るのは……。


「ダン……」


 エルンもリーリャも俺っちの判断を仰ごうとしている。


「あ~もう、わかった。一旦街に戻るぞ。だが親父に見守ってもらうよう頼んでみるから依頼は放棄しないぞ」


 それでは他の新人たちの討伐依頼と変わらないが仕方ないな。

 危険を冒す勇気は大事だが、命あってだしな。


「う、うん!」

「その方がやっぱりいいかもね」


 二人からは了承を得られた。

 やっぱり二人とも少し怖かったみたいだな。

 勿論俺っちは怖くはなかったけど。


 街に戻ろうと体を反転させた矢先、前の茂みからかすかだがはっきりと枝が折れる音が聞こえた。


「お、おい!」

「う、うん。僕も聞こえた」

「私もよ。ダ、ダン?」

「ああ、皆戦闘準備を!」


 新人冒険者がまず手にする鉄の剣を腰から抜き放ち、前の茂みに向かって構える。


 ……構えていても何の気配もして来ない。

 ここで時間だけを潰しても。


「う、うわぁぁぁ!」

「ダン!」


 恐怖と焦りで思わず茂みに突撃してしまった。


 敵は、敵はどこにいるんだ?

 茂みを探しても敵の影さえ見つからない。


「ダン、何かいた?」

「いや、何もいない。ウサギだったのかも」


 敵がいないと分かった瞬間、一気に気が抜けた。

 ははっ、ビビり過ぎだろ。

 振りかえんの恥ずかしいな。

 エルンとリーリャの笑い顔が見なくてもわかっちまう。

 ……パッと振り返って街に戻るか。


「よし、さっさと戻、エル!」

「え」


 それはほんの一瞬、刹那の出来事だった。



 振り返った瞬間。



 見飽きるほど今まで見てきたエルンの頭が……空を飛んでいった。

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