5話
「へへっ」
手元の小さな鉄板を見ていたら思わず声が漏れてしまった。
鉄版には俺っちの名前であるダンという文字と冒険者を表すマークが入っている。
昨日、待ちに待った誕生日がやってきた。
昨日で俺っちも十五歳。
十五歳は大人だと見とめられる年だ。
そして十五になった俺っちはようやくちゃんとした冒険者になったのだ。
年は十五だが、実は冒険者歴はこれでも長い。
何でかって?
それは……なんて勿体ぶって言うほど大したわけでもなくてただ親父も冒険者をやってるからだ。
この島、リャン島は『一応』イストール帝国の領土だ。
リャン島は魔物の数は多いが特産品も資源も見つかっていない上、帝国にとってさして重要な場所でもない。
他にも理由はあるが帝国から見放されてるのは変わらないから一応なんだけどな。
ここは元々は冒険者たちが集まってできた街でもあるので、帝国に属しているって感じはしない。
いくらかの税は取られっけどそんなに大した額でもないから皆何も言わない。
特に恩恵もないんだけどそんなもんだろ。
冒険者ギルドで冒険者の認定を貰えるのは十五歳から。
今迄親父の手伝いばっかして来たけど今は違う。
なったばっかでランクは低くいがそのうち伝説の冒険者といわれるアランみたいになってやるんだ。
「おーい、ダーン!」
向こうから俺っちの名前を呼ぶのはエルン。
ガキの頃からのダチだ。
「おう、遅いぞエル」
「はは、ゴメンゴメン。ちょっと寝坊しちゃてさ。あれ、リーリャは?」
「あいつも来てねえんだよ。珍しくな」
リーリャも俺っちの幼馴染だ。
俺っちとエルン、そしてリーリャの三人は小さい頃からずっと一緒にいる。
今も三人でパーティーを組んでいる。
戦士の俺っち、弓手のエルン、魔術師のリーリャ。
中々バランスの取れたパーティーだと自負してる。
新人の中でも上位に位置しているとも思ってる。
こんな所の新人なんてほとんどいないけどな。
「ごめーん、待ったぁー?」
向こうからリーリャがやって来る。
この中で一番遅刻なんてしない奴なのに今日に限って遅刻するなんてな。
「遅ぇーぞ!リーリャ」
「ハァハァ、ごめーん。パパから話聞いてて」
「話?何のだ?まさかまた冒険者になることについて何か言われたのか?」
「違うわよ。ほら、ここ数日竜の山で聞こえてきた音とかの」
「あー確かに何か聞こえてきたもんねぇ。リーリャのお父さんは守備隊の隊長さんだったよね。あの音の原因でも分かったの?」
「ううん、でも何度も山の頂上から竜の息吹が確認されたんだって」
「まじか!!」
帝国がここを見放した理由の一つ、というより最大の原因は竜がここに住んでいるからだ。
竜は魔物の中でも上位種。
いくら帝国でも、一匹ならまだしも何匹も相手にはしていられない。
そのくらい強い竜の主な攻撃手段が竜の息吹だ。
威力もさることながら様々な属性の攻撃が出来るのは竜ぐらいだけだ。
「なんでだ?竜なんて滅多なことじゃ暴れないのに」
「流石に近くに寄れないからよくわからないって。だからお前も危険なことはするなとか小言をた~くさん言われたわ」
「はん、もう俺らは冒険者だ。危険なのは当たり前だろ」
「そうだよね。命も大事だけど勇気も大事だから」
「ああ、それより早く依頼受けようぜ。やっと待ちに待った討伐依頼なんだぜ」
「そうね、ほんとやっとね。腕がなるわ」
基本、新人だけの討伐依頼なんてものは滅多にない。
大体は『お守り』と呼ばれる他の冒険者も一緒に来るものだ。
だが俺達は今までの評価が高かったからか、俺達だけで討伐依頼を受けることが出来たのだ。
「でも本当に大丈夫なのかな、その依頼?」
「あん、なんだ?今更怖くなったのか、エル?」
「違うよ。ただやっぱり依頼内容がおかしい気がして」
ギルドに届けられる依頼は大体ギルドが一度目を通す。
だからこそ冒険者も安全性を考慮してギルドを使うのだがたまにその目をすり抜けるモノもある。
依頼内容をうまくごまかして危険な目にあう人の話も良く聞く。
「だが依頼内容は狼の討伐だぜ。最近狼の数が多くなってきたのも事実だろ。他にも似たような依頼は多いし」
「だけど依頼内容にある場所がおかしいとは思わない?他のはどれも牧場に近いとこだけどここだけ人里から離れてるし」
「んなこといいじゃねえか。ちょっと遠いって言ってもそこまで離れてるわけじゃねえしよ」
「そうそう、それに何が起きても私達なら何とかなるでしょ。今回の依頼を逃したら次いつ討伐依頼を受けられるかわからないし」
「……うん、わかったよ。じゃあさっさと行ってさっさと終わらせちゃおうか」
「ああ、その意気だ!」
リーリャの言うとおりだ。
三人ならどんな敵が来ても何とかなんだろ。
それに冒険者の醍醐味はやっぱり討伐クエだしな。
今まで今日この日をどれだけ待ち望んだことか。
「よし、じゃあさっそく行くぞ!」
「「おおー!!」」