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タガタメノセカイ  作者: マルタマ
第零章
1/28

プロローグのようなもの

 いつ我は生まれたのだろうか?


 『自分』と『世界』の区別が付いたのはここ最近のことだ。

 その前に我に自我があったのかは判然としない。


 『自分』と『世界』の違いが分かってからこのような疑問を抱いた。

 それを『生まれる』と言うのだろうか?


 区別が付くまで思考というものはあったとは思うのだが、如何せんはっきりしない。

 兎にも角にも、我にとって生を受けるということは我と他との『区別』が付いたことだろう。



 さてここはどこなのだろうか?

 我に『体』というものがあるのは認識できる。

 いや、できたと言うべきか?


 まあそれはいい。

 肝心なのは、今の我の状態が分からぬことだ。

 ……周りを一先ず『黒』と名付けようか。

 他と区別するのに丁度いい。


 その中に一筋の『白』がある。

 あれはなんだろうか?


 ――!!


 『白』が近づいた!

 いや、これは我が動いた、のか?

 全く持って不可解だな。



 ・・・・・ 


 どうやら我は今の『白』が見える位置から動けるらしい。

 今のところは少し動いた、程度だが徐々に『白』に近づけることだろう。


 だが、おかしなことにその『白』はある周期を持って現れるのだ。

 そういうものだ、と言ってしまえばそれで終わりだが不思議とその現象に吸い寄せられる。


 アレに近づいてみたい。

 今はそれ以外に我の為すことがないからなのかそう思うのは当然だろうか。



 ・・・・・


 ふむ、大分『白』に近づけた。

 最初に『白』に近づいてから何度も何度も『白』が点滅した。


 その間に我は『数』というものを創りだした。

 始めを一としてその次を二とする。

 三、四、五、六、七、八、九と置きその次は十とする。

 後はその繰り返しだ。

 十を十個で百として、百を十個で千とする。


 これは『白』が現れる周期を数えていたら自然と考え出したものだ。

 最初は嬉々として数えていたが、千が千個を過ぎてから数えるのを止めた。


 もうすぐあの『白』に触れられる。

 今更ながら思うが、アレは触れてもいい物だろうか? 


 ……いや、構うまい。

 触れたからどうなるのか分からないならまずやってみて理解しよう。

 分からないことが多いなら分かるまで試してみたい。


 それよりもこの感情は何なのだろうか。

 アレに触れてみたいというこの抑えがたい気持ちは。

 『白』に近づくことで段々とその気持ちが高まる。

 一体何なのだろうか。



 ・・・・・


 やっとここまで来た。

 元いた所は『黒』のせいでわからない。

 遠いのか近いのかもわからない。

 だがここまで来れた。


 後はこの『白』に触れるだけだ。

 しかし、何も起きなかったらどうしようか。


 起きても起きなくても我に変化は訪れないかもしれないが。

 ……今、我は変化を欲したのか?


 そうか、この感情は欲求という物なのかもしれん。

 だが、何故我はそのような概念があるのだろうか。

 不可解だ。

 分からないことが多すぎる。


 それよりも、さっそく『白』に触れてみようか。

 何が起きても良しとしよう。

 そもそも我には『黒』と『白』しかないのだから構わない。


 『白』に我が触れ……られずそのまま『白』を通り抜けた。

 どういうことだ?


 何かが起きたわけではない。が、欲していた変化の無さに言いようもない不快感が沸き起こる。

 知らず知らずの内に何かを期待していたのかもしれない。

 いや、しれない、ではなくしていたのだろう。


 思考の渦に身を置くのもいいが、今は目の前の光景を判断しよう。


 目の前は『白』と『黒』が混ざり合っている。

 混ざり合っている、というべきかは分からない。

 むしろそれぞれが別のものとくっきり分かれているようにも思える。


 ただ『白』は変わらずただ悠然とそこにある。

 一方『黒』は今までのようなものではなく、形?がある。

 一、二、三、四、五。

 何かの塊に五本の棒がくっついている。


 徐々に我の視点の起点を『白』へと移してみる。

 すると『黒』は大きくなり『白』の大部分を覆った。


 ゆっくりと観察する。

 先ほどの五本の棒が近くに二つ。

 遠くにも二つ。

 そこから大きな棒が中心へとつながっている。


 ……もしかしてこれは『我』なのではないだろうか?

 だとするとこの『白』は我の体を我に見せるためのものか?


 にしてもこの『白』の中は気持ちがいい。

 これは……『暖かさ』か?

 何故か分からないが、これは『暖かさ』だ。

 『暖かさ』のお陰か、体全体に何やら脈動を感じる気がする。


 ここまで来るのに我は頑張った。

 頑張ったのだ。

 しばらくこの『暖かさ』を浴びていよう。



 ・・・・・


 我には様々な部位があった。

 まずはそれに一つ一つ名前をつける。

 右腕、左腕、右足、左足、胴体。


 今まで我だと思っていたのは右腕だけだったのだが、『白』のお陰で他の部分があるのが分かった。

 おそらくこの全てが我なのだろう。


 試しに他の部位も動かせられるか試してみた。

 最初はうまくいかなかったが、一度動かすとすぐに慣れた。

 今では『立つ』『歩く』という動作すらできる。

 しかも視点から近い腕で行うのではなく、遠くの足で行ったほうがスムーズに行くのだ。


 調子に乗っているとしばしば動くことができなくなる時がある。

 大抵は少ししたら動き出せるが、『白』の中にいるとすぐに復活する。

 試しに『黒』の中と『白』の中にしばらくいた後、動けなくなるまで歩いた。

 結果、『黒』の中にいた時よりも『白』の中にいた時のほうが動ける時間が長いことが判明した。

 これからは出来るだけ『白』の中にいることにしたほうがいいな。



 あれからどのくらい経ったのだろうか。

 『白』に関しては分からないことがあったが、今の我にとっては我に力を与える気持ちい存在としか見ていない。

 それよりも、ほんの時々だが『白』が現れる空洞から『青』が見えることがある。


 距離は遠い。

 かなり遠い。

 だが『白』にたどり着いた我ならあそこにも行けるかもしれん。

 問題は真上にあることで歩いては行けないことだ。


 さてどうするかな?

 何度か試してみて分かったが、あそこには歩いて行くことは出来なかった。

 やはり白は触れられないのだ。

 つまり足を使うことは出来ない。


 なら腕を使えないだろうか。

 我ならそのままあの空洞をよじ登れはしないだろうか?

 何でも試してみよう。



 結論を言うと、出来た、の三文字だ。

 我の体と空洞を比較すると、我の体のほうが大きい気がしたが簡単に空洞の中に入れた。


 歩くよりは速さは遅くなるが、『白』に近づいていた時の速さとは比べ物にもならない。

 時たま『白』が消えるが、その時は我も動くのを止める。

 その間我はすることがないため暇だ。


 『暇』とは最近我が創りだした言葉だ。

 これを創りだしたからこそあの『青』に向かっているといっても過言ではあるまい。

 その為この『暇』の状態になった時は『睡眠』とい状態によく入る。


 ただ思考をしない状態になるだけなのだがこれが意外と効果的なのだ。

 これをするとまた『白』が現れるまでの時間が短くなるのだ。


 『睡眠』を行っていると『白』を感じた。

 さっそく『青』に向かうのを始める。


 ただただ腕を動かす。

 今日は『青』はよく見えないな。

 『青』が見える日は少ないので仕方ないが。



 ・・・・・


 おそらく今日であの『青』にたどり着くだろう。

 今日は『青』がよく見える。

 近づくとはっきり見えるのだろうか?


 もうすぐ空洞が終わるのが分かる。

 あの終わりから出たら何が起きるのだろうか。

 分からない。

 だからこそ試したい。


 どうこう考えているともう空洞の終わりに手をかけた。

 そしてそのまま体も外に出すと……


 何なのだろうか、これは?

 視界から認識できるのは『青』だけではない。

 『緑』『茶』『赤』……

 様々なもので溢れている。


 ……素晴らしい。

 この胸の高まりは『感動』と名付けよう。



 いつ我は生まれたのか?


 今なら断言できる。

 我はこの『感動』を手に入れた瞬間、本当に『生まれた』のだ。

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