ある日の夢
「男子校なんてつまんない。」
そう言って、女子校に入学した男がいた。
親戚のコネを使って知り合いの経営する私立の学園に入学し、三年間性別を偽って過ごし、卒業した。
入学する際、条件として、入学筆記試験で三位以内にはいること、生徒会に入ること、性別を偽っていることがバレた場合はすぐに学園を去ることなどを出され、それらを飲み込んだ。
幼なじみで、その学園に共に通う女子生徒の協力を得ながら、交換留学の時に相手国に住んでいた幼なじみ(男)を女装させて交換相手に抜擢したりなど、色々周りをひっかき回しながら、しっかりと修学旅行などもこなした。
「という夢を見ました。」
朝からとなりのクラスを訪ねてきた幼なじみを見上げ、今朝のことをはなす。
「私、そこまで女装好きじゃないぞ?」
困惑したような表情を、彼は作っている。
それがわかるほどには、仲がよかった。
実際、彼に女装させられたことは過去に幾度か。本人ももちろんする。
「やりそうで怖い」
「そんなコネないし」
嘯くな。
「この学校、キョーは理事長と知り合いで、そのおかげでその髪型が許されていて、先生方には目の上の瘤だとか。」
彼は前髪がとても長い。女生徒でもここまで長くはない。その前髪を中央で分け、五本のヘアピンで留めている。
本来なら校則違反のそれが、彼に限っては、許されていた。
教師とすれ違う度に嫌そうな顔をされるのを、よく目撃していた。少なくとも表面上は、その事に対して彼は気にしていないようだったが。
「それはある。」
「なら女子校にも知り合いいるんじゃないですか?」
軽い冗談のつもりだったが、1厘くらいは本気が混ざっている。
「隣の学校──中学だけど、理事長の奥さんの弟とは知り合いだけど、さすがにコネ入はできないって」
隣の学校の理事長は奥さんにあまあまで、それはその学校の教師でもある奥さんが旅行に行きたいと言ったら急に遠足を企画したりするくらい。
理事長の奥さんは結構イタズラ好きで、家族と――特に弟さんと、仲がよかった気もする。
「今からでも転校できそうですね。」
僕たちは今中学生ですから。
「マオ何言ってんの?」
「いえ、実際に体験してきてもらおうかと思いまして」
もちろん冗談だ。
性別を偽って入学できるのは、フィクションに限る。
「……交換留学はないけど、似たような制度があった気がする。」
かなり本気度の濃いその発言をきいて、彼ならばやりかねないのでそろそろふざけるのはやめようと思う。
「ではやはりやめておきましょう。
フィクションはフィクションであり、ノンフィクションであるべきではないですから。」
「行ってこよっかな。
……マオ推薦しに」
「僕は男です。」
「だから女装させて呼んだんだろ?」
今朝の夢ではそうなっていた。
だが僕は留学する気はないし。
「夢の中の話です。」
「フィクションをノンフィクションに」
「しないでください」
「マオならバレないって。」
僕はそんなに女顔ではないと思う。
彼に女装させられて写真を撮られて彼のブログにアップされて可愛いとコメントが来たことなどもう過去のことだ。
「なんなら私もついてこっか?」
「それがやりたいだけでは」
図星だったのか、少し表情がひきつった。
「じゃあ行ってくる」
ターンして教室を出ていこうとしたのを、袖を掴んで引き留める。
「やめてください!」
「冗談だって、冗談。」
手をひらひらと振ってくるが、彼は冗談のようなことを平気でやってのける。信用ならない。
「冗談に思えないから怖いんですよ」
「じゃあ本当にしよう。
フィクションをノンフィクションにー!」
「しないでください!」