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ユナリアの旗の下に  作者: 綾織 吟
一章 精霊使いの怪盗
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4話 怪盗の名

「琥珀の花」それはユナリア公国第一王女アニア・ネールス・ユナリアを指す。

旅人は目を疑った。いくら街外れとは言えども、一国の王女が朝から来るとは考えられない。警備の騎士が数人居るとしても、考えられない。

旅人は見つかるのも拙いので黙って身を隠していた。だが……

「ちょっ、エリル!」

ガサガサ、旅人の側に居た銀狼が茂みから飛び出し、湖の方へと出て行ってしまった。

もちろん、警備の騎士達はそれにすぐに気づき、剣に手を掛け、警戒した。

だが、剣を向けようとしているのは高位精霊フェンリル、戦えば命は無い。

「エリル!」

旅人は慌てて茂みから姿を出し、銀狼に駆け寄る。

旅人はエリルを護ろうとしたのでは無い、誰も殺さないようにしているのだ。

いくら精霊使いとは言えども、従えるのは人間より高位の存在、限度があるのだ。

「何者だ、貴様!」

剣を抜き、剣先を旅人に向ける騎士だったが、銀狼はそれを威嚇するように「グルルルルルッ」と声を上げ、睨み付けた。

それを見ていた王女は目を見開き、驚きを隠せなかった。

驚いたのはその光景にでは無い、銀狼と旅人の素顔を見て驚いたのだ。

「お、俺は……」

旅人は返事に困った。

旅の人間と答えればいいのだが、怪しまれることには違いない。

「お止めなさい!」

刹那、王女の一声が放たれた。

騎士たちはそことに言葉を失った。唖然とし、王女の方を見た。

「琥珀の花」と称された彼女の異名はその可憐さが称されたもので、決して大声を上げるような人ではないからだ。

先ほどまで威嚇していたエリルも黙り、敵意を解いていた。

「なにをしているのです、今すぐその剣をお退けなさい!」

「し、しかし、あの者が曲者だという可能性は大いにあります」

反論するように騎士はそういったが、覇気は感じさせないものだった。

「曲者であるのなら私が歌っているときに殺していたはずです」

「……はっ」

騎士は言い返す言葉もなく、言われるがままに剣を鞘におさめた。

旅人はそことに対して胸をなでおろし、ホッと一息ついた。

「すみません。ご迷惑をおかけしてしまって」

「いえ、こちらこそアニア王女の美しい歌を立ち聞きなどと無粋なマネをしたのですから、ここで切り捨てられてもおかしくない立場、命を助けていただけただけでもありがたく思います」

旅人は一礼した。銀狼は旅人の後ろに隠れ、チョコンと座った。

「あの、失礼でなければお名前を聞かせてもらえませんか?」

「…………申し訳ありません、名前がありません」

旅人言葉は衝撃のものだった。

名乗れるような名前が無いわけでは無い、名前が無いのだ。あるいは元の名を捨て、今は自分の名を持たないのだ。

「貴様!何をふざけたマネを!!」

騎士が再度剣に手を掛けようとしたが、それより先に銀狼が威嚇した。すると湖の水がペキペキを音を立てながら凍り始め、当たりの草木も凍ってゆく。

「ふざけては居ない、事実、今他人に名乗る名は無い」

「……分かりました。お答えしづらかったでしょうに、ありがとうございました」

王女は何処か残念そうに言葉を返した。その言葉には元気が無く、しょんぼりとしていた。

「滅相もございません」

旅人は一礼し、その場を後にした。

銀狼は先ほどまで威嚇していたものの、旅人がその場を去ると同時に威嚇を解き、旅人を追うようにして白い霧のような物をたてながらその場を去った。

王女が旅人の後ろ姿を失うまで見ていると、ふとあることに気がついた。先ほどまで凍っていた湖や草木はいつの間にか元に戻っており、先ほどより暖かくも感じることが出来た。

「幻だったのか?」

そう首をかしげる騎士であったが、王女はクスリと笑った。

「銀の旅人さん」

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